夏合宿プレ(大山縦走)


三谷

ブナの巨木

月日:2017年7月15日(土)~17日(月・祝) (係)三谷
参加者:横山、島本
<行動記録>
夏合宿のトレーニングとして、大山の健康の森から船上山にかけて縦走した。
土曜日朝、甲川を遡行する吉村さんの車に便乗して大山に向かう。木谷登山口で下車し、駒鳥まで歩く。当初、三ノ沢から槍ヶ峰経由駒鳥を計画していたが、翌日の行程が長いことと、キリン峠への下りが崩壊して状態が悪いことを考慮して、無難に最短経路とした。結果的にその選択は正しかった。この時間帯は気温も上昇し、風のない森の中を歩くと、汗が止めどなく流れてくる。体が何となく重い。文珠越え分岐の先で一本立て、昼食を摂る。
鳥越峠の最後の急坂を登りきって木陰で休む。汗を相当かいたため、その分水分を欲する。明日の行動が思いやられる。駒鳥方面から、息を切らして夫婦が登ってこられた。駒鳥の清流は気持ちよいが、展望が良いとはいえない。烏ヶ山に登るか、キリン峠の展望地まで登った方が良いが、そういう登山者は最近見かけない。登山道のヤブ化が深刻であり、駒鳥小屋に至っては、かび臭くてとても泊まる気になれない。廃道になったわけではないので、適切な整備を望む。道標だけは新しくなっていた。倒れたまま長らく放置されていた道標は、数十年ぶりに改修された。
地獄谷の河原の砂地を利用してテントを張る。たき火をしたりお茶を飲んだりして過ごす。晩ご飯は、冷やしうどん、マッシュポテトを使ったポテトサラダ、乾燥野菜を使ったきんぴらである。最近は家庭でも簡単に調理できるように様々なレトルト食品が市場に出回っている。一工夫することで山食も充実させることができる。島本さんが準備してくれたうどんの薬味でさらに充実した。山行に適した食の工夫を欠いては登山を楽しんでいるといえない。
明日に備えて早めの就寝とする。夜、にわか雨が降ったが、すぐにやんだようだ。テント場は風がよどんでおり、蒸し暑く寝苦しい夜となった。
明るくなるとともに、振子沢に向けて出発する。横山さん先導に歩き始める。藪が茂っており、振子沢の入り口はわかりにくくなっている。すでにイラクサに触れてビリビリしている。テープ頼りに進むが、数回、踏み跡を見失ってしまった。最初は、沢の右岸の樹林をトラバース気味に、途中から沢のガレ場伝いに歩く。沢に入ってからは藪漕ぎから解放される。
稜線が見えるようになる頃、ユートピアと振子山の分岐に至る踏み跡に入る。これを見過ごすと、この先で行き詰まってしまう。普段気にも留めない草原は、見事なお花畑と化していた。まだ最盛期ではないが、オオバギボウシ、シモツケ、ナンゴククガイソウなどが咲き乱れている。分岐点で振子沢の登りが一段落となり、景色に見とれながら一息つく。烏ヶ山まで見渡せる。

オオバギボウシ
オオバギボウシ

稜線では、常時風が吹いていたので体力の消耗を防いでくれた。風がなければ、とても今回のペースでは歩けなかっただろう。
ユートピアに別れを告げて振子山への稜線に入っていく。植生はキャラボクやナナカマドなどの低木に変わっていく。藪に引っかかれて露出した腕がつらい。崩落した箇所を越えて振子山山頂に至る。東谷の深い谷や荒々しく崩壊した三鈷峰の東壁がよく見える。振子山からロープの垂れ下がった滑りやすい岩場を下っていくと、親指ピークが目前に迫る。初めて見る人は、これのどこを登るのだろうと圧倒されるはずである。しかし、実際に近づくとそうでもなく、いつの間にか親指の先端に到達している。ハンガーボルトにロープが垂れ下がっている。この稜線の縦走は、厳冬期にこそ醍醐味を発揮する。

野田ヶ山に近づくと難路は一段落する。うっそうとしたブナ林を下っていく。大休峠手前は藪が濃く湿地になっており、かなりぬかるんでいる。大休峠で長目の休憩をとり、次の登りに備える。予定より1時間程度早い到着である。
矢筈ヶ山を登るにつれて気温が上がり、暑さへのストレスが厳しくなってきた。山頂では、日が完全に昇って日陰がないので、小矢筈側に下った樹林の中で小休止することにした。
次の小矢筈直下の登山道は、土壌が流出して岩が露出しており、一部腕力が必要な岩登りを強いられる。荷物を背負っての縦走は負担が大きい。

ゴジラの背
ゴジラの背

深い藪の中を進み、甲ヶ山の登りにさしかかる。トラバースする箇所が崩落しており、外傾している岩場をロープ頼りにトラバースしないといけない。東斜面は風が遮られ、今回最も辛い登りだった。ゆっくりとした歩みでようやく頂上に達した。今まで出会った登山者は小矢筈で引き返していき、甲に登る登山者はいないだろうと思っていたら、足早の5、6人のパーティが迫り来る。トレランスタイルの若者たちは、高知から来たそうだ。藪の中を半袖、半パンで痛そうだ。互いに写真を撮り合って、暑くならないうちに先を急ぐ。ゴジラの背を越え、甲川分岐を過ぎて勝田ヶ山の山頂に達する。ここまで来るとゴールが見えて来る。早く着きそうなので、吉村さんにショートメールを入れておく。大汗かきながら登って来る登山者とすれ違う。いずれも船上山起点の日帰り登山者のようだ。勝田ヶ山からは緩やかに下っていく。疲労はさほどでもなかったが、この距離を歩くとさすがに膝が痛くなってきた。
ブナの森の中に杉の木が見え始めると神社が近づいてきたことがわかる。突然、薄暗い森に明るい空間が現れる。葉っぱの落ちたナラの木は、みな枯死している。ナラ枯れという現象らしい。森林総合研究所によると、ナラ枯れとは、「カシノナガキクイムシが病原菌を伝播することによって起こる、樹木の伝染病の流行」と定義付けられている。つまり、虫喰いではなく感染症ということである。
十数年のうちに植生が遷移して、驚くほどの巨木は少なくなったが、木漏れ日が心地よい森である。タコブナのうねった枝に趣を感じながら歩いていると、神社の赤い屋根が見えてきた。想定より2時間早い到着である。
吉村さんから沢を抜けた旨のメールが入っていた。神社の木陰で涼みながら、水をくんだりして過ごす。予定時刻に吉村さんと元廣さんが到着した。差し入れの冷えたビールをごちそうになった。そして、甲川遡行の状況をいろいろ聞いた。上ノ廊下の核心となる滝が斜面の崩落によって埋没してしまったそうだ。その先にダム湖が形成されていて、300mの泳ぎを強いられたそうだ。こうなると沢遡行と呼べなくなる。重要な資源が失われてしまった。崩壊期にある大山山系は、地図上から登山道が消えたり、ルートが消失したりしている。
登山道脇にビバーク体勢を整えて、食事をしながら日暮れを待つ。ここに泊まる理由はヒメボタルを見ることである。8時ころになってようやく薄暗くなってくる。そうすると、神社前の巨杉の脇に点滅する光が見え始める。その数は徐々に増えていき、一面が光の海となった。ヒメボタルは一般にあまり認知されていないが、水生ホタルに対し陸生ホタルでカタツムリなどをえさに生息している。雄しか飛ぶことができず、ゲンジボタルと比較して光の点滅が早い。ライトを消して暗闇にたたずむと、まるで異次元にトリップしたようだった。みんなホタルの乱舞に満足して、早々と暗闇にいびきが響き渡っていた。
早朝、船上山を後にして合宿プレ山行を終了する。大山はすでに200回近く通っているが、毎回新たな発見がある。しかもそれは年々奥深くなっている。今回は、清流、花、稜、森、そして、ヒメボタルで締めくくった。

船上神社にて
船上神社にて

<コースタイム>
7/15 木谷登山口10:55→12:30鳥越峠12:50→13:20駒鳥
7/16 駒鳥5:00→7:20振子山→8:15野田ヶ山→8:45大休峠9:10→9:50矢筈ヶ山→10:45甲ヶ山11:15→11:50勝田ヶ山12:10→13:30船上山
7/17 船上神社5:30→6:00船上山→6:50船上山登山口