冬合宿 剱岳早月尾根(1,740mまで)


三谷

日時:12月27(土)~29日(月) (係)三谷
参加者:保見、松林
<行動記録>
 冬合宿は広島山岳会の年間計画の集大成である。夏には、すでにこの冬、剱岳を目指すことを決めていた。早月尾根、冬の剱を目指すには最もオーソドックスなコースと言えるが、10年前、同じように挑んだが頂上に至ることはできなかった。
 しかし出発前、今回も気象庁が異常天候早期警戒情報を発表し、大荒れとなる天気に注意を喚起していた。日本山岳会が発信する山岳気象情報にも楽観的な要素は何もなく、こうなるともはや剱に入ること自体に意味を見いだすのが難しかった。それでも、少しは冬の剱岳を肌で感じるために向かうのであった。
12/27
 朝、保見さんと係は広島を出発、小谷SAで松林くんと合流し富山に向かう。心配した渋滞もなく順調に流れ、予定通り、夕方日が暮れたころ立山ICを下りる。ICを下りてすぐのところにあるスーパーで今日の晩御飯を買う。市街地を抜けて、馬場島の標識を見ながら細い山道を走る。除雪はしてあるが、所々路面は凍結している。
伊折の最終集落の手前に車が数台止めてあり、ここが除雪の最終地点であることを表していた。凍結した道路の上でテントを張らせてもらい、晩ご飯を簡単に済ませて就寝する。
12/28 天気:晴れ、夕方から雪
 翌朝、天気は良く星空が見えていた。放射冷却で冷え込みが厳しい。簡単に朝食を済まし、パッキングを始める。予備食を含めると10日分の食料である。荷が重ければスピードは落ちる。制度の矛盾を感じる。
まだ暗い中、馬場島に入る雪上車が作った轍に従って歩き始める。最初は手足が冷たいが、すぐに暖まってくる。今話題の発熱性素材は汗による濡れには弱いようだ。やはり昔ながらの速乾性化繊のウェアが良い。
徐々に空が白んでくると、早月川の上流に、青白く浮かび上がる剱のシルエットが見えてきた。久しぶりにこちら側から見る剱岳だ。日が昇ると、真っ白な剱岳が現れる。こんなにはっきりと剱岳が見えるものかと、あらため感心する。雲一つない真っ青な空だが、稜線では見てわかるほど雪煙が舞っていて、風は強そうだ。松林くんが「これだけで満足です」と言っているが、本当に眺めるだけで終わるとは思わなかった。天気は明日から早くも下り坂で、入山がもう一日早ければと悔やまれる。
 タービンの音が鳴り響く白萩発電所を過ぎて30分ほど歩くと、馬場島の登山指導センターが見えてきた。伊折から約8km、冬山のアプローチにしてはまだ短い方だ。若い警備隊の常駐員に、予め提出しておいた登山者名簿の照会をしてもらい、3人分のヤマタンを受け取った。有事の際の無線の周波数や電話番号も受け取った。聞くところによると、今朝も数パーティー入ったそうで、早月小屋まではトレースがあるそうだ。
馬場島のキャンプ場からは剱岳が一望できる。これから樹林帯に入るため、見納めにとじっくり眺める。空は雲一つなく、日の光が雪景色に反射してまぶしい。サングラスをかけて、ヤッケも脱ぎ、まるで春山登山のようだ。観音様に安全祈願をして、早月尾根に取り付く。
最初からかなりの急登で、あっという間に汗が滝のように流れてくる。一登りすると、松尾平となりしばらくは緩やかな登りとなる。ゆっくりとしたペースだったが、順調に進む。計画より早いので、地図を見て幕営適地を探しながらもう少し足を伸ばすことにした。このときまだ、青空に映える小窓尾根の岩峰群を望むことができた。明日にかけて南岸低気圧が通過し、冬型の気圧配置となる。
 メンバーが負傷してエスケープするパーティーや警備隊のパトロールが下りてきた。樹林帯の急登を登ること700m、南西側に延びる尾根との分岐に適当な場所を見つけた。少し登ったところにも幕営跡が見つかったが、風よけとなる窪地に幕営することにした。時間は少し早いが、明日から天気が崩れる予報から、なるべく安全圏に近い場所にした。明日は、頂上を踏むことは難しそうなので、ここをベースに早月小屋辺りまで登ることを考えていた。
 登山者が一人、しばらくして、また一人下山してきた。早月小屋よりも上部は風が強かったために、2600m付近で引き返したということだ。その登山者は軽装だった。トレースがあればワンデイで頂上往復も行けなくはない。
テントサイトは、降雪に備えてテントの周りに堀を作った。降りしきる雪がテントに積もり、除雪に難儀したことがある。結果として、雪が堀に流れてテントが埋まることなく、効果があった。
 最近、携帯電話のエリアが拡張され、電波の状態は良好だった。甲斐駒・仙丈パーティーの係である吉村さんに、こちらの状況をメールした。昨年のことがあり、互いの安否を知らせるよう心がけた。
 淡々と水を作り、早々に夕食を済ませて就寝する。保見さんが天気図を取るがまだ低気圧は発生していない。夕方日が暮れる頃富山の夜景が見えていたが、夜半早くも雪が降り始める。風も強まり、時折テントを揺るがせた。明日の天候が気がかりだ。
12/29 天気:雪から雨
 予定通り4時に起きる。雪はまだ降っているようだ。用を足しに外に出てみると、周りの景色が一変している。堀はすっかり埋まっていた。30cm程度は降っただろうか。視界も悪く、昨日付けたトレースもほとんど消えており、下山も危ぶまれる。予想天気図を見ると、この冬型は明日にはいったん弱まるが、早くも日本海に低気圧が発生するようだ。この低気圧が発達しながら太平洋に抜け、年始に記録的な大雪をもたらすことになる。
テントのベンチレーターから外を見ても、雪がやむ気配はない。気象レーダーを見ると、9時過ぎにはいったん雪雲が抜けるようなので、しばらく様子を見ながら待機することにした。その間、吉村さんに下山する旨をメールした。
雪が小降りになり、出発の準備を進めていると、昨日早月小屋でキャンプしていたパーティーが下山してきた。そして、下でキャンプしていたパーティーが登ってきてテントサイトに入ってきた
 今日新たに付けられたトレースに従って下山する。馬場島で昨日受け取ったばかりのヤマタンを返却する。尾根の天候や積雪状況を話して、再び長いアプローチを歩き始める。悪天候は下り坂にもかかわらず、これから入山するパーティーもいくつか見られた。
 いつの間にか、雪は雨に変わっていた。そして、伊折に着く頃には本降りになった。帰り支度をしていると、吉村さんから「下山したら合流しない?」とメールが入ってきた。甲斐駒・仙丈に一緒に登らないかという誘いだと気が付くのにしばらく時間がかかった。グリーンパーク吉峰でゆっくり風呂に入り、食事をしながら相談する。大して運動もしていないが、体は疲れている。合宿の邪魔をしては悪いと思い、見送りだけでも行こうということになった。当パーティーが宿泊する予定の駒ヶ根SAに向かう。日本海側の富山から峠を越えて長野に向かう訳だから、ちょっと長いドライブとなった。雪が降りしきるなか、凍結した道を慎重に運転する。
 渋滞で到着が遅れているようだ。我々は駒ヶ根SAの一角を借りてテントを張らせてもらった。寒気が入ってきてかなり冷え込んでいる。反対車線に渡り、甲斐駒パーティーを迎える。小宴にて、剱岳合宿について簡単に報告をし、これから入山する甲斐駒・仙丈パーティーを激励?した。
 早月小屋にも届かず、あっけない合宿だったが、地元の登山者ならまだしも、毎年通い続けても登れるかどうかあやしい。無理をして悪天候の中に突っ込めば、即遭難である。あるいは疑似好天を狙って、速攻で登頂するかである。課題が残されている限りは、山に通い続けるだろう。
<コースタイム>
12/28 6:18 伊折~9:10-9:32 馬場島(0℃)~10:40-10:51 松尾平(3℃)~11:40-11:50 標高1330m付近~12:28-12:41 標高1530m付近(3℃)~13:20 標高1740m付近、幕営
12/29 9:39 幕営場所 (3℃)~11:35-11:52 馬場島~13:56 伊折

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