苗場山 釜川右俣遡行 (個人山行)


宮本 博夫

日程:2010年8月13日~15日
参加者:菅野、坂口、宮本
←写真:釜・滑滝帯にて

<行動記録>
 百名谷の本にある三ッ釜の大滝が見たくて、以前よりずっと興味があった釜川右俣。遠くて自分には縁のない山域と思っていたのだが、昨年初めて上越谷川岳方面に行った経験から、今年の夏もその山域を含めて行き先を検討し地図を広げたところ、釜川が記されていて、谷川岳よりもう一足延ばせば十分行ける範囲とわかった。詳細には釜川右俣千倉沢横沢右俣(長っ!)が今回目的地である。本来1泊2日のコースだが、下流部は水量多く手こずり、ペースも上がらず2泊3日山行となった。

8月12日、16時坂戸駅集合、現地には21時頃到着。
 台風が通過し雨が降っていて、駅などうろうろしながら屋根のある泊まり場(バス停小屋狙い)を捜すが、バス路線の無い道のアプローチだったようで見あたらず、入山地点まできてしまう。仕方なく雨の中テントを広げて小宴会をし、寝る。

8月13日、曇り時々雨
 前夜確認した天気予報では今日は晴れ時々曇りと言っていたが、明け方、既に曇っている。出発前の予報は晴れのち曇り。取りやめるほど悪い天気ではないので、予定通り出発を決める。
 草ぼうぼうの林道跡を川まで下ると取水堤、水量は多く、両岸の草がかなりなぎ倒されているがまだ新しく、前日の増水でやられたと思われる。この水量で滝場を越せるのか心配だが、行けるところまで行ってみることにし、進む。この時ばかりは今回台風影響が少なく、この先の天候も安定していると思われる南アルプスに思い切って行き先変更すればよかったと思った。
 川に入ると大岩ゴーロ帯。まず現れたのは…小熊だ! 昨年湯檜曽川に続く、熊との遭遇。小熊がいるということは近くに親熊がいるはずでよろしくない。写真でも撮っておけばよいものの、恐ろしさのほうが先行してしまい、さっさと追い払ってしまう。親子熊が岩の陰に潜んでないかとビクビクしながら大岩ゴーロを通過していく。
 ペースはあがらず二俣まで1時間半かかる。右俣に入るとゴルジュ地形となる。水量半減を期待するが右俣が本流らしく、あまり減らない。大きな淵や釜を持つ5m前後の滝がいくつか登場するが水量が多くて近づけず、ほとんど巻き。草付きスラブでよくない。巻くと2回に1回くらいは懸垂でないと川に降りられない。最後はかなり長い懸垂を強いられたところもあった。
 核心部とされる20m瀞+2m小滝は30m瀞くらいに成長している。瀞には途中に大きな倒木もあり、そこまでは行けると思うがその先は波立っており、行けるのかどうか自信がない。結局、試しに泳ぐのもやめ、右岸を巻くことにするがグズグズの草付きスラブでいやらしい。幸いにもかすかに踏み跡があり、これをたどってスラブ上部の樹林帯まで巻き上がって、豪雪地特有の横に曲がった木をまたいだりくぐったりの苦しいトラバース。草藪も濃く、この辺がいつもの下草の少ない樹林帯の巻きと事情が違う。
 昼頃になって思ったより早く雨が降り出す。まずいなと思ったが、ひどくはならずに降ったり止んだりで基本的には曇りを維持している。
 S字状にくねった激流の側壁上をおっかないトラバースで通過していくとスラブが高く大きく広がり、待望の三ッ釜の大滝が現れる。大滝は千倉沢とヤド沢が滑滝で合流し、その名の通りいくつもの大釜を連ねている。日本離れした壮大なスケール、まったく素晴らしい景観で何度も感嘆の声を発してしまった。大スラブの底なので、ここで雨が降ってなくてよかった。
 千倉沢に入ると見事な釜と滑滝の饗宴。私の大好きなパターンで有頂天になりながら写真を撮りまくる。ちなみにヤド沢のほうは40m、60m級を含む大滝がいくつもあるとのことで、渓相は異なると思われる。
 再びゴルジュ地形。本日の泊まり場目標は清水沢出合い付近、理想的には更にその先のゴルジュが終わった河原であったが、時間的に無理であることが明白。泊まり場を探しながら進むが、全くなし。川沿いの小さい河原は増水の爪痕が生々しく、とても泊まれない。
 6m滝、右岸トラバースが何とか可能と思えるがザックを背負っては無理。ザックを滝の中に流して荷上げすれば行けると思えるがメンバーが気が進まないと言い、右岸を巻く。草付スラブでこれも気が進まない。樹林帯まで上がると横になれるスペースを発見し、そこをビバーク地に決定した。水を汲むためにさっき登ったところにロープをFIXして降りる。水汲みを終えてビバーク地に戻る頃にはすっかり日が暮れていた。調子に乗り過ぎて水を過剰に汲んでしまい、翌朝大量に余らせる始末。ちゃんと計算しないとね。

8月14日、曇り時々雨
 夜中に雨が降るが、明け方には止む。ラジオで天気予報を確認すると新潟県は雨、比較的近い湯沢の町も一日雨だと言っており、憂鬱な気分。しかし、実際は時折雨がぱらつく程度で曇りを維持した。
 高巻きビバーク地を出発して懸垂で川に降りる。この日は昨日に比べると登れる滝が多くなった。巻き道もいやらしい草付スラブが減り、安心して登れるし、いくつかの瀞場も水線沿いに通過出来る。
 15m滝を右岸から巻き終えると清水沢出合い。この先本流は横沢と名前が変わる。ゴルジュが終わり河原状となり、やがて林道が横切る。これをたどれば今日中に下山可能となるが、遡行を継続するか、打ち切って下山するか菅野さん、坂口さんと協議し、予備日程と食料はあるので遡行継続と決定した。
 さらに進むと3段の滝が出て、下2段は簡単に登れるが上段は厳しく、右岸を簡単に巻けると思ったのだが、そこも厳しい草付スラブと判明。滝を登るしかないので脆い岩に注意しながら直登。
 この上で横沢の右俣と左俣が分かれ、右俣に入る。ビバーク地を探しながら進むが、河原に近いところは草の繁茂が著しく、大きな石もごろごろしていて、テン場に向いたところは見当たらなかった。一旦引き返したりするうちに樹林の中に絶好の場所を見つけ、テン場とした。この日は焚火を試みるが、集めた薪、流木は著しく濡れており、何とか小枝に火が着いてもそれ以上成長させることができず、ゴミが燃えただけで焚火にはならず、徒労に終わってしまった。

8月15日、曇り時々晴れ、一時雨
 遡行図によるとこの先50m滝があることになっているが、両岸は低くゴーロが続いて一向に現れる気配はない。2時間以上もゴーロ歩きが続き、どうもおかしい。最後は横沢右俣の更に右沢に入って小松原小屋付近登山道に出る予定であるが、右沢分岐がわからずどうも左沢を進んでいるようだった。高度計によればもう50mも登れば登山道が横切るはずだが現れず、両岸の尾根が遠くまで続いているのが見えた。左沢に入ったのは確実。右沢左沢別れの手前に50m滝があるという遡行図は間違いであったが、それにしても右沢の別れは全くわからなかった。
 左沢に入ったのは痛恨のミス。右沢に対して200m以上も高い稜線まで詰めて、しかも沢筋はだんだん藪に覆われるようになり、最後はきつい笹藪漕ぎをして日蔭山近くの稜線登山道に達した。それから登山道を小松原小屋方面に下っていく。小屋手前で当初予定だった右沢を横切る。これで2~3時間のロスをしたに違いない。
 小松原避難小屋の中は板張りできれいに掃除されており、大事に使われている様子がうかがえる。備え付けのノートを見ると釜川遡行の記述も多数あり、我々同様に最後は横沢右俣の左沢に間違えて入ったパーティも少なくないようだった。
 小松原湿原を通るルートで下山する。湿原は上の代、中の代、下の代と高度を下げながら大まかには3箇所に分かれており、池塘も見られるし、かなり規模が大きなものだが、誰もいない。この山域では更に大規模な湿原をもつ苗場山があるのであまり注目されないのかもしれない。登山道はやがて林道に合流し、真っ暗になった頃、車止めゲートのある出発地点に帰着した。3日間、釜川でも誰にも会わなかったし、湿原でも誰にも会わず(時間が遅いせいもあるけど)、出会ったのは小熊だけだった。

 下山後はまず麓の温泉に急ぎ、それから関越道のS.A.で晩飯を食べようと思ったのだが、既に終了。売店も蛍の光が流れている。仕方なくお菓子やパンを買い、コンビニで買っておいたビールで乾杯して、朝までごろ寝した。翌16日早朝、帰途につき、坂戸駅で解散とした。

 釜川右俣は期待通りの素晴らしい内容だった。特に三ッ釜の大滝とその周辺部の発達した大スラブ、その底にあるゴルジュ、淵・釜と滑滝の連続は素晴らしい渓谷の造形美で私を有頂天にさせてくれた。中流部の滝は意外に登れるものが多く、瀞場も水線沿いに通過でき、楽しませてくれた。源流部はルート間違いもあって1つも滝が現れずゴーロ歩きと藪漕ぎに終始してしまったが、下山道の湿原は魅力あり。湿原がなかったら林道で打ち切って下山してもよかったかもしれない。変化に富み充実した遡行内容だった。懸垂下降と泳ぎでロープの出番がかなり多かったことも付け加えておこう。3日間とも青空は望めずはっきりしない天候だったが、ひどい雨にならなかったのは本当に幸い。あの増水の爪痕は、この川で大雨に降られると致命的であることを物語っていた。

 下山後に日高山脈沢登りで理科大生が河原にテント泊中鉄砲水に流された遭難事件が報じられたが、増水の恐ろしさを思い知らされる事故だった。現場を知らないので何とも言えないが、一般論として河原はゴルジュ帯に比べれば安全地帯であるし、増水を警戒して沢靴を履いたまま寝ていたというのだから、備えは出来ていたほうだと思う。私達はどうだったかというと1日目のビバーク地は高台で絶対安全だったが、高巻き中に見つけた偶然の場所。時間が早ければそのまま通過して河原に降りただろうし、真新しい増水の跡を見なかったらそんなに警戒せずにやはり河原を探しただろうし、事実複数のパーティが私達の泊った場所より少し先の河原でビバークしているのである。自然が相手である以上、確実・正解はないということを再認識させられ、複雑な心境になった。

<コースタイム>
8月13日;釜川林道ゲート出発7:00~二俣9:10~三ッ釜大滝の上15:15~6m滝高巻きビバーク地17:30
8月14日;出発7:40~清水沢出合い11:00~林道交差点14:10~横沢右俣幕営地17:00
8月15日;出発7:40~日蔭山稜線12:30~小松原避難小屋15:15~出発地帰着19:20

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