12月30日~1月2日 (係)三谷
吉村、神庭、川﨑、平本、徳永、保見、兼森
<行動記録>
参加者は8名となり、最近の冬合宿にしては、大所帯となった。ここ2、3年の入会者は、冬山を目指す方も多く、オールラウンド山行を目指す会の活性化につながっている。課題は多いものの、サポートとして、遠征帰りの吉村さん、久しぶりに神庭くんの参加もあり、心強かった。
しかし、昨年の冬を含めても厳しい山行は行われておらず、経験の少ないメンバーが寒気に耐えられるかは未知数であった。
太平洋岸の低気圧が通過した後、強い冬型をもたらすことが事前に分かっていた。登攀を行うには、厳しい気象条件に加え、メンバーの技術的な問題もあった。合宿のSLである神庭くんと吉村さんにその旨を相談し、計画を南稜の登攀から一般ルートに変更することにした。
12月30日 天気:雨
冷たい雨が降る中、開店前の深川アクロスの駐車場に集結する。この低気圧と一緒に移動することになる。
大きな渋滞もなく、割と早い時間に駒ヶ根SAしたが、まだ弱いながらも雨が降り続いていた。テントを濡らしたくないため、美濃戸への移動をやめて、SA内の高台にある公園の東屋にテントを張らせてもらうことにした。コンビニで食料を調達して、静かに食事をとる。
12月31日 天気:曇り時々吹雪、気温:-12℃(行者小屋)
3時起床。SA内のスペースを利用して共同装備を分担し、素早くパッキングを済ます。諏訪南ICを下り、八ヶ岳山荘にある駐車場に移動する。山荘では、駐車の手続きをし、登山届を提出した。美濃戸山荘までは林道が続いているが、路面が凍結しており、四駆車両でないと上がることができないということだ。車で上がることができれば、行動時間を1時間程度短縮可能である。
天気はそれほど悪くないが、露出している手の感覚がなくなるほど冷え込んでいる。6時過ぎ、ヘッドランプを点け、ベースとなる行者小屋へ向けて出発する。
行者小屋手前で、兼森さんが若干遅れ始めるが、予定通り到着した。悪天候を敬遠してか、登山者は思ったほど多くない。小屋の前は、キャンプするにはあまり環境がよろしくないため、吉村さんの提案で、一段下の樹林帯に2張分のスペースを確保してテントを張った。テントを張り終えて、軽装で阿弥陀岳の往復に出発する。兼森さんが、「体に力が入らない」と不調を訴えたため、待機してもらうことを考えたが、テント内は寒いので、後ろからゆっくり歩いてもらう。軽い高度障害と思われる。残りのメンバーを神庭くんにお願いする。吉村さんには、兼森さんについてもらい、係は、先行メンバーとの間に入る。
左手に赤岳を見ながら、阿弥陀岳に突き上げる細いリッジをあがる。時折ガスが晴れたかと思うと、強い風が吹いては雪が舞う。
阿弥陀岳山頂直下は、急な雪壁となっている。また、夏道のトラバースは危険なため、神庭くんが上部を偵察しに行く。あっという間に稜線に消えて行った。先行パーティーがロープを使って下降しているのが見える。一方、中岳のコルを見ると、雪崩そうな沢筋を下降しているパーティーも見られた。
偵察から戻った神庭くんは、歩いて上がれるというが、間もなく引き返し時間になろうとしていたので下山することにした。ここが、雑誌などで紹介されている北稜のようだが、ルートの状況はほぼ烏ヶ山と変わらないそうだ。
テントに戻り、食事の準備に取り掛かる。水は小屋の脇から豊富に出ているので、燃料の節約になった。
明日の行動予定をSLである神庭くん、吉村さんと相談する。硫黄岳~赤岳への縦走を考えていたが、核心部を早い時間に通過したいと考え、まず、赤岳に登頂し、状況を判断して横岳までを往復、地蔵尾根を下山することにした。神庭くんは、みんなが寝静まった後も地図を眺めていた。
1月1日 天気:吹雪、気温:-18℃(赤岳)
今年もテントで新年を迎えることができた。行者小屋は穏やかだが、上部はガスっており、状況はわからない。本日の行動概要と稜線での注意事項を説明し、尾根に続く樹林帯へ向けて出発する。
吊尾根に合流するあたりから強烈なブリザードに見舞われる。風に正対して歩くことが難しい。時折吹く突風に姿勢を低く保たないと、バランスを崩しそうである。ここでいきなり、耐風姿勢を実践することになった。神庭くんの指示で、わずかな岩のくぼみでゴーグルを装着する。中には、引き返す登山者も見られた。ピッケルを支えに、一歩一歩前進する。赤岳の主稜には数パーティーが取り付いている。岩場は階段状に見えるが、この寒い中を大変ご苦労なことである。
動き続けているにもかかわらず、一向に手足が温まらない。久しぶりの感覚である。
鎖場が現れると、稜線はもう近いはずだ。稜線に出てから急峻な岩の間を縫うように登る。氷化したルンゼやバンドが現れるが、要所に鎖がつけられており、不安な箇所はない。
キレットへの分岐を過ぎると、頂上まであとわずかである。正月も賑わうとされる山頂も、さすがにこの強風下では、登山者は少ない。近くに居合わせた単独行者は、さらに天候が悪くなるということから、予定を早めて下山するという。頂上小屋の陰で風をよけて行動食を食べる。
さて、このあとの行動は。横岳方面の稜線がわずかに見えていた。縦走となると、これから数時間、やせ岩稜上で強風にさらされ、厳しいラッセルも予測される。この状況で突っ込むのは厳しいと考え、地蔵尾根からの下山を決める。
稜線直下の数10メートルが急な雪壁になっているので、慎重に下る。あれほど強かった風が樹林帯になると、ピタッとやんだ。
稜線から行者小屋まで1時間とかからない。下りてしまうと、稜線の厳しさが嘘のようで、大変あっけないものだ。神庭くんが欲求不満なようなので、「硫黄岳に登ろう」というが、到底日暮れまでに登って降りてくることはできない。
行動食を取りながら次の行動を思案していると、赤岳方面からシートに包まれて遭難者が運ばれてきた。両脇に支えられて小屋に入っていった。凍傷か滑落か何かだろうか。そういえば、赤岳に途中、奇妙な場所に掘られた雪洞にいる登山者が見えていた。
仕方がないので、アイスクライミングの名所であるジョーゴ沢を見学することにした。
赤岳鉱泉には、「アイスキャンディー」と呼ばれる人工の氷柱がそびえている。ベースにいながらしてアイスクライミングを気軽に楽しもうというものである。ここまでやると、街中の人工壁と変わらないが、田舎者の私たちにとっては物珍しく、触ってみたり、写真に納めたりした。
秋の下見の際、ジョーゴ沢の出合を、大同心沢と勘違いしていたが、硫黄岳の登山道から入るということである。ジョーゴ沢の出合には、明確なトレースが付いていた。
出合から歩くこと約10分で落差5メートルの滝がある。初心者(全員が初心者である)にとっては手ごろなので、トップロープをかけて登ってみることにした。稜線は吹雪だが、沢筋は穏やかで絶好のコンディションといえる。
ピッケルを振る行為(スイング)が初めてなようで、一段上がるにも苦労している。かつ、縦走用のピッケルではなかなかきまらない。一方、ピックとシャフトに適度なカーブのついた登攀用のピッケル・バイルは、氷が割れず一発で決まる。所謂アイスクライミングは、道具に依るところが大きいように思う。ローテーションで登り終えたところで、終わることにする。
行者小屋の前に戻り、改めて南八ヶ岳の山群を眺めると、神庭くんがいう「箱庭みたい」が象徴するように、大山と比較してスケールの違いを感じない。むしろ、大山北壁の方が威圧的である。山の標高が低いわけではないが、ベースとなる行者小屋が既に2,400mに位置するのも原因の一つである。行者小屋からは、最短1時間程度で稜線に達することができることからも、四季通じて登山者が多いのは納得できる。しかし、標高、気象条件、地形条件からしても決してやさしいという意味ではない。
「もう合宿終わってしまいましたよ」と、神庭くん、名残惜しさをかみしめていた。
1月2日 天気:曇り、気温:-12℃(行者小屋)
今朝は、餅入りそば。大晦日と正月を兼ねた感じだ。そばを茹でるとでんぷん質が出て、とろろそばのようになった。山ではインスタント麺が良いらしい。次回の教訓に。そう言えば似たような事例が、涸沢でのソーメン。そのとき、持ちみたいな塩辛い麺を神庭くんだけはおいしそうに食べていた。ところで、朝食の準備の要領は、だいぶ良くなってきた。
昨晩より、十数センチの積雪があった。ここは、まだ標高2,400mのため、安全地帯とは言えない。直ちに準備に取り掛かる。合宿最終日、やっと起床から2時間以内で出発することができた。
朝の冷え込みにより、林道はつるつるに凍結しており、代わり万古に転倒する。私も転倒した際、痛めている膝を激しくねじってしまったが、幸い、歩けるので問題なかった。最後の一人、神庭くんが豪快に尻もちをつく。ゆっくり目に歩かせてもらったが、2時間程度で無事八ヶ岳山荘に到着した。諏訪湖SAにある温泉で冷えた体をゆっくり温まって、帰路に就く。
<コースタイム>
12/30 大町駅7:30→8:00深川アクロス→11:30昼食→16:30駒ケ岳SA
12/31 起床3:00→駒ケ岳SA 4:20→5:35八ケ岳山荘6:10→7:00赤岳山荘→7:15美濃戸山荘→9:40行者小屋11:05→12:40岩峰直下(偵察)13:20→13:50行者小屋
1/1 起床4:30→行者小屋6:55→8:40吊尾根合流→9:15赤岳9:25→10:05赤岳展望荘→10:15地蔵尾根の頭→10:55行者小屋11:25→11:50赤岳鉱泉→12:15ジョウゴ沢(アイスクライミング)14:10→14:20赤岳鉱泉→15:00行者小屋
1/2 起床4:00→行者小屋5:55→7:20美濃戸山荘→7:35赤岳山荘→8:20八ケ岳山荘8:45→9:30諏訪湖SA→19:15広島