日程;2005年5月27日夜~29日
メンバー;菅野、宮本
今回、菅野さんも宮本も諸般事情で昨年G.W.以来1年ぶりの沢登りとなった。27日は中央線相模湖駅で夜23時に待ち合わせだったが、お互い早めに到着、この1年間の出来事を話しながら現地(山梨県巨摩郡三富村)に向かい、出発地すぐ手前の道の駅に泊まった。
28日は道の駅で全て仕度を整えた上で、西沢渓谷入り口登山道駐車場まで移動、7時40分に出発する。8時40分、ヌク沢橋より入谷し、時折、斜滝や滑滝の現れる谷を黙々と進んでいく。10時に甲武信岳への登山道渡渉点を横切ると、目の前に平成16年完成の真新しい堰堤が立ちはだかる。当然、遡行図や地図には載っていない。これを越すのに結構な高巻きをさせられる。この堰堤を越すとまた次の堰堤が見える。それを越すとまた次が。結局5~6個の新しい堰堤が次々と登場し、すっかり興醒めしてしまう。堰堤に飽きた頃、トイレ休憩をしていると突如後続パーティが現れ、恥ずかしいことになってしまった。この堰堤群は、谷の左岸上部斜面に作られた大規模な林道の影響でそこいら中で大規模な地滑りが発生しているため、土石流だか何かを防ぐ名目で作られたものと推察される。林道の方は何の目的で作ったのか、全く訳がわからない。どこもそうだが、ただ金を落とすためだけの自然破壊工事としか思えなかった。いくつも堰堤を高巻きしていると、対岸にシャクナゲ群落が咲いているのを発見し、私はそちらを経由して堰堤を高巻きすることにし、菅野さんは今登っている斜面からそのまま高巻くことに・・・。私はシャクナゲの花を堪能するとともに、すぐ下で谷が二股に分かれているのに気付いた。目的の左沢に入っていたので問題はなかったが、多数の堰堤が出来たせいもあり、二股と認識できなかった。この谷では更にこの上で奥の二股があり、そこは右に入る。シャクナゲを見るために対岸に行かなかったら、奥の二股を最初の二股と勘違いして、反対に行ってしまうところだった。
奥の二股に12時半に到着、ここでも素晴らしいシャクナゲ群落が咲いて、しばし観賞する。奥の二股からはようやく渓谷らしさを取り戻して斜滝や滑滝が続き、上部にはこの谷のハイライトの大滝がとんでもない高さから覗いている。やがて大滝の下部に着く。大滝は3段に分かれ、ほぼ階段状で傾斜もさほど強くないが、大変大きく、上部ははるか彼方である。遡行図によると3段260mと言うことだ。1段目は適当にどこからでも登れる。2段目は多少傾斜が強まるので、念のためアンザイレンする。易しそうだが、ヌルヌルの苔によるスリップが怖い。まずは菅野さんトップで登る。左手水流沿いが傾斜が緩く見えて易しそうなのでそこを登るが、途中でいやらしくなってしまった。ガイドブック通り真中を登るのが正解のようだ。2ピッチ目からはトップ宮本に交代する。アンザイレンといっても歩けるようなところもあれば、ツルッとしていやらしいところもあり、ロープを使っても使わなくてもいいような感じだが、付けたまま登った。ロープは30mしか用意しなかったので、しょっちゅうピッチを切らねばならず、結構時間を食ってしまう。2段目上部で飽きてきてしまい、アンザイレンも解いて左手の潅木が生える部分を登る。大滝はルートの取り方で如何様にも難易度が変わる感じだった。3段目は傾斜も少し緩んでフリーで登る。ピンク色のコイワザクラが滝の側壁一面に咲いて、とてもかわいらしい。
大滝の上は谷の傾斜が一気に緩み、滑床状になる。あたりはいかにも奥秩父らしい原生林の森で、とても雰囲気のよいところだ。鹿達のテリトリーらしく、足跡があちらこちらに見られる。今日は稜線の非難小屋まで行けるのでは、と思っていたが、16時半頃となり、ちょっと厳しい。途中よい寝場所も見られたが、少しでも上に進みたいので、さらに登っていくと伏流となる。その手前を本日のビバーク地とした(標高約2040m付近)。ガスが出て小雨も振り出したが、ひどくはならなかったので食事は外でする。雨の振り出しとともに焚き火もあきらめてしまったので、結構寒かった。ほぼ砂地でまずまずの寝床と思ったのだが、左右方向に傾斜があり、寝転んだとたんにマットからずり落ちてしまう始末で、頭の向きを変えたり、転がり止めの荷物を置いたり、苦労して漸く眠りについた。整地がいいかげんだったせいもあるが、近年まれな寝心地の悪さとなってしまった。
翌29日は晴れの朝だった。たいして降られず、ツェルトだけでも十分雨を凌いでくれて助かった。当初予定では今日は久渡川ナメラ沢を下降して戻ろう、という計画だったが、久渡川はかなり長いので、少なくとも稜線泊まりでないと時間的に厳しそうだった。ナメラ沢はまたの機会として、木賊山から登山道を下山することにした。この登山道は記憶ではシャクナゲの木がたくさんあったので、昨日の咲き具合から推察すると、今回山行の目的の1つでもある、シャクナゲの花が期待できそうだった。またしても遅い8時40分の出発、源流部では再び谷の傾斜も強まってくる。上部で明快な鹿道兼踏み跡が現れ、これをたどって樹林帯を登っていく。出発して約1時間で稜線登山道に到着(標高約2300m付近)、ちゃんと早出すればナメラ沢の下降も出来そうだったが、まあ今回はシャクナゲ尾根で行こう。沢靴から運動靴に履き替え、木賊山に向かう。この辺もシャクナゲは多く見られるが、蕾はまだ小さく、咲くのは相当先のようだ。木賊山が近づくと残雪が多くなり、ついには登山道部分が雪道になって、運動靴に入りそうでいやだった。木賊山は2469mあり、奥秩父でも高い山の部類に入るが、完全に樹林に覆われ、頂上という感じではない。しかし、あたりは苔に覆われた原生林が見事だった。
戸渡尾根という尾根を下山する。出発地まで標高差1400mあり結構長い。30~40分下った頃からシャクナゲの木が多くなり、登山道両サイドには花がちらほら咲き始める。最初は高度が高いので蕾が多かったが、高度が下がるにつれてどの株もたくさんの花をつけ、見事な咲きっぷりである。シャクナゲというのはさっぱり咲かない年もあるが、今年は当たり年のようだ。私の思い違いかもしれないが、咲く年は全国どの山域に行ってもたくさんの花を咲かせているが、咲かない年はどこに行っても咲いていない。その年の天候のせいだけとは思えない不思議な現象である。更に高度を下げると日当たりの良いところの株はすでに咲ききっている。ああ、これで終わりだな、と思ってフィルムもどんどん消費していった。ところがわずかな登り返しとシャクナゲの木より高い樹林帯に入ると、まだ蕾や咲き頃の大群落が現れ、この付近が最も見事だった。(菅野さんはシャクナゲピークと名付けていた。)カメラのフィルムは既に残り少なく、存分には撮ることが出来なかった。よくある失敗です。今思えば最初の方はだいぶしょぼいものを撮って、フィルムを浪費していた。その後もいくら下ってもシャクナゲは続き、さすがに咲ききっているが、時折まだ咲き頃の花も見られ、もうお腹いっぱい、十分楽しませてくれた。シャクナゲは好きな花なので、今回の大群落には大いに満足した。
写真撮りで菅野さんよりかなり遅れたので、食事もとらずに急いだのだがさっぱり追いつかない。2時間半も降りた頃に、途中でヌク沢を渡るはずなのが何だか様子が変、と気付く。そういえば私の持っている古い地図にはない徳ちゃん新道という道が出来ている。いつの間にかそちらを降りていた。もともとはヌク沢を渡るつもりだったので、菅野さんは旧道を降りたかもしれない。仕方ないのでとにかく降りて、旧道の登り口で待っていようと思った。下まで降りて林道に出て、旧道の登り口近くまで来て前方に菅野さんを発見、菅野さんも林道に降り立つまで新道を降りていることに気付かなかったとのことだ。今思えば「なんだろう?」程度にしか思わない分かれ道があったが、いつからなのか、徳ちゃん新道がメインルートになっているようだった。出発地駐車場には14時40分到着、早めに降りたと思ったが、中央自動車道名物の夕方の大渋滞にはまって、17時45分ごろ、相模湖駅で解散とした。
ヌク沢は上流部がとても良い雰囲気だったが、大滝以外はこれといった特徴的なところがなく、今回はメインの沢登りより、シャクナゲの大群落が印象的な山行となった。