ミッドナイトラン2003(野呂山~海田) 5月31日~6月1日


三谷 和臣

<参加者>神庭、田房、西田(入会心得)
<行動記録>
台風は早朝通過したはずだが、神庭君が運んできた鳥取産の台風の影響で、本降りの中の出発となる。小雨決行と書いたことをすっかり忘れて(余り意味はなかった)、精鋭メンバーは傘を差して歩き始める。良く整備されて程良い傾斜の登山道を登り詰めて、愛嬌のある仁王像を通り過ぎると弘法寺に到着した。
車道に出ると、風雨が一層強まり、傘をさしているのが辛かった。たまらず、ロータリーのトイレに逃げ込む。カッパの上下を装着して、気持ちを新たに横殴りの雨に突入する。突風を一発食らって傘のフレームが曲がる。膳棚山を通過し、自然遊歩道を更に進めば勧農坂に至る。峠で一休みする。あれだけ降っていた雨も小降りになり、二級峡への下りではすっかり上がる。ガスが一気に晴れていき、遠くに広の街が見えてくる。
二級峡への急下降で蓄えた貯金を一気に使い果たした。二級ダムでは、降り続いた雨のために放水中だった。恐ろしいほどの激流である。ここで日が暮れ始めたので、ヘッドランプを装着する。みんな最新のLEDで眩しいほどだが、私のはロウソクの明かりのように寂しい。それを口実に神庭君に露払いをしてもらう。ダムを渡ったところから、すぐに灰ヶ峰に続く登山道に取り付く。灰ヶ峰への縦走路は、急な登りが続く。分岐点が数カ所あり、何度か地図を確認する。林道の分岐点で江ノ藤山への登山道へ入る。暗闇の中、足下は笹が被って倒木に引っかかり、雨でぬかるんでいるので思うように進まない。
灰ヶ峰では、今までの不快さを清算するかのような絶景が待っていた。100万ドルまではいかないが、すばらしい夜景が眼下に広がる。遠くには四国の明かりも見えている。静かに見とれていると、一般大衆(我々は一般ではない)が、「きゃー、きゃー」と黄色い奇声とともに近づいてきて、雰囲気を壊されてしまった。おまけに夜中に登山をする馬鹿はいないので、不審者と間違えられそうだ。初夏だというのに肌寒く、風をしのいで行動食をむさぼり食う。焼山への下りは、送電線に沿って急で長い坂道を下る。
例会山行一日分の行程を歩くとさすがに疲れが見え始める。早くも睡魔と戦っている田房さん、初めのロングランに平然と付いてくる西田さん、力が有り余っている神庭君、みんな黙々と歩く。大庭山の辺りよりペースが落ち始め、休憩にも締まりがなくなる。日が変わると段々と寝そべる体勢になってきた。満点の星空を眺めながら単純に気持ちよいだけだが。緊張感のない歩きなので、何か気分をすっきりさせるような方法はないだろうか?
烏帽子岩山はルートから逸れてしまうが、山岳会にとって欠かすことのできない山だ。鍋土峠から気味の悪い真っ暗な車道をしばらく歩くと、烏帽子岩山登山口が現れる。ここから頂上までは、中国自然歩道のため、良く整備されており、あっという間に頂上に着いた。稜線からいつも見る町並みの夜景を見下ろす。
野営場の炊事棟で長めの休憩をとる。田房さんは、「係、寝ます」と言い、テーブルの上に大の字になって眠ってしまった。よく見ると暗闇に無数のテントが張ってある。目覚ましのアラーム音とともに高校生たちが出てくる。空が徐々に白んでくる。山岳会に入って夜通し歩いたのは初めての経験だ。
西田さんが足の不調を訴えているので、継続の意志を確認したところ、意外にも迷っている様子である。普通なら既に嫌気がさしているはずだが、大したものです。結局ここで下山と言うことになり、天応に続く道路に出たところで見送る。残る3人は無条件に先へ。
恐ろしく増水した深山の滝をぼーっと見ながら、黙々と歩く。このころより、睡魔が激しく襲ってくる。どうでも良いくらい眠く、気を抜くと意識がふわふわ飛んでしまいそうだ。歩き始めて既に16時間を経過している。絵下山への登りはとても長く感じる。見晴らしの良い電波塔の脇で、すっかり朝になった広島の町並みを静かに眺める。
絵下山からは中国自然歩道とありながら延々と車道を歩くことになる。少し考え物である。金ケ灯籠山への登山口が確認できたので、次回(いつになるか解らないが)は登山道をつなげるように意識した方がよい。
不法投棄を監視するセンサーが反応して、しつこく「みんなの道路です」と注意してくる。健全な登山者に対して失礼なので、石を投げつけながら歩く。神庭君が時々立ち止まって道路の法面を見つめて落ち着きがない。ほどなくいちご狩りが始まった。私も何個か口にしたが、よく見ると中に虫が…。そんなことお構いなしで神庭君は袋一杯のいちごを平らげた。満足したようだが、今度は腹が痛いと騒ぐ。などなど、眠気を紛らわせながら、長い長い車道を歩き続ける。ジョギングのおじさんと抜きつ抜かれつ、海田駅への道を聞くが、半眠状態で理解不能であった。既に足の裏の感覚が麻痺して自分の足ではないようだった。
昼をリミットにしていたので、海田をゴールにした。とは言え、絵下山から海田までが異常に長く感じた。世間では普通の日曜日、人通りを不思議な感じで見つめる。足を引きずるようにして何とか海田市駅にゴールした。こぢんまりと一本のビールを回し飲みをして打ち上げとする。その一口が睡眠薬のようで、座っていると意識を失ってしまう。海田市駅で解散とし、私の場合は歩いて帰るつもりが、不本意にもJRに乗って自宅に向かう。
山岳会伝統のミッドナイトランを体験してみて、初めてにしては上出来だと思ったが、高い目標(何か特徴を付けたくて広島までとしたが)に対して現実は厳しかった。時間に制約がなかったら海田から先を続けることができただろうが。元気だけが取り柄の神庭君は残念がっていた。ポイント毎に経過時間をチェックしていたものの、野営場の時点で、余りの遠さに最終ゴールは難しいと感じていた。歩く速さが特別遅いわけでもなかったが、見積もり段階でコースタイムに余裕がなかった。
ミッドナイトランを終えて参加者それぞれの思いがあるだろうが、その思いを次につなげていって欲しいと思う。今回の反省を踏まえ、また新しい形で実施できたら良いと思う。また、惜しくも参加できなかった人は、一度は経験して欲しい山行だと思う。楽しいですよ。色々な意味で。
参加者の皆さん本当にお疲れさまでした。また、色々な方面から激励のメールを頂いたようだ。ありがとうございました。
<コースタイム>
安登駅15:00→17:00野呂山ロータリー→18:10勧農坂→19:15二級ダム→22:20灰ヶ峰→23:30神山峠→0:30大庭山→1:30鍋土峠→3:20烏帽子岩山→3:55野営場4:50→6:40絵下山→8:30矢野峠→11:20海田市駅