大山雪山講習会 (係)三谷


三谷

月日:3月10日(土)~11日(日)
参加者:安藤、横山、吉村、神庭、平本、島本

恒例の大山雪上訓練を実施した。
土曜日夕方、神庭宅にお邪魔して、机上講習会を実施した。講習のテーマは神庭講師による雪崩について。PowerPointのスライドと事故時の映像を使って進められた。
導入として、本当に雪崩は起きるのだろうか。統計によると、「積雪は95%(1/20)の確率で安定している」
この道を通るのは、今回で何度目だろうか。しかし通い慣れたルートでは、もはやその危険性について気にすることすらしない。トレースが付いているし、雪崩とは無縁だ。仮に「あわや」と思われる惨事に遭っても、SNSに投稿するにはインパクトのある体験。過去のインシデントのことは忘れて、今日もアバランチ・パスへ入っていく。

まずは、雪崩の基礎から。雪崩の発生する条件は以下の通り。
①傾斜
②スラブの存在
③弱層
④トリガー
これらの条件が揃うことは、限定的なものだろうか。
雪崩は、ほどよい斜面であれば、どこでも発生する。大山においても、意外と雪崩の跡は多く見られる。ほとんどの登山者は見逃しているだけだ。大山の元谷周辺は、ほとんどが雪崩危険地帯ということになっている。あなたがいつも歩いている谷でも。
次に、雪崩の仕組みについて。雪崩れそうな斜面では、微妙なバランスによって、スラブがその位置にとどまっている。
①結合力と圧力サポート
②すべり面との摩擦
③アンカーのピン止め効果
不安定なスラブに登山者が踏み込んで、それを維持するだけのバランスが崩されたとき、大なり小なりの雪崩が発生する。映像を見てわかったが、登山者の上部から発生した雪崩は、回避が難しいため致命的になる。
雪崩の知識に疎い方は、何はともあれ「地形」について学ぶこと。どんな登山者でも、尾根と谷、傾斜、そして、斜面の方角くらいはわかるだろう。特に注意すべきは、地形の罠。その名の通り、罠にはまれば、重大事故に直結する危険な地形である。元谷においても、見渡せば地形の罠がたくさんある。そういう場所には近づかないことだ。できるだけ尾根を歩こう。
次に、弱層を形成する雪質について。
積雪と大気、積雪と積雪の間、あるいは積雪と地面の間に一定の温度差があれば弱層となる霜が形成される。雪山に入るときは、週末の天気だけではなく、1週間の積雪の推移と気温の変化など、弱層を形成する気候条件に注意することである。
最後に、雪崩れ斜面での安全な行動へのルールについて。
①塊になって歩かない。
②左右ばらばらに歩かない。
③不用意にトラバースしない。
④スピーディーな行動。
⑤雪崩を誘発する雪庇に注意。
⑥いつも上部に注意。

プレゼン終了後は、しばしディスカッションをして講習会を修了。
そして、食事の準備へ。鍋を囲んで、なかなか賑やかな宴会となった。神庭くんは風邪を患った中でのパトロール帰りで、お疲れ気味だった。ご苦労様でした。

翌朝5時起床。引き続き講師をする予定だった神庭くんは、昨日の無理がたたってリタイヤ。
残りのメンバーは、大山へ移動する。
大神山神社でビーコンチェックを実施する。同じく雪上訓練と思われる団体が通りかかる。最近は雪山でのビーコンの携帯は常識となっているため、ビーコン同士が干渉してしまう。ゆっくり一服されるのを待って、こちらも出発する。
ビーコンチェックのリーダーは島本さん。原則、入山から下山するまでスイッチを入れておく。電池は入山ごとに毎回入れ替える。
神社を抜けて、宝珠尾根への分岐付近の斜面でコンプレッションテストを実施する。いつも通る道だが、雪崩が発生するにはちょうど良い斜面である。樹林帯ではあるが、大量降雪の直後は注意が必要である。
手首から腕の力でインパクトを与えたが、変化はなかった。雨が降った影響か、一体になった湿雪の層により、すべり面は存在しないようだった。有意な情報は得られなかったので、各自、弱層テストの形のみを実施するに止めた。ただし、スノーソーやスコップの使い方に慣れる必要がある。ここに神庭くんがいれば、レクチャーしてもらったのだが。雪の表面を撫でるのではなく、雪のカットと除去の二段階で進める。
引き続き、横山さんを先頭に元谷に向かう。今日は林道は使わず、正規の夏道コースを使う。谷筋に伸びるトレースを使わない手はないだろうが、「大丈夫、安定している」という判断は経験則から来ている。経験だけでは客観的なデータは得られない。「雪崩の知識がない人は地形から」だが、沢を下っている人はたくさんいる。机上講習会での動画が表している通り、まさかと思う場所で雪崩が発生している。
やはり、講師と受講者の間には意識の隔たりがあり、そう簡単には考え方を変えることはできない。仮に雪崩の兆候を見たとしても、経験則と正常性が判断を狂わせてしまう。安藤さんも「今考えると、昔は危険なことをたくさんしていた」と言う。昔はすべてのメンバーが選択と集中で危険を乗り越えるだけの気概があったかもしれないが、現状では難しいだろう。すべてが安全側である。
元谷に出ると、辺りは真っ白になってしまった。気温が高く、無風状態でガスが滞留している。
雪の層を確認するために、沢の右岸の尾根を進む。風の影響で雪面は堅くしまっている。ガスの温室効果によって放射冷却はなかったようだが、雪面に霜のような結晶が見られた。天気の良かった昨日早朝のものかもしれない。
傾斜が強くなり、そろそろ別山の基部に達しそうであるが、視界がなく現在地がわからない。地熱で雪が溶けている箇所が見られたので、別山に達したと判断し、行動を止めた。
再び弱層テストを行う。大神山神社近くの雪の層とおおよそ同じ傾向だったが、一部粗目の滑り層が見られた。ルーペで雪の結晶を確認する。丸みを帯びた氷の結晶だった。それぞれ弱層テストを終えたところで、引き返す。
次に傾斜の緩やかになった箇所で、シート搬送の訓練に切り替える。被搬送者は島本さん。ツェルトを広げて、クッションとなるザックとマットを敷いて包み込む。カラビナとスリングでシートをタイオフして準備完了である。横山さんがビレーし、それぞれサイドのスリングを持って小屋近くの堰堤まで搬送した。役割分担をし、進行方向の見極め、傾斜に応じた制動などの連携が必要である。

他の団体がちょうどビーコン捜索の訓練を行っていた。我々も離れてビーコンの電波特性について確認する。ビーコンの電波(磁界)は放射状に出ており、その磁界に沿って受信強度が強くなっている。また、電波の発信間隔は1秒であることに留意する必要がある。むやみに本体を振りすぎてはいけない。ほとんどのビーコンは受信機への距離に加えて、方位が表示されるので、ランダムに捜索しても問題ないが、電波特性に従って捜索することも可能である。今回は電波強度に応じた直角方向(グリッド・サーチ)の確認を実施した。
最後は、半雪洞とツェルトを使ったビバーク法の確認を行った。この場所で厳冬期のビバークを想定するのは難しいが、風を避けられる適当な斜面を見つけて、素早く掘り起こすことが重要である。長い間寒気にさらされると体力を消耗するので、快適性よりもいち早くビバーク体制に入ること。テントの整地も同様である。
雪の知識からセルフレスキューまで、予定していたカリキュラムを終えて、元谷をあとにする。