No.3655 大 山


神庭 進

6月 24日夜~26日


大前、岡本、武田、楢原、宮重、山本(文)、多賀谷(重)


<行動記録>
 山川谷は琴浦町(旧東伯町)の三本杉集落から入り、大休峠を経て大山寺へと至る古道が通っていた谷である。昔は大山詣でや、牛馬を連れた博労が大山寺まで行くためにここを通っていたのだが、今ではその古道も荒れ果ててしまい、相当な物好きしか訪れることのない忘れられた谷になってしまった。しかし藪に覆われているものの、道そのものは安定した場所に付けられており、少し手を入れれば好ルートに成りうる。そんな訳で我々はこの山川谷に注目し、昨年の例会では船上山から大休峠、そして山川谷というルートで歩いた。そしてその下山中に、「来年はこの山川谷を沢通しに登ろうやー」という話が出たので、それを今回実行に移すこととした。そして私には、もうひとつ気になっていた谷があり、今回そこへも行ってみることにした。地獄谷の支谷「大休谷」、これも人の訪れない谷である。
 広島組は大町を19時に出発し、前夜の宿となる日野町の滝山公園で山陰支部2名と合流した。この公園の施設はなかなか良いのだが、ちょっといわく付きなので、怖くて大人数でないと泊まれない。しかし結局、いつも通り午前様になる。

25日(山川谷)
 飲みすぎの頭を抱えて滝山公園を出発する。鏡ヶ成を越えて三本杉集落へ下り、そこから林道に入って標高約450m地点に駐車。「山川谷のカツラ」の標識にしたがって入渓する。・・・入渓するのだが、係が共同食料を忘れ、再び滝山公園まで往復2時間かけて取りに行った。ごめんなさい。入渓後しばらくは平流歩きが続く。右岸にも左岸にも、杉の造林地が現れては消えて行く。しかし沢は明るく陽気な感じだ。途中で大前さんが竿を出してみるが、釣れたのは泥バエだった。会報で予告した通り平流の沢歩きが続き、だれもが油断していたところに、まさかの泳ぎ。ほんの2mの滝が釜をつくっている。大前さんと係はさっさと泳いで行ったが、岡本さんは釜の水位を下げるべくせっせと土木工事をしている。皆が小馬鹿にする目線で見ていると、みるみる水位が下がっていくではないか。そこを直子さんがへつりムーブで突破して、後続も同様に。このあと数百メートルで二児滝に着く。上段10.3m、下段4.9mで、上段にはきれいな釜がある。古くは「おおどんど」と呼ばれていたらしい。一息入れたあと、左岸のルンゼから巻く。その二児滝から150m程度歩くと、今度は三本杉滝だ。いかにも泥の中から岩盤が現れたという感じの黒岩を、スダレのように水が落ちている。落差10.5m。ここは左岸の滝際に一段あがり、そこから滝を登る。微妙なので、後続には上からロープを投げて固定した。滝を越えると、今度は谷が狭まったところでチョックストーンに阻まれる。大前さんが登り、お助けロープで後続を引き上げる。しかしすぐに、じょうご状の登れない滝が現れた。飯盛滝の前衛の滝(4.9m)かとも思ったが、それはもっと上流にあるはずだ。行く手を阻まれ、我々は狭い空間に閉じ込められてしまった。さっきのチョックストーンまで戻り、ヌメる側壁をロープを出して脱出した。このまま溯行を続けるには時間が足りそうもなく、谷沿いの古道経由に変更する。ちょうど脱出したあたりが山川谷の核心だったのだろう。沢登りとしては初級だが、沢歩きとしては、しごかれた。
 古道は植林を抜けてブナ林に変わる。なかなかの巨木だ。ゆるやかに登る古道をゆっくり歩くと、さっきの山川谷源流を横断する。水はチョロチョロとしか流れていないが、今夜はここでビバークすることに。8人で土木工事を行い、3張分のサイトを作成。そして焚火と食事に取りかかる。今夜のシェフ神庭がアシスタントを使いながら、昆布と鰹でだしを取ってめんつゆを作り、ざるそばを頂いた。疑惑の料理長だったが、今回で汚名返上、名誉挽回の出来栄えだった。夜の山の気配を感じながら、久しぶりの焚火を囲んで楽しいひとときは過ぎていった。半分はツェルトで、もう半分は焚火の横で空を見ながらごろ寝した。

26日(大休谷)
 朝の焚火とモーニングコーヒーのあと、必要装備以外は山川谷に置いて、大休口経由で大休谷を目指すことにした。山川谷から三本杉別れまでは笹藪で埋まっているが、係が3週間前に付けておいた赤テープを頼りに進む。ここも笹がなければ快適なのにもったいない。約40分で三本杉別れに着き記念撮影。この道があってこそ、「三本杉別れ」の名にも意味が出てくる。ここから中国自然歩道を大休口へ下り、さらに地獄谷へと入っていく。堰堤群を越えると幕営可能なちょっとした河原になり、すぐに大休谷が右から入ってくる。しかし入り口は草木に覆われていて、それとはわかりにくい。谷に入るとすぐに大休滝の下段滝(落差11.7m)である。滝は小さいが、それなりの空間を作り出している。一人が右岸のブッシュ帯を登って滝の上に出て、左岸のルンゼへロープを投げて後続が登る。ここからさらに50mほど進むと上段滝(落差26.5m)が待っている。黒光りする岩を、釜に向かって一条で落ちる姿は美しい。場所が場所だけに、この滝を目にした人は少ないだろう。広島の人となると、なおさらのこと。みんな来て良かったでしょう?この滝は右岸からブッシュ伝いに這い上がると、大休谷と地獄谷を分ける細い尾根に出る。幻のカンテのように積木状態で、つい崩した足元は、落石となって地獄谷と大休谷に分かれて落ちていった。ちょっと怖いが、こんな景色は珍しく、秘境的だった。再びブッシュ伝いに滝の頭に下りて、数メートルに狭まった谷を溯行する。小さな釜や滝をへつったりしながら、鋭いV字谷は沢登り気分を盛り上げてくれる。それもしばらくで平流に変わるが、それはそれで植生豊かで明るく気持ちがよい。この谷は野田ヶ山のあたりが源流になるが、このまま谷を行くと広島へ帰れなくなるので、標高910mのあたりで谷に別れを告げ、傾斜の緩んだ左岸のルンゼを詰めて中国自然歩道へ抜けた。そこから東の三本杉別れへ向かう。暑いが、ブナ林を渡る風が心地良く、すべてを忘れさせてくれる。三本杉別れからは朝来た道を通って山川谷へ戻り、装備を回収して三本杉の林道へ帰った。大山マイナールートの旅、どうだったでしょうか?下山後は日野町の「リバーサイド日野」で入浴(200円!)して、併設レストランでカキ氷を食べて帰った。

 山川谷の古道には復活してもらいたい。今回、林道から山川谷源流を横断する部分までは、誰が刈ったのか草刈されていた。もうあと一歩なのだが。

<コースタイム>
25日(山川谷)
林道から入渓(11:00)→二児滝(13:45)→三本杉滝(14:15)→引き返した滝(15:00)→古道(16:05)→山川谷源流(17:20)

26日(大休谷)
山川谷源流(7:30)→三本杉別れ(8:10)→大休口(8:50)→大休谷出合(9:35)→大休滝下段(9:40)→大休滝上段(10:30)→溯行終了標高910m(11:50)→中国自然歩道(12:50)→山川谷源流(13:50)→林道終点(15:10)→入渓地点(15:50)

最後に、滝の名称や落差などについて、日本山岳会山陰支部の「美しき伯耆の滝たち」を参考にさせていただきました。

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