冬合宿中央アルプス宝剣岳~檜尾岳


三谷 和臣

12月30日~1月1日 (係)三谷
参加者:吉村、川﨑
12月30日 晴れ 気温-7℃(北御所)
夜が明けると中央アルプスの白い山並みが見える。雲一つない晴天であるが、風は冷たい。駐車場で共同装備を分担して、簡単にパッキングを済ました。
駒ヶ根ICを降りて程なくしてバスターミナルの駐車場に到着する。駐車中の車はまばらである。これから入山をしようと支度をする登山者がぱらぱらといた。観光道路の向こうには、真っ白な千畳敷がかすかに見える。温度計は氷点下を指しており、素手で作業をすると痛くなるほどの寒さである。この感覚により、これから訪れる稜線がイメージされ、身の引き締まる思いがした。
軽量化したつもりだが、パッキングを終えると結構な重量になった。川崎さんの90リットルザックがはちきれんばかりに膨らんでいる。この重荷は、苦しいラッセルのことを想像するとゾッとする。
早々にパッキング、準備を終えて、8:20の始発のバスを待つ(実は、乗り合いタクシーでもう少し早く入山することが可能だった)。バス停には、カラフルなヤッケに身を固めた登山者が並ぶ。ザックの大きさからして、ロープウェイからの日帰り登山者、あるいは、千畳敷ホテルのご来光ツアーの御一行だろう。
チェーンを履いたバスは、凍結した道路をゆっくりと上がっていく。北御所登山口のバス停に降り立ったのは、われわれ3人だけ。林道のゲートで、山岳パトロールの方が、待ち構えるように「こんにちは、予定は?計画書は提出していますね。」と、話しかけてくる。質問攻めにあうと思ったが、ほどほどにして、大多数の登山者が乗っているバスを追うように、車で去って行った。
この北御所からの登山道は、夏場、地元の中学生の集団登山によく利用されているそうだ。聖職の碑で知られているコースは、もう一つ北側にある尾根のコースだが、地元学校では遭難の経験から、集団登山の伝統が受け継がれている。
。案の定、最近のトレースはない。林道は微妙に傾斜がついており、汗をかかない程度にゆっくりと歩く。
1時間ほどのアプローチで登山口に到着した。冬期のアプローチにしては距離が短いのは助かる。小休止したのち、登山道に踏み入れる。まだ積雪は少なく、登山道とわかる窪みに沿って歩く。最近積もった雪と思われ、まだツボ足で歩くことができた。
しかし、高度を上げるにしたがい雪が深くなり、すね位まで沈むようになった。清水平で一本立てるとともに、ワカンを装着することにする。清水平はその名の通り、尾根上に開けた平らなスペースで、テントを張るには適当な場所である。ただし、雪に覆われているため、水場は確認できなかった。尾根から外れ谷側の斜面に入ると、雪が吹き溜まりとなっているため、雪の抵抗により歩くスピードも落ちてくる。それでも、ウドンヤ峠まではなんとかコースタイム通りの行動となった。
樹林帯の赤テープに導かれて進むが、ルートは尾根上ではないので蟻地獄にはまる。
まだ膝下くらいまでのラッセルだが、少しでも傾斜が強いと、前方の雪の壁を崩さないと前進できない。表面が凍っているので踏んばらなくてはならず、ふくらはぎの筋肉が悲鳴をあげる。重たく湿った根雪の上にふかふかの新雪が覆っている状態である。山岳会では、ラッセルを前提にした合宿は少ない。日程の問題もあるが、これでは黒部横断など夢のような話である。
それにしても、一丁ヶ池まではコースタイムで1時間のはずだが、急なのぼりが続き一向に到着しない。もう過ぎたのではと不安がよぎるが、14時を過ぎていたので、とにかくキャンプ地を探しながら登るしかない。ラッセルを交代しようと立ち止まって振り返ると、いくばくも進んでない。
やっとの思いで平坦地に出た。一丁ヶ池の表示がありほっとする。コルはふきっさらしになっているので、樹林帯にある平坦な場所にテントを張ることにした。木々も生えておらず不自然に平らなのは、実は凍った池だった。
一息ついたところで、日が暮れるまでトレースを付けることにした。樹林帯の登りを抜けると、六合目の小屋の跡と思われる広場に出た。空荷でのラッセルは随分楽だが、今までの疲労がたまっているせいで全身に力が入らない。それでもかなりの距離を稼ぐことができた。制限時間を過ぎたので、七合目のピークへの登りと思われるところで、引き返すことにした。
太陽が沈むと一気に冷気が襲ってくる。外気温は既に-15℃を指している。急いでテントに潜り込みコンロに火をつける。

12月31日 晴れ 気温-15℃(一丁ヶ池)
朝日を浴びながら昨日付けたトレースを辿っていく。トレースの終点は出発からわずか30分であった。ここからはしばらく苦しいラッセルとなる。七合目を超えてもまだまだ急な登りは続く。川崎さんは、ラッセルのペースがつかめず、すぐにペースダウンしてしまう。また、急な斜面をまっすぐに進もうとして、雪の壁を作ってしまうので、ゆっくりと緩斜面を行くように指示した。
植生がまばらになって森林限界も近い。概ねトラバース気味に進んでいくが、尾根から外れているのに気づき進路修正を行った。やっと思いで稜線に這い上がり、登山道らしき跡を確認して一安心した。しばらくはなだらかな砂礫の道が続く。風が強いためか、雪はあまりついていない。
石碑のある八合目を超えるあたりから、宝剣岳や駒ヶ岳の主峰の全容が明らかになってくる。徐々に近づく宝剣岳の岩壁や千畳敷カールの景色を楽しみながら歩く。
千畳敷カールには、登山者が数パーティー見えるが、上から見ると三方雪の斜面に囲まれており雪崩の巣である。雪上散歩も優雅なように見えるが、恐ろしくてあまり長居はしたくない場所である。
伊那前岳のピークには、多数の写真愛好家が見られる。我々は、そのピークをトラバース気味に越えると、駒ヶ岳と宝剣岳の分岐点である乗越浄土へ到着した。宝剣山荘の前には数張のテントが張ってあった。われわれも、風よけのために、小屋の横の吹き溜まりを切り出してテント場を整備した。テントを張り終えたところで、ゆっくりと昼食をとる。明日は、いよいよ核心部となる岩稜の通過である。宝剣岳のピークへ登る登山者を目で追った。下りでアンザイレンしているパーティも見られたが、登りは問題なさそうだ。
時間に余裕があるため、吉村さんの提案で、駒ヶ岳への散歩に出かける。空荷にも関わらず、ラッセルの疲労で足取りが重い。思い思いに景色を楽しみながら歩く。
秋の参拝行列と比較すると、すれ違う登山者はわずかである。冬とはいえ、もう少しロープウェイを利用されても良いはずだが、登山者は少ない。同様にロープウェアのある西穂高山荘のにぎわいとは対照的であった。

1月1日 曇りのち雪 気温-15℃(宝剣山荘)
アイゼン、ハーネスを装着して、宝剣岳本峰への登攀に備える。気温は思ったほど下がっていないが、歩き始めはピッケルを握る手が冷たい。
宝剣山荘前から、ほぼ夏道通しにつけられたトレースにしたがって慎重に登る。本峰の肩に出たところで、今度は岩場に設置された鎖を頼りに、若干下り気味にトラバースする。この区間が核心ともいえるが、頂上までべた張りした鎖のおかげで難なく通過することができた。むしろ、槍ヶ岳の穂先の方が、距離が長く悪く感じる。
頂上のローソク岩がかすかに頭を出している。後続者を含めて頂上には誰もいない。登頂の喜びもつかの間、駒ヶ岳方面から真っ白な雪雲が近づいているため先を急ぐ。しばらくは岩稜の悪場が続くため、川崎さんに注意を促す。しかし、今回ザイルの必要は感じなかった。見覚えのある風穴をくぐり、鎖場を一人ずつ下る。出発からわずか1時間くらいで、極楽平に到着した。三ノ沢岳への分岐であるこの平らな場所は、その名の通り、岩稜続きの緊張から開放される場所である。
ガスの晴れ間から富士山から登る日の出を拝むことができた。そういえば、今日は元旦、おめでたいものが重なって、今年は良い年になりそうだ。あっという間に宝剣岳もガスの中に隠れてしまった。
濁沢大峰の三つのピークも問題なく超えて、檜尾岳との鞍部への下りにさしかかる。トレースはハイマツ帯を突っ切っている。
ガイドには「伊那側のガレ場を下降し、主稜に戻って鞍部まで下る」とあるし、踏み跡もそちらに続いているため、夏道を下りる。しかし、途中からトレースも迷走の跡が見られ、主稜への分岐の確信が持てないため、引き返すことにした。我々もハイマツ帯を下ることにする。
ラッセルに時間を要したことで、次のキャップ地に到達することが難しいこと、天候が下り坂であることを考慮して、檜尾尾根へのエスケープに決定した。
檜尾岳頂上で握手を交わし、避難小屋に向かう。下山に備えて行動食をとる。外に出ると吹雪になっており、視界も閉ざされた。
下りとはいえ、トレースがあるとないとではスピードに大きな差が出る。しかも、下り始めはやせ尾根が続き、地形も複雑だった。吉村さんはこの尾根を登ったことがあるそうだが、相当骨の折れることであっただろう。危険箇所はないが、急な雪の下りは、精神にこたえる。
遙か下の方に林道が見えてくるが、まだまだ先は長そうだ。それでも、徐々に周辺の景色が変わり初め、麓に近いことがわかった。落ち葉の道に変わったので、まだ雪は残っていたがアイゼンを脱ぐ。
ところが、林道に出る直前で、氷瀑が登山道を横切っており、一同唖然とする。氷の帯は、林道の下の方まで続いている。アイゼンを脱いでしまったので、ピッケルでピックを刺しながら横断する。
標高差1200m以上を一気に下ったため、膝ががくがくであった。バスの定期便に乗り込むことができた。
途中下山となったが、一通りの目的は果たせた合宿であった。個人的には、久しぶりの冬のアルプスに登れただけで満足である。北アルプスと比較してスケールはさほど大きくないが、いろいろなルートをとることができるため、もっと登られてもよい山だと思った。
(記:三谷)

12/29 横川駅9:30→10:00中深川→17:50駒ヶ岳SA
12/30 駒ヶ岳SA7:00→7:15菅ノ台バスセンター駐車場8:12→8:30北御所登山口→9:40蛇腹沢登山口→11:00清水平→12:20うどんや峠→14:30一丁ヶ池→15:00小屋場→15:35偵察終了→16:10一丁ヶ池
12/31 一丁ヶ池6:30→9:00七合目舟窪→10:35八合目→11:05勅銘石→11:35乗越浄土→11:45宝剣山荘13:05→13:20中岳→13:50駒ヶ岳山頂→14:45宝剣山荘
1/1 宝剣山荘6:40→7:00宝剣岳→7:40R.Scot碑→7:55極楽平→9:00濁沢大峰→10:55檜尾岳山頂→11:10檜尾避難小屋→15:10檜尾登山口→15:45菅ノ台バスセンター→駒ヶ根SA
(記:川﨑)

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