月日:8月11日(火)~8月16日(日)
参加者:吉村(光)、松林、吉村(太)
<行動記録>
今年の夏合宿は再び穂高連峰において、三年越しとなる計画を実行した。
計画は、奥又白池から前穂高岳北尾根を経て奥穂高岳を越えて行き、北穂高岳から滝谷を登攀し下山する予定だった。仕事や家庭の都合により、メンバー揃ってのトレーニングはなかなかできなかったが、例会では不十分な点を個人山行で補っていった。結果としては、粘った甲斐あって滝谷は時間をかけて堪能した。
8/11
一日の予備日を設けて、当初計画より一日早く出発した。この日も猛暑、サービスエリアを出歩くとめまいがするほどの暑さである。京都周辺で渋滞に遭ったが、ほぼ時間通り、仮眠地である東海北陸道の松の木峠Pに到着した。
8/12 曇り
朝5時起床、30分で出発する。朝起きると、車中泊の車がぎっしり止まっていた。
高山の市街地を抜けて、平湯に向かう。あかんだな駐車場はすでに満車に近い状態だった。駐車場で共同装備を分けてパッキングする。食料は極力軽量化し、余分な装備は省いたつもりだが、吉村くんはザックに荷物が入りきらず、出したり入れたり苦労している。
バスターミナルで、上高地行きのバスに乗り込んだ。ほとんどが上高地の観光客で、ちらほらと登山者が見える。1時間弱で上高地に到着する。例年より観光客は少なめだった。遭難防止対策協会の窓口に登山届を提出して出発する。
今年も一番の問題は天候、台風13号から変わった低気圧が進路を東に変えて、前線を伴って甲信越地方を通過する。計画通りの行程は絶望的だった。曇り空だがまだ雨は降っていない。いつものように、河童橋から梓川の奥に聳える穂高を望み、キャンパーで賑わう小梨平を抜け、明神で明神岳を見上げ、前穂の三本槍を確認しながら徳沢に到着する。多くの登山客がソフトクリームなどを食べたり、コーヒーを飲んだりくつろいでいる。我々は行動食をむさぼる。
さて、明日から天気が崩れると言うことで、滝谷一本に絞ることにしたのだが、それまでのアプローチをどうするか。奥又白への分岐点である徳沢で決断する。
明日の午後から崩れる予報だったので、取り敢えずは奥又白に向かうことにした。奥又白周辺の概念を確認し、前穂北尾根の岩壁を眺めるだけでも価値があるだろう。喧騒の涸沢は向かう気になれず、しずかな池畔でくつろぐことにした。
はっきりとした踏み跡を辿りながら緩やかに登ると、パノラマコースと奥又白池の分岐点に出る。赤ペンキでその文字が大きくペイントされている。豊富な水が流れているが、秋には涸れてしまう。
途中、下山中の数名の登山客と出会う。奥又白まで行ってきたが、明日から天気が崩れるということで下ってきたそうだ。賢明な判断である。
松高ルンゼの左岸に伸びる急峻な尾根に取り付く。こちらも明瞭な踏み跡があり、迷うことはない。しかし藪が被って、かつ、湿度が高くしんどい。しばらく同じような登りだが、若干開けた展望地に出ると、台地状の地形が目に入る。おそらく、あそこが奥又白池だ。北尾根の岩壁が間近に迫ってくる。最後は、お花畑をトラバースして登り詰めると、突然奥又白池が現れる。他にテントを張っているパーティーはいない。
池の前の穂高がよく見える一等地にテントを張る。あとは、水を汲んだり、池で汗を流したり?景色を眺めたりして思い思いに時間を過ごす。ただ一つ問題なのは、ブヨや蚊やアブなどが大量に飛び回っていることだった。さらにはムカデまで現れる。
携帯電話の電波が辛うじて届いたので、雨雲レーダーをチェックする。明日朝には早くも雨雲がやってきそう…。
8/13 曇り時々雨
なるべく雨に遭わないように、暗いうちに出発する。昨日通った登山道をいったん引き返して、奥又白谷に向かって急斜面を下降する。雨雲が低く、今にも降り出しそうだ。谷に下り立ったが雪渓はない。ガスの中からおぼろげに5・6のコルへと続くガレが見えている。
5・6のコル向けてかすかに踏み跡が付いている。ガレている箇所は不安定なので、沢の左岸の草付きを辿るのが良い。一部沢上を歩いたが、踏み跡にしたがって尾根上を辿ることになる。尾根の登りにさしかかったところで、ついに霧雨が降ってきた。
奥又白周辺から5・6のコルにかけては、高山植物が咲き乱れている。花好きな人にはお薦めのコースである。
1時間強で5・6のコルに到着した。コルには、テントサイトがあり、テント数張りは張れるだろう。急な五峰の登りが見えるが、今回は見送ることにする。
雪渓上を下る登山者が見える。北尾根に登ろうとしたのだろうか。この雨では登ってくるパーティーはいない。
我々はガレ場につけられた登山道を下る。登山道は不明瞭だが、樹林帯を目指すと所々に良い目印となるケルンがある。
涸沢には雨にもかかわらず、多くのテントが張ってあり、条件の良いテントサイトはすでになかった。しかも、今年は残雪が多いせいか山側のテントサイトは、雪渓に覆われていた。それを考えてか、グランドシート代わりに合板のボードをレンタルしている(有料である)。それを借りてきて、ならしたテントサイトに置く。今回はペラペラのマットしかないので、背中が痛くなくて助かった。雨に備えてフライを丁寧に張る。フライが本体に密着しなければ、テント内は快適さを保つことができる。
到着したのはまだ朝、話も徐々に尽きてきて、後は、ただ黙って時間を過ぎるのを待つだけである。
8/14 曇り時々雨
時間通りに起きるが、雨はまだ降っている。しばらく待機することにする。もう少し天気が安定していれば、涸沢ベースに北尾根を登ることも検討していたが無理そうだ。高気圧の圏内に入るのは明日からである。太平洋に台風が停滞していたために低気圧の進行が遅く、悪天候が長引いた。日本海には別の低気圧も発生していた。
明るくなると、雨が上がったので、出発の準備をする。午前中いったん小康状態となった雨は、午後から再び降る予報になっている。
外に出ると青空も見えている。それを見た登山者が一斉に動き出した。
午後から天気が崩れるということで、午前中に南稜のキャンプ指定地に移動することにした。北穂高に向かう登山者は多く、ゆっくりとしたペースで登った。登山道の一部は、歩きやすく整備されていた。稜線はガスに覆われており、標高を上げるに従い小雨が降ってきた。天気は不安定で降ったりやんだりの状態が続いた。南稜のテラスに到着すると、まず明日の偵察に出かける。滝谷の第四尾根に取り付くためには、C沢の左俣を下降する。その下降点は、北穂高岳北峰と松涛岩のコルにある。南稜から縦走路に入り、北峰側にしばらく歩くと正面に小屋と頂上が見え、山側に松濤岩が見えてくる。縦走路の×印のある箇所が下降点となる。ガレた深い谷がどこまでも続いていて不気味である。
8/15 晴れ時々曇り
4時起床、装備を整えて朝食をとらずに出発する。まだ暗かったので下降点で10分程度待機する。谷風が吹き上がり、カッパを着ていないと寒い。
はっきりとした踏み跡をたどり、すぐに北山稜上で踏み換えてC沢左俣に入る。あとは沢を下降すれば良いのでルートは明確だったが、沢のどの部分を下りるかの判断は難しい。松林くんがトップでルートを選択し、セカンドの吉村さんが状況の善し悪しを判断する。周辺からの落石が積み重なっていて状態は非常に悪い。新しい岩の積み重なっている部分は特に不安定である。吉村さんが崩れた岩に足を挟まれるアクシデントがあったが事なきを得た。メンバーが離れると、落石を受ける可能性があるので、ひとまとまりとなって下降することにした。かつ、ここは落石の巣であるのでスピーディーな行動が不可欠である。ダイヤモンドフェースを見上げると、どこから落石が起きてもおかしくない。しばらく下ると、滝が次々と現れる。しかも昨日までの雨で濡れている。懸垂下降のための支点があるが、かえってロープが落石を誘発するので、結局、懸垂下降10mを一回、あとはクライムダウンで乗り切った。
やっとの思いでC沢右俣との合流点に下りた。あとは尾根に這い上がるだけである。四尾根への取り付きになるスノーコルへのトラバースが一見悪そうに見えたので、松林くんに先行して確認してもらう。踏み跡があり簡単に行けそうとのことなので後に続く。
尾根に這い上がり安全地帯?となる。ほっと一息、一本立てる。ここからは稜線までほぼ尾根通しに登っていく。行動食を摂りながら、写真を撮ったりトポを眺めたりする。ドームがかなり上の方に見え、稜線ははるか彼方。この時点では、滝谷へ取り付いているパーティーはいないようだ。縦走路にも人影は見当たらない。時折ガラガラと落石の音が聞こえるくらいで、とても静かである。この日登攀が行われていたのは、ドーム周辺、クラック尾根のみのようだった。
目の前に5m位の岩場があり、念のためここでロープを付けることにする。先発を松林くん-吉村さん、後発を吉村くん-三谷の2パーティーに別れて、ツルベで登攀を開始する。
最初の岩場を越えると、しばらく歩きなる。150mくらいロープを引きずりながら移動する。お互いの状況確認のために、なるべくパーティー間を詰めて登ることにした。
実質1ピッチ目。松林くんがロープを伸ばす。どこでも登れそうな階段状の岩場を登っていく。しかし、最後はかぶり気味の凹角を左に乗り越していく箇所に時間がかかっていた。一手ほど支点を使わないと厳しかった。ライン的には右上するのが素直だったかも知れない。吉村君は初めてのアルプスの岩登りで、支点の取り方に戸惑っている様子。良い支点が見つからないという。ゲレンデではないので、良い支点は自分で作るしかない。クラックが走っているので、カムやナッツが使える。
2ピッチ目。同じく階段状を登り、濡れて滑りそうなスラブを右から回り込んだところで、安定したテラスとなる。今回は、軽量化のためにシングルロープを使用したが、ルートが直線的なため、特に問題なかった。むしろダブルロープはロープワークが煩雑になり、落石も起きやすかっただろう。ただし、ビレーデバイスとの摩擦が大きく、ロープの引き上げが難しかった。
3ピッチ目。第四尾根の特徴であるカンテのラインになる。カンテと言っても最初は細長いリッジである。墜落するとダメージが大きい。まずは、Aカンテに入っていく。傾斜は緩いが、両側が切れ落ちて高度感がある。カンテにまたがって馬乗りになるわけにはいかない。右や左に回り込んで、旨くスタンスを拾いながら登る。所々クラックが走っているので、支点にはカムやナッツが有効だった。
4ピッチ目。Bカンテは岩が硬く浮き石の不安はないが、スタンスは細かく、残置支点は少ない。草の生えたわずかに張り出したバンドに足をかけ、フリクションを聞かせて登る。高度感もあり緊張させられる。
松林くん-吉村さんは順調にロープを伸ばしていく。松林くんは初めての穂高での登攀で緊張しているだろうが、そんなそぶりは見せず慎重かつ大胆に登っている。
5ピッチ目。ほぼ歩きの簡単なピッチ。小ピナクルを越えてCカンテの手前まで。
6ピッチ目。A、Bカンテよりも傾斜の急なCカンテは、若干ホールドが細かく、最初の支点までが遠く感じた。やっと見つけた残置ハーケンも激しく折れ曲がっていて心許ない。
7ピッチ目。Cカンテを抜けると、草付きのルンゼが現れる。先行の松林くんが石を落としながら登って行く。ルンゼの中間でピッチを切る。ルンゼ内は落石が起きると避けられないので、後発は手前のビレー点でピッチを切って先発が抜けるまで待機する。
8ピッチ目。ルンゼの中間から。吉村さんの叫び声とともに、こぶし大の石がこちらに向かって落ちてくる。後から聞くとスタンスに足を乗せた途端崩れたそうだ。しばらくして、吉村くんを迎えて、同じく中間でピッチを切ってもらう。ここは1ピッチで抜けられたかも知れない。このピッチの中間には支点がほとんどない。ルンゼは一部ルートが崩壊していて、違った緊張感を味わった。
9ピッチ目。ピナクル横の穴をくぐると正面にスラブが見える。ツルムの肩までもう1ピッチ。チムニー状だが左のスラブもスタンスが豊富で十分登れる。吉村くんが慎重にロープを伸ばす。最後はかぶり気味の凹角をバランスで乗り越える。
ツルムのコルまでの約15mを懸垂下降で下降する。吉村さんたちが先に下り、そのロープを使わせてもらう。終了点から懸垂の支点までは、浮き石が散在しており、非常に危険な状態だった。不意に一つ小石を落としてしまった。懸垂下降も石を落とさないように慎重に下る。
10ピッチ目。第四尾根の核心Dカンテに入る。ここで、吉村さんたちがロープを結び直すために、先発と後発のパーティーを入れ替える。まず私がロープを伸ばすが、上部のチムニーに荷物がつかえて入り込めない。仕方がないので、ザックとハーネスをスリングで連結して登る。背中に荷物がないとスムーズに登れた。ところが、みさなんはフェースを使って登ってしまった。チムニーを抜けると安定したテラスに出る。ここでピッチを切って最終ピッチを吉村くんに託す。
11ピッチ目。テラスから上部は見えない。ゆっくりとだが、順調にロープが出て行く。しばらく立って、余りにも近くでコールが聞こえてきたので、もっとロープを伸ばすように促す。しかし、実は例のクラックが走る小ハングはフェースを乗り越えたすぐ上にあった。実際その下に来て、スケールの小ささに少々拍子抜けだった。A0で越えるか、フリーで越えるか。フリー的なムーブを要する一手である。それまでの高度感のあるカンテや脆いルンゼの方がアルパインチックであった。
ここで実質の登攀は終了。一昨年のさらに岩の脆い前穂の東壁に比べると、全体的に岩登りらしかった。
終了点からは展望が開けて縦走路のペンキのマークがはっきりと見える。残りは、稜線に向けてほぼ歩きのピッチに、ロープを伸ばしていく。最後、吉村くんが無事縦走路に立つ。すでに16時を回ろうとしている。
全員が揃ったところで、がっちりと握手を交わして、合宿パーティーとしての一体感を味わった。
しかしながら、登攀に時間がかかりすぎた。途中で雷雨もなく天気が安定していたのが幸いした。登攀時間を予定より2時間も超過した原因は、①メンバー全員が初見であったため、ルートの吟味に時間がかかった、②2パーティー同一ルートを辿ったため、待ち時間が生じた、③支点の構築に時間がかかった、④穂高の岩特有の浮き石が多かった、⑤落石を避けるためにピッチを短めに切った、ことが挙げられる。
休憩もつかの間、ここはまだ3,000mの稜線、下山の長い道のりが待っている。南稜のキャンプ地に戻るとテントが増えていた。くつろいでいるパーティーの傍らで、着いたと思ったら、テントをたたんで下山しなければならない。
長い岩稜の下りは膝が痛む。登り一緒だったパーティーに出会う。クラック尾根を登られたそうだ。穂高で登攀をしようとすると色々なことで時間がかかってしまう。涸沢には日没直前に到着する。
横尾までの長い道のりをヘッドランプ点けて下るが、本谷橋までの登山道は特に足場が悪く精神的にまいった。若い二人は何ともないようだ。
みんなが寝静まろうとしている21時前に横尾に到着した。そろそろ消灯では?と思いながら、自動販売機の電気がまだ付いていることを確認し一安心。吉村くんがお札を入れた途端「バチン」と電源が切れてしまった。それを見た吉村さん、表情が険しくなっている。仕方なく吉村くんはトラブル対応。
すでに暗闇のテントサイトにテントを張って打ち上げを行った。予備食を含む食糧もすべて食べ尽くした。もう疲れて目が閉じそう。
8/16 晴れ
さわやかな朝を迎える。無事合宿を終えて、軽い足取りで上高地へ。緊張も和らいで馬鹿話も再開した。朝一の便が到着し、続々と観光客や登山客が入山されている。平湯の温泉でゆっくり汗を流して帰路に就くのであった。
<コースタイム>
8/11 10:50 広島東IC→18:00 松ノ木峠PA
8/12 4:50 松ノ木峠PA→6:20 あかんだな駐車場着→7:20 バス乗車→7:55 上高地 8:02→9:40 徳沢 9:50→10:20 奥又白谷入り口→11:05 奥又白谷河原→13:18 奥又白池
8/13 5:00 奥又白池→5:28 奥又白谷渡渉点→6:50 五・六のコル→8:00 涸沢ヒュッテ
8/14 8:20 涸沢ヒュッテ→10:50 北穂南稜テラス
11:10 松濤岩(偵察)→11:20 北穂南稜テラス
8/15 4:23 北穂南稜テラス→4:35 松濤岩→
4:45 C沢下降開始→6:55 滝谷第四尾根主稜取付き→7:20 登攀開始→15:00登攀終了→15:43 主稜線 15:55→16:35 北穂南稜テラス 16:55→18:35 涸沢ヒュッテ 18:50→21:00 横尾
8/16 5:00 横尾→7:30 上高地→8:00 バス乗車→8:35 あかんだな駐車場 8:55→9:00 平湯温泉 9:40→19:00 広島東IC