深谷川「トチゴヤ谷」


神庭 進

月 日 7月15日
参加者 大前、吉村、武田、中島、山本(文)(前夜:小此木)




<行動記録>
 台高山脈の沢「東ノ川シオカラ谷」へ行く予定であったが、台風4号の直撃に遭い断念、一縷の望みにかけて広島方面へ変更した。前夜は大前邸へ集合し、翌朝晴れたら沢、雨なら三倉街道の草刈りをする。そのためトランクには沢道具と一緒に鎌、ナタ、刈払機が積んである。

 土曜の夕方、武田さんと中島さんを乗せ、佐伯町の大前邸を目指す。間違いなく雨だろうと、途中で二人とも鎌を購入した。台風勤務で来れなくなった奥原さんも鎌を買ったらしい。草刈りは、玖波からの三倉街道維持のため数年前から始めたが、今では拓く楽しみとなっている。夜は大前さんが用意してくれた北海道ラム&マトンを食べていると、どこからか18年前の「アサヒ・グラフィティ」が出てきた。大前さん親子と岡本さんが行った韓国ツーリングの記事だ。なんとツール・ド・フランスと同等に扱われている。久しぶりに楽しく飲んで、雨も上がった。

 翌朝5時半、台風一過。沢は大前さんおススメの深谷川「トチゴヤ谷」に決めた。1台を寂地の駐車場へデポした後、河津の集落から林道に入り、夫婦岩の前に車を置く。佐伯町は晴れていたのに、こちらは風雨で荒れている。しばらく深谷川沿いの左岸林道を歩き、右岸へ橋を渡ったところでアシガ谷が右から出合い、そこから小径となるが、さらに左の本谷を進むとしばらくして右からトチゴヤ谷が入ってくる。この谷にはトチノキが多く、村人が食糧の栃の実を採りによく入っていたことがあり、この名が付いたようだ。谷の入口には古い石積みと3メートルほどの滝がある。我々は勘違いしてもう少し本谷を進んだが、気付いて引き返してきた。トチゴヤ谷は水量がさほど多くなく、小さい谷のように感じたが、すぐに狭い廊下状へ落ちる8mの滝に出会って安心した。これは左岸側壁から確保して登った。ここから2つの小さな滝を越え、約15分で「大竜頭」というのだろうか、核心の連瀑に出会った。
 9年前、大前さんは右岸のスラブを登ったらしいが、今回は左岸のルンゼから落ち口へ回り込んだ。落ち口で流れを渡り、細く鋭く落ちてくる中段の滝は右岸のブッシュ帯を確保して登る。そのまま上段の三条の滝も右岸の草付きから越えて一連の滝を通過した。この後も滝は続いて休みがない。階段状に砕けて落ちる8m滝は右岸直登、続く大岩の下を流れる細い斜滝は水流をまたいで越える。
その少し先で二股になり、右股へ入ると細い流れで支流っぽい印象を受けるが、しばらくすると再び二股で、左股には樹間から見事な斜滝が見える。どちらを行っても問題なさそうなので、楽しそうな左股に入り、滝の右岸水流を浴びながら直登する。さすがにそろそろ終わりかなと思っていても、まだ滝は続く。8m直爆は右岸直登、水が砕けて糸のような2段の斜滝も直登する。
 すると源流の趣きに変わり、水流は細くなり藪に覆われ、やがて水もなくなる。先ほどの大休止で筋温が下がったためか、大前さんの脚が駄々をこねて辛そうだ。紫陽花の群生の中を進むと、寂地山~右谷山の縦走路に出た。右谷山との鞍部からタイコ谷へと回送班が先に下り、河津まで往復して、寂地峡の駐車場で全員揃って解散とした。

 滝また滝。誰かが造ったような、バランスの良い沢だった。紀州のような大渓谷とは違った良さが、西中国山地の沢にはあると思う。人の暮らしと自然との関わりというのか、このトチゴヤ谷にしても、以前に溯行した甲羅ヶ谷にしても、里のすぐ裏手から入渓していく様がいい。それに加えて、桑原良敏著「西中国山地」の存在がまた、魅力を高めている。この一冊に、どれだけの貴重な情報が含まれているだろうか。読むたびに、その情熱に感心するばかりである。
 最後に、「西中国山地の沢」という本を宇部山岳会の方が出版されており、そこにはこのトチゴヤ谷も溯行図とともに掲載されています。私はその本を持っていないので、この記録上の滝の落差等は主観的なものです。

<コースタイム>
寂地峡駐車場8:40→9:25夫婦岩9:50→少し迷ってトチゴヤ谷出合10:45→大竜頭の下11:45→大竜頭の上12:55→二股(右へ)13:20→二股(左へ)13:30→稜線15:30→寂地峡駐車場17:30→回送後寂地峡駐車場19:00

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