夏合宿 石鎚山墓場尾根クライミング


松林

2022年8 月11 日(木)~13 日(土) (係)吉村

参加者:松林、田野

夏合宿を久しぶりに「穂高で岩登り」で企画して参加者を募った。前穂高岳東壁周辺・北穂高岳滝谷などを念頭に入れて、ルート選択などを考えてみた。夏が近くと、参加者が勤務の都合などで絞られてくると今回登った3 人になってきたので、「穂高で岩登り」の目的は変えず、奥穂高岳南稜と北穂高岳東稜の岩稜登攀に変更することにした。事前練習は5 月三倉岳中の岳ノーマルで血みどろ、7 月窓が山でぬれドロ、6 月7 月天応2 回とも雨でずぶ濡れになりながら行なった。そして8 月合宿直前になって、今度は台風の影響で現地は悪天予報。しかし諦めません。比較的天気がよさそうで土地勘のある石鎚山のクライミングに、変更転進です。結果、墓場尾根下部と上部を繋ぐ7 ピッチを登り切ることが出来た。何よりの成果は、事前練習も含め田野君がクライミングの楽しさに目覚めてきたことである。 (記:吉村)

<行動記録> (記:田野)
今年の夏合宿は当初、吉村リーダーにより岳沢泊地から奥穂高岳南稜を超え頂上へ。ザイテンを下って涸沢泊。翌日北穂高岳東稜から大キレットを越えて、南岳新道を下り槍平小屋へと至る、8月11 日出発15 日帰広の4 泊5 日で企画されていた。今年お盆休みが15 日を中心に、前半になる人と後半になる人がいるようだが、前半で都合のつくメンバーが揃わず、結局当初から予定を入れていた今回の3 人で決行することとなった。
出発日が近づいてきたが、ここで悪天候問題が浮上してきた。今年の梅雨は異例な速さで明けた(宣言の見直しが入っているとのこと)が、その反動か、ちょうど山行予定日に日本海に前線が停滞し日本列島全体にしばらく雨天が続くとの予報が出された。まるで梅雨の戻りである。しかも最悪な事に同タイミングで台風が東日本に近づくようだ。
SCW でもちょうど核心となる13 日と14 日は雨の予想である。このままでは岳沢で沈殿するためだけに出向くようなものなので各自転進先を探す。しかし台風の影響もあり日本列島のかなり広い範囲で悪天候が続くようで、雨を避けられる転進先はみつからない。そこに松林さんから転進策が3 つ出された。
① このまま変更なしで決行し現地の天候をみながらルートを決定する
② 四国赤石山系の沢登りに転進
③ プレ夏合宿で企画していた石鎚山クライミングに転進
①は現時点の気象状況ではやはりリスクが大きい、②は大幅な装備改変の上、大掛かりな企画の変更がせまられる。最終的には装備や食料計画を変えずに随時天候を見ながら臨機応変に行動を決める事ができる石鎚山のクライミングへの転進で夏合宿を決行することとなった。

<1 日目 8/11>
本日は移動のみのため午前10:00 吉村さんと松林さんが廿日市を出発。10:45 に小谷SA で田野が合流となった。時間があるので下道を多用しながらしまなみ海道を渡って四国へ上陸した。本日は山の日のためかUFOラインには車やバイクがとても多い。ここは3人ともよく通る道ではあるが全員こんなに車が多かった記憶はないと同意見。離合にうんざりしている吉村さんが運転する車はやっと今日の宿泊地である「しらさ避難小屋」に到着した。筆者は、しらさ避難小屋の名前は知っていたが、宿泊は今回が初めてである。この小屋は道路から少し入ったところに立地しているせいか、このハイシーズンにも拘わらず宿泊は我々3名だけであった。情報であるが、水は近くの「山荘しらさ」でもらう事ができる。今回水をもらいにいくと外の水道栓は飲用可で24時間利用できる事を教えてもらった。しらさ避難小屋で残念なのは小屋内では携帯まで電波が届かない事で、天気予報を見るには車を駐車している稜線まで5分ほど歩かなくてはならない点である。松林さんが就寝前に稜線まで上がって明日の天候を見てきてくれた。明日の午前中、雨は避けられそうだが14時頃からもしかすると一時的に雨が降るかもしれないとの事である。この情報を元に3人で明日の計画を立てる。明日は雨の可能性が少ない午前を中心に、墓場尾根か北壁トイルートのどちらか、または両方をクライミングする事になった。外は霧である。小屋には立派な網戸もあるので、すべての窓を全開にしたが、この日は台風の影響か湿度が高く標高の割には蒸し暑かった。就寝。

<2日目8/12>
3時30分 起床
5時00分 しらさ避難小屋出発
5時30分 土小屋駐車場を出発
まだ暗い中、装備を整えヘッデンで出発したが霧が濃い。午後からの天気が心配である。土小屋は標高が高いので石鎚山まで標高差は殆どなく、一番楽に石鎚山へアプローチできるコースである。途中日の出が拝めたが雲が多く、あまり綺麗な朝焼けにはならなかった。東稜コースとの分岐を超え、ロープウェイからの道との分岐に到着。ここから頂上はすぐである。
7時50分 石鎚山頂上
今日は平日のためあまり人気はなく10人くらいか。京都からの登山者達と会話を交わす。天狗岳には以前は岩稜の下に笹の巻道があったのだが、自然保護のため現在は通行禁止になっており、岩場を歩くしかない。スリリングだが、わざとそうしているとしか思えない。危険でもあるので、自然環境に影響を与えないように整備して巻道も通行可能にすべきではないかとの意見が出た。北壁のトイルートと墓場尾根の両方か片方か天気と時間によって決める事になったが、まずは岩が露出して乾きが早いと予想される墓場尾根へ。天狗岳を過ぎ岩稜を進むと南尖峰が現れる。南尖峰より墓場尾根に向かって右手(西側)を岩場沿いに下る。墓場尾根を目指すクライマー達によってつけられた踏み跡があり、テープもちらほら見える。ここを慎重に下っていく。踏跡は岩場と笹原との際なので、開けており明瞭である。上部岩場下部にまで降りるが、墓場尾根には下部ルートがある。下部岩場へは、上部岩場の下端より10m程上方で岩場を稜線側へ横断し、稜線付近~西側を下る。
密集した灌木の間を縫うように進むので、あまり気持ちよいものではない。確保のないフリーの状態のため場所によっては落ちたらアウトで本番より怖いかもしれない。木や笹に掴まり慎重に足元を見極めながらクライムダウンする。
しばらく下降するとようやく墓場尾根最下部に到着しここを登攀開始点とした。

9時20分 登攀開始
足元が悪い中を登山靴からクライミングシューズに履き替え、トップは松林さん、ダブルロープで吉村さん、田野が続いて登り始める。

下部1ピッチ目

下部1ピッチ目、出だしは草付きで昨日の雨の水が流れ落ち、まだ濡れている状態で滑るため慎重に登る。すぐに藪になるが、もがいて進むとやっとゲレンデと呼べる岩場が面前に現れた。
ここからはほぼ岩の状態もドライになった。ハング気味の箇所もあり、資料によるとこのピッチが核心だと書かれていた。三倉岳の中ノ岳ノーマルで吉村さんが三倉ではここが一番簡単な方と言われていたが、初見の自分には大いに難しかった。しかし同じ三人であそこをやってからここへ来たので落ち着いて登攀できたと思う。やはり経験しか勝たんである。

ピッチごとの終了点には古い錆びたハーケンが打たれており、クラシックなクライミングルートである事を感じさせる。終了点で過去ここから景色を眺めてきた先人達を想う。
下部2ピッチ目は切れ落ちたナイフリッジを渡り、左の側壁伝いに、剥がれた薄い岩のエッジを踏んで進み、岩間を抜ける。岩の状態が悪く手をかけると動く岩ばかりで怖い。手をかけて動いてとれてしまった岩をコールして下に落とす。ここを登りきると南尖峰が眼前に聳え、すばらしい眺めが望める。高度感抜群で気持ちがよい。下りになる手前でピッチを切る。15m程度。

眼前の南突峰

下部3ピッチ目、鞍部へ向けてクライムダウンし、墓石エリア基部の立ち木まで歩く。
下部4ピッチ目、墓場尾根の名前の由来である柱状節理で割れて突き出した棒状四角柱の岩を乗り越えていく。この墓石エリアは岩場沿いに巻道もあり省略もできたが、メインディッシュを登って良かった。最後のクライムダウンも容易。この時西の稜線から雲が湧き上がってきてゴロゴロと雷の音がし始めた。予報通り14時から雨なのかと心配になる。
長短4ピッチを切って墓場尾根の下部側のルートを終了して休憩とし、行動食を摂る。ここから上部側への移動で藪漕ぎをするため、一度靴を履き替える。
踏み跡があるとはいえ出っ張っているものはひっかかりまくるので行動は容易ではない。あらゆるものを掴みながらずりあがる。墓場尾根の上部側、南尖峰下の取りつき地点に到着。靴を履き替え再度登攀体制に入る。それにしてもアブ(ブト)が多い。松林さんが持参したハッカスプレーの虫よけがすばらしい効き目なので吉村さんと田野も使わせてもらった。何度も使ってしまったので申し訳ない気持ちになる。この時期強力な虫よけが必須である。

上部1ピッチ目、南尖峰出だしの斜度は緩いが上部が急にせりあがっており一部ハングしているため少々手こずる。吉村さんが手がかりのシュリンゲを残してくれて助かった。
ここにはリングボルトがありここでピッチを切る事もできるようだが、松林さんはもう一段高い場所でピッチを切ってくれていた。

上部1ピッチ目

上部2ピッチ目、数メートル進んで慎重にクライムダウンする。鞍部から先は左右のルートがあり左側の直登と右の回り込みがある。筆者は迷わず右を選択。ここを6~7mほど登った箇所で残置ハーケンと念のためのカムで終了点を作り、ピッチを切る。5年前に吉村さんが来られた時は右手からこのまま東稜の踏跡に抜けたとのこと。後日過去の記録を松林さんに見せてもらった。
上部3ピッチ目、もうゴールの南尖峰はそこに見えているが意外と距離があるので、ここも慎重にロープを出してトラバース気味に通過する。
14時30分 最終終了点到着
開始より下部4ピッチと上部3ピッチ合計7ピッチで5時間。雨はなんとか持ちこたえてくれた。しかしこの時間では北壁トイルートをこれからやるのは無理であろう。筆者の次の課題はスピードのようである。

クライミングを終了し慎重に天狗岳を越え下山に移る。途中アブミを並べていたクライミング集団に声をかけると今日は北壁のトイルートだったようである。この3人組は土小屋駐車場の車が福山ナンバーだったので、もしかすると福山山岳会だったかもと吉村さんが言われていた。

帰りの天狗岳上で記念写真

今日は幸運な事に雨にはならなかった。土小屋ルートを下っていくと晴れ間も見えてきた。下界はどうやら晴れのようだ。吉村さんが下山中に胸の辺りが痛いと言われる。朝こけた時に胸を思い切り打ってしばらく立ち上がれなかったので心配である。肋骨に影響がなければ良いのだが。(後日記:大丈夫だったようです)
17時00分土小屋着12時間行動で無事に小屋まで帰ってくることができた。これまた情報ではあるが、土小屋には缶ビールが販売されている。ちなみに350ml缶しかない。
しらさ避難小屋に戻り夕食を取りながら翌日の行動について打ち合わせる。今日は昨日と異なり、湿度も気温も昨日に比べると低いのでとても快適である。明日は寒風山との意見もあり、明日朝の天気次第で決めようという事になった。深夜かなりの強さで雨が降り、風も強いようである。やはり台風の影響が出ている。

<3日目 8/13>
4時30分起床、小雨が続いている。風も強い。今日は長時間の行動は難しいかもしれないとの予想をしながら朝食を取った。朝食を取り終わる頃には少し雨風が収まってきて明るくなってきたが、天気予報は降ったりやんだりと安定しない予報である。
7時00分、道中UFOラインから少し稜線に上がってみたが霧が出たり晴れたりである。雨も予断できず、長時間の活動はできないようなので吉村さんの判断で今日は潔くすっぱり諦めて帰広することになった。

筆者の今年の夏休みの宿題はクライミングで、三倉岳、窓ヶ山、天応なめら岩と夏合宿に向けて連続でクライミングに取り組んできた。一生懸命はつらいけれど楽しい。あと何年山をやれるか分からないが新しい次の目標をまた立ててみようという気になった。この夏は吉村さんと松林さんには本当にお世話になりました。良い夏でした。ありがとうございました。 (記:田野)

南突峰からの墓場尾根

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