南アルプス赤石岳


三谷

月日:10月6日~9日
参加者:横山、吉村、島本、松原

10月の三連休を利用して赤石山脈の主峰赤石岳(3120m)に登った。この冬、赤石岳東尾根を目指す予定。その下見山行である。
金曜日夜、広島を出発し、夜通し走る。伊勢湾岸道路、新東名を経由で静岡へ。臨海コンビナートの七色に輝くイルミネーションが大変美しい。
道中雨が降っていたが、明け方には低気圧の本体は通過した。畑薙第一ダムの駐車場では小雨が残っていたが、行動に大きな支障はなさそうだ。
この先、一般車両は入ることができない。登山基地である椹島までは東海特殊フォレストの送迎バスで移動する。バス停にはすでに数名が並んでいた。荒れた林道を1時間ばかり走る。
椹島は、荒川三山、聖岳、赤石岳方面の登山基地となっている。東海特殊フォレストの山林事業所、および、椹島ロッジを初めとする宿泊施設、キャンプ場、売店などがある。テントをコインロッカーにデポして、登山を開始する。
雨の中、カラマツの並木を歩き、赤石岳東尾根(東海パルプ創業者大倉喜八郎にちなんで大倉尾根ともいう。大倉氏は大成建設やサッポロビールなどの企業を興した)の登山口へ向かう。
針葉樹林の急な斜面をつづら折れに登ると、カンバ段という開けた場所に達する。もみの木や檜などの針葉樹林から、針葉樹と広葉樹の混交林、苔に覆われた雲霧林のような樹林、ダケカンバ帯へと植生が変化していく。特に、苔むした倒木に、靄がかかった森は幻想的で目を楽しましてくれる。2000mを超えるあたりから紅葉が始まっていた。

紅葉
紅葉

本日一番の踏ん張りどころ、歩荷返しの急登を登りきると、赤石小屋がある。新築の本館で宿泊の受け付けをする。宿泊料にバス運賃を差し引いた額を支払う。領収書は帰りの便に必要なので大切に保管しておかないといけない(これがないと乗車できない)。水はタンクの雨水を無料で使うことができる。素泊まりの宿泊者は、場所を別館の方を指定された。土間とコの字状の板の間のシンプルな構造である。ここが冬期開放小屋になる。赤石岳周辺の小屋は、改築されてキレイである。宿泊者は、本館、テントを含めても十数名程度と少なめである。まもなく閉館となるためビールが半額だった。
天気は不安定で、霧雨が降ったりやんだりである。残念ながらテラスからは赤石岳を見ることができなかった。炊事場がないため、雨をしのいで入り口の軒下で食事をする。夕食はラーメン・チャーハン、ポテトサラダである。幸い寒さを感じず、ぐっすり眠ることができた。
翌朝、麺で食事を済ませ、小屋にデポする装備を預ける。軽装で往復できるので大変助かる。冬はそういうわけにはいかない。それを考えると少々気重になる。
日の出とともに出発。富士山からのご来光を拝むことができた。小屋より、聖岳方面に縦走する単独行者と前後しながら同行する。
出発から1時間弱で富士見平に出る。その名のごとく、雲海に浮かぶ富士山を拝むことができた。富士山が神々しく黄金色に輝く。最高のビューにあちこちで歓声が上がっていた。こうして見ると、富士山は日本人の心の拠り所として特別な存在であることがわかる。

富士見平にはテントを張るスペースが数カ所ある。吹きさらしで風が強そうだが、登高距離を考えると、ここまで足を伸ばしておきたい。また、ここより上部は望めないし、寒気の厳しい稜線に長時間滞在するのは得策ではない。
富士見平を過ぎると、再び樹林帯へと入っていく。トラバース開始地点から、冬期ルートである東尾根への分岐を確認する。岩壁に付けられた桟道を渡ると、急に視界が開け、北沢源流に出る。稜線近くにもかかわらず、沢の水が飛沫をあげていた。氷河の名残を表す、すり鉢状のカールが見られる。ここからは東尾根の岩稜を一望できる。尾根~離れすぎてらくだの背の詳しい状況はわからないが、傾斜のある岩と雪のミックス帯と雪壁がポイントになりそうだ。

赤石岳
赤石岳

黄金色に光るダケカンバの紅葉に、そして、ハイマツの緑のコントラストが素晴らしい。まもなく森林限界に達する。北沢源流に一条の滝。見渡す限りの自然の美に感動する。
小赤石岳のピークには登山者が見える。稜線まではあとわずか。
稜線上の小赤石岳と赤石岳の分岐点で荷物をデポし、小赤石岳に向かう。稜線にはハイマツ以外には植生はなく、ザレ場となる。冬は強風にさらされることになるだろう。
赤石岳もライチョウの生息地になっているが、今回出会うことはなかった。小赤石岳のピークには、荒川方面から朝3時半に出発したという女性の単独行者が。たくましさを感じる一方で、長距離縦走をできる気力・体力を失われつつある自分をさみしく思う。穏やかだった雲海が波打ち始め、富士山の表情が刻々と変化していく。
何とか、予定通り赤石岳に登頂することができた。実に30年ぶりの登頂。聖岳方面も一望できる。頂上避難小屋の冬期入り口の確認をして、下山を開始する。 この冬、ここに泊まることのないよう願いたい。

北沢を下る
北沢を下る

赤石岳山頂からは2000mの厳しい下りが待っている。
気温の変化、あるいは、日光の加減かはわからないが、朝よりも紅葉の色が鮮やかに変化している。足下を照らす赤や黄がまぶしい。ガスに見え隠れする稜線や谷も趣がある。そのうち、富士山はガスの中に隠れてしまった。
赤石小屋でパッキングと水分の補給を済ませ再び出発する。
この先、あまりにも長い下りに皆無言となり、足を痛めながら下る。時折、紅葉やにわかに生えたいろいろなキノコに気を紛らわせる。標高差にして残り200m辺りで、松原さんの足が疲労で動かなくなる。横山さんのストックを使いながら何とか椹島へ。椹島でキャンプの受付をして、広大なテントサイトにテントを張り、しばし自由時間とする。
本日の山行の余韻が残る中、係は白旗史朗の写真館へ。他のみんなはお風呂へ(お風呂はキャンプ代に含まれる)。それぞれの疲れを癒しに行く。白旗史朗氏は、山岳写真という分野を確立した写真家である。南アルプス撮影行をライフワークにされていて、どれも迫力のある作品である。南アルプスに登ったことのある者は、写真の中の情景を思い浮かべることができるだろう。登山者の共感を呼ぶ写真だった。
テントの前で、ささやかな打ち上げをする。10時間行動に疲れは隠せず、まぶたが閉じそうである。早々の就寝となる。
翌朝、始発のバスに乗るため、早めに待合室で待機する。名バスガイドの案内に和みながら椹島をあとにする。うつらうつらしながら、1時間ばかり揺られる。10月下旬には林道沿いの全山が紅葉するそうだ。畑薙湖の湖面のエメラルドグリーンと相まって絶景の散策コースとなる。
心地よい疲れを感じながら帰路につく。森が濃くスケールの大きい南アルプスは、他のアルプスとは異なった趣がある。何より、静かな山旅を楽しむことができるので、自然と向き合いたい方にはおすすめである。もう一年通ってみるかと思い直しているところである。(記:三谷)

<コースタイム>
10/7 7:00 畑薙第一ダム→8:20 椹島8:40→11:10 カンバ段→12:40 小屋まで4/5地点(標高約2,245m)→14:05 赤石小屋
10/8 5:30 赤石小屋→6:05 富士見平→8:21 稜線分岐→8:45 小赤石岳→9:05 分岐→9:18 赤石岳→9:51 赤石小屋分岐→11:30 富士見平→12:06 赤石小屋 12:30→16:00 椹島登山口
(記:松原)