四国赤石山系・瀬場谷 沢登り


松林

2017年6月03日(土)~4日(日) 係:松林
参加者:吉村、川本
<行動記録>
 夏合宿へ向けて、宿泊装備を担いで沢に入ることを目的として、プチ遠征の沢登りを行った。瀬場谷は、本には「名瀑八間滝を見て無数の滝場をこなしていく気分は最高」。個人のインターネットのページには、「滝・滝・滝の連続で、そのほとんどが直登出来る、まさに”沢登りのための沢”」等と書かれており、非常に期待が持てる沢だ。
 交通費節約のため、“しまなみ海道以外は下道走行の計画”としたが、国道2号線・東広島バイパスの上瀬野IC出口で渋滞にはまり、東広島での合流が30分も遅くなってしまった。この30分が後ろに響き、筏津に着いたのが予定の30分遅れの14:30。急いで準備して瀬場谷へ向かう。

 銅山川沿いの道を10分ちょっと下り、瀬場谷川に架かる橋の袂のガードレールにスリングを掛け、段差を処理して入渓する。入ってすぐに、西中国山地とは岩質が違うことに気が付く。説明を省くと、早い話、この岩質は摩擦が効きやすく、沢ヤにはありがたい。
 沢は序盤から比較的傾斜が強く、数m~10mの滝が次々と現れる。渇水期で水は少なく空も晴れだが、濡れると寒いので釜のへつりは慎重にこなす。それでも釜の数が多く、メンバーが3人いると、誰かが失敗して“腰までドボン”となる。
 発電所の取水口を過ぎ、入渓後1時間を過ぎたあたりで八間滝に到着。“はちまの滝”と誤読する川本くんに、吉村さんから「間」は長さの単位で...と説明が入る。落差は50m程で、八間より随分高い。弱点を突けば意外と登れるかもしれないが、はっきりと見えない抜け口が核心部だろう。30mロープでは上手くいって2ピッチ、時間も押していていたことと怖さが勝り、教科書通りの右岸の高巻きを選択する。高巻きはガレ場の登りから。沢の序盤の4段15m滝の巻きでもそうだったが、踏み跡があってもガレ場であるが故に、普通は動かないサイズの石(岩)でも体重をかけると動くため、神経を使う。ガレ場を抜けると草付きへ、散立する木を伝って高度を上げる。斜面の上方にはブッシュ混じりの黒い大岩壁があり、この上を登山道が通っている模様。草付きを経てトラバース気味に樹林帯へ入って行くと、滝の落ち口へ向かう尾根を越え、無事に沢に復帰する。30分。過去最長の高巻きだった。
 その先も5分に1回程度の頻度で3~10mの滝が現れ、一つ一つ登って行く。落差5m程の“裏見の滝”は、水が張り出した岩を飛び越えて釜へ落ちており、左岸側からそのハング岩の下(滝の裏側)を横切って右岸側の岩壁を登る。川本くんが空荷で抜けて、残り2人はお助け紐を使って登った。
 時間も押してきていたので「テン場を探さにゃいけん」と言い始めて数分進んだところで、吉村さんが左岸側に平地を発見する。L字の支柱が立っており、四国電力の管理道の途中のようだ。装備を片付けてツェルトを張り、薪を集めて火を熾す。晩飯は川本くんが準備した麻婆丼とウインナーの串焼き。コッヘルを焚火に突っ込みっぱなしで真っ黒になり、後処理が大変だったが、米は炊き加減が良く、美味しい麻婆丼になった。

 翌朝は放射冷却で良く冷え、暖を取るのと朝食のため、再び薪集めから始まる。「焚火のそばで寝たい」と横になっていた川本くんは、1時間置きに起きて太い薪を動かしていたそうだ。麺類とお茶で体を温め、装備をまとめて再出発する。
 大きな右俣を分け、昨日と同じように連続する滝をこなしていく。20分ほど進むと沢を横切る登山道の橋に出て、黄緑色のヘルメットを被った釣り師に出会う。先を進んでいた川本くんが「釣れますか」などと、よくある質問をしているが、話が“この先はどうするのか”に及ぶと、釣り師が「先に入渓した者にその沢の占有権が発生する」と真顔で言ってくる。釣り師は「家を3時に出て来ているんだ」とか「他の沢へ行けば」とか言うし、我々は「広島から遙々来ているし計画書から外れたルートは調べてもないし入れない」と押し問答になる。最終的には釣り師から出された、「私は次に登山道が横切るところで釣りを止めるので、あなたたちはそこから先は遡行して良いですよ。」という懐柔案に従うことにする。

 腹の底がムカムカしたまま登山道を進む。楽しいはずの沢登りが台無しだ。屁理屈ではあるが、良く考えれば入渓したのは我々が先であり、“沢の占有権ルール”を適用するのであれば、我々が占有権を握ることになり、釣り師が先回りしてルールを主張していただけのこと。ということになる。後々調べてみると、“沢の占有権ルール”は一般的に、釣り師同士でのトラブル防止のためのマナーのようだが、それを対沢ヤにも適用するのは勝手なことで困る。神奈川の世附川という川では渓流釣りのメッカで、誰もが通る漁協の小屋で“沢割り“をするというシステムが取られているそうだ。渓流釣りがメインで漁協に管理された場所なら良いシステムなのだが、今回のような沢で“釣り師に会った瞬間沢登り中止”はあまりにも厳しい。自分なりの結論は、沢ヤは釣り師が入るような沢には入らない。釣り師は沢ヤが入るような沢に入らない。これでトラブルの発生は少なくなる。しかし、会ってしまったら...沢ヤ目線では、「沢は個人の所有物ではないので、“沢の占有権”など無い」と主張するだろう。結局自分に都合の良い考え方をするだけなのである。ちなみに後日、小此木さんから聴いた、大前さんと沢登りをしていたころの話では、対釣り師のセリフは「漁業権持っとるんか?」だったそうだ。

 話が逸れたが、登山道が再び交差する標高約1220m地点より再入渓する。沢自体の傾斜が緩くなり、残りはほとんどが滑床、滑滝だった。西中国山地ではナメが続くことは少ないので羨ましい。順調に最後の区間を進み、標高約1380mの登山道出合に出て、ここで遡行終了とする。

 時間に余裕があるので川本案の「八巻山を登りたい」に付き合うことになり、登山道を登って行く。笹から紫色の穂が出てその先に黄色い花が付いており、吉村さんから「これは珍しいこと」と教わる。その少し先では、久々に花の咲いた石楠花を見る。樋状のような登山道に赤い石がゴロゴロし始めると、赤石山荘へ到着。そこから右斜め上へ岩々の中を登って行くと、大きな命名“ゆるぎ岩”のところで主稜線に到達する。そこから尾根通しに岩場を進み、山頂付近は回り込むようにして八巻山の山頂に到着する。晴れていて周囲の山々や瀬戸内海側の市街地も良く見え、釣り師のおっさんへのムカムカも解消された。
 来た道を戻り、出渓場所でデポしたザックを回収し、筏津の登山口へ向かう。八間滝は登山道からは遠いが、樹間から覗いて見えた。川本くんはまたしても“はちまの滝”と誤読していたが、吉村さんの教えを覚えていてくれるのだろうか?
 筏津に無事下山し、荷物を纏めて帰路に就く。新居浜市内でうどん屋に入り、係はうどんの“コシ”がどういうものなのかを初めて悟った。その店は閉店予定で再び行くことができないのが残念だが。広島までは、前週から延期になった“誕生日パーティ”に間に合わせるため、高速道路利用でスイスイと帰っていった。
(記:松林)