3月15日(土)~16日(日) (係)三谷
参加者:吉村、保見、松林、真栄
<行動記録>
春合宿のプレ山行として、残雪期の大山を臨んだ。
今回目指したのは三鈷峰。宝珠尾根からユートピアを経由して登頂するのが、一般的なルートだが、今回は阿弥陀川を遡行して、頂上から東谷と剣谷を挟んで北に伸びる尾根(北稜)を登る計画を立てた。他会の記録を参考にしながら、いつかこの美しい雪稜に取り付いてみたいと計画を温めていた。
阿弥陀川はゴルジュ帯があるため、雪が安定した時期でないと尾根に取り付くのは難しいだろう。あるいは、下宝珠越から剣谷、阿弥陀滝を下降し、この尾根に取り付く方法もある。
仁王茶屋を出発して、大山寺、豪円山、スキー場を横切りながら環状道路を進む。3月中旬とは言え、積雪は豊富にあり、スキー客であふれていた。
かろうじて頭を出した看板によって川床だとわかる。1mの雪壁を乗り越えたところでワカンを装着する。先日新たな降雪があり、今回も厳しいラッセルになりそうだ。
阿弥陀川にかかる橋を見て愕然とする。橋の両岸が雪壁になっているではないか。期待したトレースもない。しかし、早速松林くんと保見さんがスコップを持ってルート工作を始めた。数分後、両岸に立派な階段が完成した。いつもなら気持ちの悪い箇所を行くのは私の役目になるが、助かった。難所にぶつかった時、パーティーが前進するために、メンバーが知恵を絞って対処する、これがパーティーの本来あるべき姿だと感じた。
渡りきったところで、縦走隊とは別れる。さて、北稜隊はと、阿弥陀川を覗きこむ。同じく不安定な雪が付いており、適当な下り口が見つからない。
ここは無理をせず、いったん橋を引き返して左岸より高巻くことにした。やっとのことで、北稜へのアプローチに取り付くことができた。
しかし、難所は続く。ワカンを履いて、岩に乗ったきのこ雪を崩しながら渡渉したり、ブリッジを渡ったり、雪壁をへつったりと、夏の沢登りより大変だ。
残雪期を選んではずが、積雪量は例年よりも多く、大山のまだ春は遠い。果たして、尾根の取り付きにたどり着くことができるのか、心配であった。
川幅は徐々に狭まり、泥壁をへつる必要が出てきた。安全な渡渉点を見出だすことが難しく、引き返してブリッジを渡るということを繰り返した。
ゴルジュ帯、そして、S字に蛇行する沢を抜けると、視界が開ける。やっとのことで、三鈷峰を見渡せる地点までやってきた。樹氷が陽光で白く輝き、一同目を奪われる。
東谷と思われる顕著な谷とはっきりとした尾根が目に飛び込んできた。ここは無雪期に数回訪れたことがある。
しかし、目の前の尾根が対象ルートか確信が持てないため、荷を下ろして偵察することにした。
阿弥陀滝が見える位置まで来て、三鈷峰に続いている北稜であることを確認して引き返す。
帰りに、広島労山の2人パーティーと出会う。彼らは北西稜を登るそうだ。
水場も近く、ブッシュもなく快適なキャンプ地であった。
4時間の行動だったが、気温の高さと探索作業に疲れて喉がカラカラになった。テントを建てて、水を作る手間もなく、さっそく乾杯。食当は吉村さん。おつまみは、猪肉の焼肉などなど。脂がのって大変おいしかった。メインはちゃんこ鍋だった。
翌朝、4時起床。天気はまずまずである。
明るくなり始めた頃、全装備を担いで目の前の尾根を取り付く。傾斜のきつい雪稜から、岩の露出した尾根を木をつかみながら登っていく。所々雪が氷化しており、アイゼンが必要だ。
ここを歩いて引き返すのは厳しいように思われた。この時点で頂上に抜ける意を決する。
コンディションはさほど悪くない。
保見さん、松林くん、真栄くんが交代でラッセルする。
ナイフリッジを抜けると、しばらくは緩傾斜の歩きやすい雪稜になる。東谷側は雪庇が張り出しており、歩きにくいがブッシュの中を抜ける。
ふと、野田ヶ山に続く尾根を見ると、人影が見える。横山さん率いる縦走隊に違いない。着々と野田ヶ山に近づいていた。
標高1100mを越える頃より、三鈷峰の全容が現れてきた。真っ白な雪山が青空に映えて綺麗だ。しかし、風は強く、雪煙が舞っている。
三鈷峰の頂は遥か遠くに見え、尾根の長大さを感じる。
1300m地点で鋸の歯のような岩稜帯が現れた。いわゆる北稜のジャンダルムと呼ばれるエリアである。
急峻な尾根を登ると、小岩峰に出合う。松林くんが先行して確認する。岩峰を右から巻いたところが登攀開始となるテラスだった。数メートルのトラバースだが、滑落は致命的なので、早めにロープを出した方が良いかもしれない。
横山さんから親指ピーク手前で引き返す旨のメールが入ってきた。風が相当強いのだろうと思った。我々は登攀開始する旨を返信する。
登攀パーティーは、以下の構成。
・先行:保見Lー松林L
・後続:真栄Lー吉村Fー三谷F
登攀の準備をして、まず保見ー松林パーティーが取り付く。
1ピッチ目は、痩せた岩稜をトラバースして、ブッシュ帯に入りピッチを切る。安定した雪がしっかりと付いており、特に問題なかった。
2ピッチ目は、藪を漕ぎながら広い雪の斜面に出る。保見さんのパーティーは、先週の弥山尾根登攀の教訓を活かして、スピーディーに登っている。
振り返ると、我々のトレースが尾根上に続いていた。改めて尾根の長さを実感する。しかし、自分たちでつけたトレースを眺めるのは気持ちの良いものだ。
3、4ピッチ目は、尾根上のブッシュで支点をとりながら、雪壁を登っていく。白い斜面に入るのは気持ちが悪い。実際に、保見さんの登る横の斜面では、つむじ風の影響で数回にわたって表層雪崩が起きていた。
この頃から風の影響を受け始め、確保体勢でじっとしていると寒い。今日はヤッケで正解だった。さらに、背後から不気味な黒い雲が近づいている。
先週の遭難のことが頭にあり、登攀を早く終えて稜線から抜ける必要があると思った。真栄くんには申し訳ないが、スピードアップを頼んだ(というよりも、ロープアップとか、ビレー解除か?とか叫びまくった)。支点構築を丁寧に行う気持ちはわかるが、時間がかかりすぎで、ビレー点に着いてフォローが登るのに10分以上かかっている。
5ピッチ目は、再び細い尾根に入り、わずかに露出した岩を登る。6ピッチ目以降は単調な雪稜となり、やがて、北西稜と合流する。通常は岩屑の尾根だが、積雪が多く、岩のほとんどが露出していない。
頂上が判然とせず、吉村さんと「頂上まだですかね」と話していると、保見さんが顔を出した。「頂上ですかー」の問いに、○のポーズで、一安心。最後はロープをたたんで頂上に出た。
しかし、喜ぶのはまだ早い。達成感に浸る間もなく、急いで下山だ。風が強く、天気は下り坂だ。松林くんトップで、三鈷峰の急な尾根を慎重に下る。
剣ヶ峰の稜線はすでに雲の中にあり、それがユートピアまで下がってくると、下山路を見つけ出すのは困難になる。幸い、ユートピア小屋から勝間ケルン、上宝珠越にかけて、新しいトレースがつけられており、それを使わせてもらう。上宝珠越でやっと登攀開始から6時間ぶりの行動食をとることができた。連絡時間を過ぎてしまったが、横山さんに下山中の旨のメールを入れる。
ここからは夏の砂滑ルートを下降してダイレクトに元谷に達した。北壁は真っ白でまだ登れそうな雰囲気だ。
元谷から大上山神社を経て、計画通りの15時に待ち合わせ場所となる情報館に到着した。
この冬も天候に恵まれず、ほとんどの山行が消化不良だったが今シーズン最も充実した山行となった。
このエリアに入ると、大山でも泥臭い山行を約束してくれそうだ。しかし、取り付くことのできるメンバーは、自分の足で歩くことができるメンバーに限られるだろう。北稜トレースを実現させてくれたメンバーに感謝である。