10月11日(金・夜)~14日(月・祝)
<参加者>
三谷、平本、保見、兼森
<行動記録>
今回の裏剱山行は来年の春合宿の下見も兼ねている。そして、ルートになっている欅平からの水平歩道は、毎年、初夏になって黒部峡谷に残る雪が消えてから整備を開始するので、1年のうち開通期間は数ヶ月と少なく超レアなコースです。私は、申込期限ギリギリまで仕事を調整し急遽参加させて頂けることとなりました。
黒部ダムは黒部川の最上流に位置するダムとして昭和38年に完成したもので、その建設に当たっては、特に関電トンネルの貫通が破砕帯により大変難航されたそうで、これは有名な『黒部の太陽』で描かれています。
また、水平歩道は旧日本電力が黒部電源開発のために穿った道で、高熱地帯の阿曽原付近にトロッコ軌道を通す工事は特に難航したと言われ、この工事の様子を小説にしたのが、吉村昭の『高熱隧道』。実は、私は未だ読んだことがないので、是非これから読んでみようと思います。
10月12日
広島を出発して宇奈月温泉駅の駐車場に朝4時到着。車で仮眠を取り7時から行動開始です。あいにく空は朝から雨模様。宇奈月温泉駅から欅平駅までのトロッコ列車はまるで遊園地気分でした。私達の乗り込んだ車両は窓ガラスがない為、時折雨風が顔を叩き冷たく感じます。
欅平駅前の広場は沢山の観光客でごった返していました。それを逃れるかのように登山口から「しじみ坂」と呼ばれる急な登りで高度を一気に上げて行きます。尾根上に出て更に登る。送電線の鉄塔を過ぎると「水平歩道始・終点」の標識がある。ここからはほぼアップダウンはなし、幅は1mもない程の狭い平坦な道が続きます。危険箇所と思われるとこには、山側に手すり代わりの太い針金やワイヤーが張られていますが、谷側には転落防止の柵などは設けられていないので、雨で濡れた桟道を渡るときは滑って落ちるのではないか!?と緊張しました。
左対面に「奥鐘山西壁」の絶壁が現れる。別名「黒部の怪人」とも呼ばれクライマーの聖地だそうです。また、昔、志合谷の宿舎が丸ごと、泡雪崩で約600m離れたこの岩壁に叩きつけられたとも言われています。「泡雪崩」とは、爆風を伴う猛烈な破壊力のある雪崩で、これから行く阿曽原温泉小屋も毎年建て替えられるのには、そのような理由があるのですね。
志合谷トンネルはヘッ電が必須。冠水しており、足の踏み場所に注意が必要です。トンネルを抜けて暫くすると、コの字に断崖をくり抜いて通された崖に出ます。下を覗き込むと、とても高度感がありここが「大太鼓」です。オリオ谷トンネルもヘッ電を使用、水が溜まりぬかるんでいました。トンネルを通過すると大きな滝の下を通る。常に左側が深く切れ落ちた断崖に作られた道を行くので転倒には注意をはらいました。
徐々に下りが始まると、丸太の階段を幾つか下り高度をグングンと下げます。小屋の屋根が見えてからも更に下っていきます。沢の橋を渡るとようやく阿曽原温泉小屋に到着しました。テント場には3組くらいのテントが張ってありました。雨が本降りになり始めたので、急いでテントを設営して潜り込みました。
初日は結局ずっと雨で、視界も良くないので予定していた東谷吊橋とガンドウ尾根の偵察は明日に繰り越すことになりました。テントの中でゆっくり時間を過ごして、夕食は吉村さんの大量ラム肉のジンギスカン鍋にお腹も一杯。就寝する頃にテントを出てみると、辺り一面にテントが立ち並び、テント村がまるでランタンみたいで綺麗でした。
10月13日
朝の目覚めは少々ゆっくりしすぎて慌ただしくヘッ電を付けて阿曽原温泉小屋を出発する。暫く登りが続くと水平歩道となり、今度は急な下りとなります。関電の人見平宿舎を過ぎると、旧日電歩道のトンネル出入口があり、鉄扉を開いて中へ入ると熱風が立ちこめていて、時折硫黄の匂いがします。トンネルを抜けると仙人ダムへ出る。エメラルドグリーンの綺麗な景色をゆっくりと眺める。右手にガンドウ尾根が見え、側壁にいくつもの穴の開いたトンネルを過ぎると東谷吊橋に到着します。高度感のある吊橋をドキドキしながら渡る。道なりに左に進むと黒部第四ダムへと続く道です。ガンドウ尾根に直登する場合は、この正面の壁は結構険しい斜面となりそうだなと思いました。
仙人ダムへ戻って雲切新道に入ります。長い鉄梯子やロープが張られて高度を上げます。つづら折の急登が続く樹林帯を歩きます。尾根に上がると太陽に照り付けられ、夏は暑そうです。左手にはガンドウ尾根が見渡せました。下って来る登山客とすれ違い、譲り合いながら先を進んでいきます。
雲切新道のピークから下り始め、暫くすると仙人小屋が見えます。硫黄の匂いがしてくると左手の急な斜面からは仙人湯の源泉が流れていていました。手で触れられる位の温かいお湯でした。沢を左岸へ渡り仙人谷の沢底から登り返すと仙人小屋に到着です。水を補給して、次に目指す仙人池ヒュッテは、引き返すタイムリミット12時目標とし出発します。
ここからは砂混じりの滑りやすい登山道となり岩のペンキを目印に進みます。途中には雪渓も残っていました。更に左岸から右岸へと上がって行く。桟道には昨夜の雨が雪へと変わり薄っすらと初雪が残っていました。足取りも重くなりつつある兼森に、容赦なく吉村さんから早く歩けコールが聞こえてくる。何とかギリギリセーフで仙人池ヒュッテに到着。小屋の親切なおじちゃんが『あっちの方が景色良いよ』と教えてくれると仙人池へ出る。目の前に広がった景色に皆思わず叫ぶ!澄み切った青空の下、「八ツ峰・チンネ・三ノ窓」が一望出来たのです。去年の夏合宿で行った三ノ窓は霧の中で歩くのも恐かったけど、仙人池に姿を映す八峰と色づき始めた紅葉を心ゆくまで眺めることができた幸運に感謝です。今回は珍しく?吉村さんも三谷さんも自前のカメラを持って来られており、楽しみにしていた景色でしたね。
行動食を押し込んで阿曽原温泉小屋へ向けて出発する。帰りは五竜岳、鞍部に見える五竜山荘、鹿島槍ヶ岳の展望が広がる。初冠雪で山頂は一足先に冬を運んでいました。今年の5月の春合宿で歩いた稜線を観ながら山の位置感?(土地勘?)が少しずつ繋がってくるのが嬉しくなる。樹林帯に入ると、こんなにも急だったかなと思うくらいの下り坂をロープや笹をつかんでいく。「5時までにテントに着かんかったら、温泉抜き」の吉村さんの声に励まされ、仙人ダムへと転がるように辿り着く。ダム施設内の旧日電歩道に入ると先頭の保見さんと離れコースミス。吉村さんの「どっちに行きよるんじゃ」の声に立ち止まり、危うく迷路をさ迷う一歩手前でした。
阿曽原温泉小屋にはヘトヘトで戻ってきました。今回のもう1つのお楽しみの温泉はテン場から5分下ったとこにあります。1時間ごとに男女入れ替わりになるのですが、囲いもなくて正に自然!?天然の露天風呂だったのです。何だか不思議な雰囲気に少々戸惑いましたが、熱めのお湯で身体も温まると、11時間行動の疲れも癒してくれました。テントへ帰ると、10種類近くあるネタの豪華手巻き寿司が準備されていました。今回も美味しい料理メニューと、ギッシリと詰まった山行計画を吉村さん有り難うございます。
10月14日
最終日は、広島へ帰らなくてはなりません。始発のトロッコに間に合う為には、起きて直ぐにテントを撤収して出発します。3時起床、朝食抜きで30分後には歩きだします。まだ他のテントは明かりも付いていないので静かにテン場を後にしました。急な上りを終えると水平歩道に出ます。徐々に明るくなり初日より天気も良くて、景色も鮮明に見えました。奥鐘山西壁が見えなくなるまでいつまでも見ていました。
吉村さんから黒部渓谷の形成について教えて頂きました。急激な地殻隆起と黒部川の浸食作用により水が川底を削って谷の深さを増し、飛騨山脈の山々から流れ込む豊富な水とその狭隘な地形は水力発電所の適地となったようです。13Kmも続く二重線に見える水平道も、手掘りで作られたのでしょう。当時の職人さんの技術力の素晴らしさ、よく作られた道だと感心しました。
朝の閑散とした欅平の駅に到着し、帰りはトロッコ列車で次々と乗って上がってくる観光客の多さにと、ギャップは大きかった。また、ビジターセンターのおじさんによると、入山日の雨の水平歩道では、2件滑落事故があったようです。「水平歩道」言葉では易しいようですが気を抜けない長い行程でした。
[12日]
09:01 欅平駅→09:32水平歩道入口→11:20 志合谷トンネル→12:11オリオ谷トンネル→13:41阿曽原、テント設営、夕食→18:56 就寝
[13日]
04:00起床、朝食→5:20阿曽原温泉小屋→6:06関西電力人見平宿舎→6:23仙人谷ダム→6:41東谷吊橋→7:22仙人谷ダム→09:27尾根頂上(1629m)→10:06仙人温泉小屋→11:39仙人池ヒュッテ→13:36仙人温泉→13:50尾根頂(1629m)→15:33仙人谷ダム→15:43 関西電力人見平宿舎→16:34阿曽原温泉小屋、温泉、夕食→20:36 就寝
[14日]
03:00 起床、テント撤収→03:33 移動開始→05:57 大太鼓展望台→06:16 志合谷トンネル→08:04 欅平駅→09:16 トロッコ乗車→10:40 駐車場
(記:兼森)