夏合宿 マウント・レーニア (係)三谷


三谷

月日:2016年8月13日~21日
参加者:吉村、松林、川本

短期間で登れそうな海外の山の条件として、国外の4,000m~5,000mの高峰であること、雪稜または氷河があること(雪山であることと)、合宿(会の事業)で行うこと、ガイドレスで行うこととした。
候補に上がったのは、ニュージーランドのマウント・クックとアメリカのマウント・レーニアだった。前者は南半球ゆえに季節が逆であることと、危険な氷河や岩稜の処理など難易度が高い。一方、レーニア山は、条件を満たしている上に山に関する情報も多い。ゲート・シティーからのアクセスもよく、1週間もあれば充分登ることが可能である。安易な選択だったが、後者に決めて計画を進めることにした。
アメリカ・ワシントン州、カスケード山脈 Cascade Rangeに属する成層火山 Stratovolcanoレーニア山 Mount Rainierは、形状が富士山に似ていることから、日系人から「タコマ富士」とも呼ばれている。港町シアトルのランドマークの一つである。標高は差し置いて、独立峰であるため、存在感は際立つ。
合宿に向けての雪上トレーニング、体力強化、長距離歩行、氷河レスキューの訓練など、レーニア山を意識しつつ、通常のトレーニングに取り組んでいった。氷河登山を見越して、北岳冬合宿、剱岳春合宿で、各々課題を認識しつつ、自立的にトレーニングを行った。問題は、高所への対応である。係は標高4,000mに2回訪れているが、特に高度障害に関する自覚症状はなかった。吉村さんは、ヒマラヤを初め高所の経験を持っているので、その影響がどういうものかは把握されておられる。若手二人については未知数であった。低酸素環境の適応に個人差があるため、国内の3,000m以上の山岳で、血中酸素濃度を測定しながら対策を検討した。

8月13日
早朝、吉村さんの車にて広島を発つ。小谷SAで松林くんを拾って、関西国際空港へ向かう。長期休暇初日とあって、大阪周辺の高速道路は既に渋滞が始まっていた。関西国際空港近くの民間駐車場を利用させてもらった。駐車場を運営する会社が、空港の送迎場で車を回送していった。
今回初めて自動チェックインのシステムを利用する。かえって搭乗者の手間が増えてしまっている。登山用ザック一つとギアバッグ一つを預けて、セキュリティチェックを行う。
エアカナダの飛行機に乗り込み、定刻通り離陸する。トイレ前の狭い座席に、冷房が効きすぎて寒い。機内食は味気なく、しかもアルコールが有料!あまり快適と言えない飛行機の旅で非常に疲れる。気流の乱れで機体が揺れることはあったが、同日、無事バンクーバーに降り立つ。バンクーバーでは、税関審査→セキュリティチェック(靴も脱ぐ)→入国審査(パスポートと指紋のスキャン、顔写真の撮影)と、いくつもの関門にうんざりとする。テロ対策に警備が大変厳しくなっている。頼りないプロペラ機でSea-Tac シータック(シアトル・タコマ国際空港)へ。あっという間に到着した。Link light rail リンク・ライト・レールと呼ばれる電車に乗り込んでシアトルのダウンタウンに向かう。広島でいうと路面電車(LRT)のような形態の公共交通機関である。一人3ドル前後なのでタクシーよりは安い。
海に近いPike Place Market パイク・プレイス・マーケットで食事をする。農産物や魚介類の販売が行われている歴史の古い市場である。神戸が姉妹都市になっているだけあって、丘陵地から海にかけての街並みはよく似ている。シーフードレストランがお薦めのようだが、手頃なレストランを見つけるのは難しく、結局、無難な中華料理店で炒飯を食べた。レストランで食事をすると、一食12~15ドルで日本より物価は高い。
ホテルで翌日の打ち合わせをして、就寝した。

8月14日
みんなぐっすり寝て、旅の疲れをいくらか癒やせただろう。朝一、ライトレールでパイオニア・スクエアに向かう。日中は気温が上がり紫外線が強いが、朝はとても涼しく半袖では肌寒い。空気は乾燥していて、日本よりも過ごしやすい。地域研究の一環として、シアトルの街のルーツを辿るアンダー・グラウンド・ツアーに参加する。シアトル発祥の地、パイオニア・スクエアの地下にある廃墟を巡る。1890年に建てられたパブから、ガイドの案内により出発する。ジョークを交えて案内してくれるが、早口でほとんど聞き取ることができなかった。シアトル大火災で市街地が消失した後、3m高い位置に再建されたため、旧市街地が当時のまま地下に残された状態になっている。当時、満潮時には下水が逆流する問題があったため、住民の意向で道路が高い位置に整備された。オキシデンタル・スクエア・パークには、トーテムポールや消防士のモニュメントが据えてある。その足で宇和島屋に向かう。日系のスーパーマーケットで、日本の食材を手に入れることができる。しかし、予定していたフリーズドライの食品は売っておらず、メニューの変更を余儀なくされる。店内のフードコートで昼食を済ませて、いったんホテルまで戻る。
休憩した後、REIでの買い出しのついでに、ユニオン湖畔にある歴史・産業博物館 Museum of History & Industry(MOHAI)でシアトルの産業の歴史について学ぶ。シアトルを拠点とする企業として、ボーイング社、マイクロソフト社、Amazon社、スターバックスの他、アウトドアメーカーとしてREI、OR、MSRなど。製造業、IT産業をはじめ、地域資源を活かした林業、ビール・ワイン生産、港が発達しているため海運業、水産業も盛んである。ユニオン湖には、多くのプレジャーボートやヨットが停泊していて、水上機が離発着していた。湖を利用したレジャーが盛んである。REI本店でガスカートリッジを購入する。クライミング用品の他、キャンプ用品、自転車、ウェアなど、品数が多い。フリーズドライの食品の豊富さに驚いた。これを知っていれば…と後悔。クライミングタワー、自転車試走用のトレイルが併設されている。
ホテルに戻って、オリンピックを観戦しながら、食料を分配。翌日の打ち合わせをして就寝とする。

8月15日
ホテルをチェックアウトして、最寄りのHertzでレンタカーを借りに行く。開店時間の7:30まできっちり待たされる。日本で予約の手続きをした松林くんが対応する。免許証の照合、ID(パスポート)のチェックなどの手続きに時間がかかった。トヨタカローラで、ぎりぎり荷物を積み込むことができた。駐車場を出たところからが大変だった。交通事情が異なる上に土地勘もない。なかなかフリーウェイに乗れず、何度もUターンした。そして、片側5つの車線を猛スピードで走行する車の流れに乗らなくてはならない。ドライブがこの遠征の第二の核心だったような気がする。やっと山岳道路に入り、パラダイスに向かうことができた。
道路の途中には公園ゲート(Nisqually Entrance)が設けられている。そこにはパーク・レンジャーが常駐しており、必ず入園手続きを行わなければならない。交通手段によって入園料が異なる。公園滞在を通じて、アメリカでは、レンジャーも訪問者も、自然に対する意識が日本とは異なるように感じた。日本の国立公園への訪問者は、街の観光の延長に過ぎない。公園ゲートで25ドルを払い(1週間有効である)、しばらく走るとLongmire ロングマイヤーに到着。元の公園本部があった場所である。レンジャーに尋ねるとクライミングパスの申請は、パラダイスで行うとのこと。小さな博物館を見学して、パラダイスに向かう。
本日の宿泊地であるCougar Rock Campgroundクーガー・ロック・キャンプ場(標高約800m)の前を通り過ぎ、Nisqually Glacier ニスカリー氷河を源とするNisqually Riverに沿って走ると、突然レーニア山の雄姿が現れる。氷河を伴った白い山は、圧倒的な存在感を醸し出している。日本にも雄大な山があるが、氷河を持ち、かつ、標高差2,700m以上の山容を見ることができる場所はない。
すでにパラダイスのビジターセンター前の駐車場は満車であり、道路沿いの駐車スペースに止める。新築のビジターセンターのレンジャーに聞くと、登山申請はレンジャー・ステーションで行うとのこと。規定のフォーマットに、代表者の住所、行程、装備のチェック、メンバーのリストなどを記入する。そして、一人当たり46ドルを支払う。ブルーバック(便袋)を数枚もらって、使い方と廃棄場所の説明を受けて手続き完了。ルートのコンディションを聞いたが、たんに”good”と返ってきただけ。クレバスは?と聞くと、”Yes, it’s very big”と。天気予報はずっと晴れ sunnyで、気温もさほど低くない。
登山申請を終えて、偵察がてら短いトレイルを歩くことにした。雲一つない快晴、多くのハイカーが散策していた。今の時季が、ちょうど短い夏のハイシーズンに当たる。秋以降は深い雪に閉ざされる。トレイルは歩きやすく整備されており(一部舗装されている)、ベビーカーを押しながら景色を楽しむファミリーもいた。網の目のようにトレイルが走っているが、分岐点には標識板が設置されていて迷うことはない。ビジターセンターには、トレールマップが配布されている。ビューポイントには、レーニア山に関する説明板が設置されてあり、トレイルを歩くだけでも十分に楽しめる。
高山植物の最盛期は過ぎていて種類は少ないが、紫色のLupine ルピナスが一面に咲いていて、針葉樹のmountain hemlock、Alaska yellow cedar、whitebark pineがモザイク状に分布している。その奥には白いレーニアの富士山のような山体が、真っ青な空の下に聳えている。まさに、Paradiseパラダイスの名にふさわしい楽園である。初めて見る者にとって、息をのむような風景である。「国立公園の父」と呼ばれるJohn Muir ジョン・ミューアが、“….The most luxuriant and the most extravagantly beautiful of all the alpine gardens I ever beheld in all my mountain-top wanderings.” 「今までの山頂の旅で見たすべての山岳庭園の中で、最も豊かで美しい」歌っている。レーニア山5番目の大きさを誇るNisqually Glacier ニスカリー氷河が際立つ。上部には、懸垂氷河 Hanging glacierが唇のように留まっている。時折、不気味な落石の音だけが響き渡る。軽く一回りだけする予定だったが、もっと近くへ寄ってみたいという想いで、奥へ奥へと進んでいき、スカイライン・トレイルの眺望の良いビューポイントで満足して引き返すことにする。
クーガー・ロック・キャンプ場には、車の乗り入れが可能で、キャンプサイト、駐車スペース、テーブル・ベンチ、たき火用かまどがセットになって20ドル。水道、トイレも併設されている。日本のオートキャンプ場に比べるとかなり安い。夕食は、簡単に、α米とソーセージ、レトルトのスープなどで済ます。そこへ、日本人の男女が、お酒を持ってお薦めのトレイルがないか尋ねてこられた。キャンプ道具を初め、お酒や食料を日本から運んできたそうだ。旅慣れている感じである。アメリカの国立公園にはまって、グランドキャニオンから始まり、全国の公園巡りをしているそうだ。近くではカントリーのにわかコンサートが始まり、アメリカに滞在していることを実感した。

8月16日
4時に起きて、軽く朝食を取り、パラダイスに向かう。まだ薄暗く静かな駐車場で準備を進める。最後に、トイレでたまった物を出して出発する。日の出と同時に、重装備となったザックを担いで歩き始める。気温は、パラダイスで10℃くらい。今日も暑くなりそうだ。日焼け対策を念入りに行う。
トレイルに足を踏み入れようとしたとき、鹿 (Black-tailed Deer)の群れが目の前を横切る。公園周辺の野生動物は人間を恐れる様子がない。この後にも、遠く氷河上を歩く、ヤギ (Mountain Goat)も見られた。朝日に染まるレーニア山を眺めながら、スカイライン・トレイルを歩く。Marmot Hillという高山植物の咲いている小高い丘で、マーモット Marmotに遭遇する。人を警戒している様子はなく、マイペースに朝の食事をしていた。
トレイルが終わると、Muir Snow Fieldと呼ばれる広大な雪原が現れる。緩やかだが長い登りを、ゆっくりとした歩みで登り、昼過ぎにはCamp Muir キャンプ・ミューアに到着する。レンジャー・ステーション、ガイド小屋などがある。レーニア山ではガイド登山が盛んであり、その他のパーティーは少ない。日本ではガイドシステムはまだ確立していないように思うが、安全性の面からガイド登山前提になる山も多いと思う。山を熟知していないと、危険なルートも多いはず。また、周辺の登山者のひんしゅくを買うことになる。
キャンプサイトは狭く、堅い氷河を切り出さなくてはならない。氷河の氷は、スノーソーの歯も入らないほど堅い。しかも、少し動いただけでも息切れとめまいがする。まだ標高3,000mを少し越えたくらいだが、明日の行動が思いやられる。やっとテントを張り終えて、水作りを進める。高所では十分な水分の補給が必要なため、明日の行動用の飲料水を多めにつくる。
海藻サラダ、サラミとポテト入り具たくさんのカレーを食べた。深夜出発に備えて、日没前にはシェラフに入る。

8月17日
1時過ぎに起床。朝食は摂らず、不要な荷物をテントにデポして出発する。他のパーティーは、23時頃には起きてすでに出発したようだ。我々の出発が最後であった。満天の星空に、満月が氷河を明るく照らしている。気温は5℃程度で寒くない。ヤッケの上着だけを着る。アイゼン・ピッケル、ハーネスを装着し、ロープを結び合って、氷河に入っていく。もともと堅い氷河は、さらにカチカチに凍っている。松林くんをトップに、セカンドの吉村さんがトップの補助、川本くんを挟んでラストに係が付く。
まずは、Cowlitz Glacier カウリッツ氷河をトラバースする。幸い、月明かりがルート上を照らしており、Cathedral Rock Gap カテドラル・ロック・ギャップに向かうトラバースは問題なかった。しかし、ルート上には落石のあとが多数見られる。昨日夕方にも、落石が頻繁に発生していた。朝は雪が安定しているとはいえ、気持ちは良くない。雪のないギャップ(峠)を越えて、Ingraham Glacier イングラハム氷河に入っていく。Ingraham Flatと呼ばれる平坦な場所には、キャンプできる場所があるが、暗くて気付かなかった。トレースが不明瞭で、いつの間にか、氷河のクレバス帯の中にいた。ヒドゥン・クレバスもあり、渡る際は後方に注意を促すように伝える。
氷河を下り基調に進み始めたので、ヘッドランプの光が見えていたラインを目指すよう、トランシーバーで進路修正を促す。大きなクレバスがいくつもあり、ルートを外すと大変危険である。松林くんは、ルート図を見ながら、氷河を直登するルートと岩稜帯に入るルートのジャンクションを探しているようだが、見つからない。氷河は常に動いているため特定のルートは存在しないようだ。暗いことに加えて、もともと目が見え辛いので、ルートファインディングは前に任せる。しかし、危険を感じた場合や状況の確認は、トランシーバーで逐次やりとりをする。前日、Ingraham Flatまで足を進めて、偵察等を行い翌日に備えた方が確実である。ガイドたちは、氷河歩きやルートに精通しているが、我々は氷河登山初めてで、かつ、山自体も初見である。そもそも、剱や穂高の夏の雪渓歩きとはスケールが異なる。直登ルートは、Ingraham Glacier Directルートのようだが、クレバス帯に阻まれとても登れそうにない。バリエーション・ルートを登ることができるのは、一部のエキスパートだけだ。松林くんが、下降中のパーティーに状況を訪ねているようだが、判然としない。彼らが通ったトレースを辿る。氷河を登っているように見えたが、Disappointment Cleaverに取り付くための巻き道だった。月明かりに照らされた巨大なセラックが不気味に迫ってくる。危険だが、氷河登山がこの山行の醍醐味である。岩と砂の山だったら、この山の美しさや魅力は半減していただろう。
何とか、Disappointment Cleaverへの取り付きとなるトラバース道に入る。雪のないガレ場のトラバースを終えると、岩稜沿いに登っていく。ガレ場はアイゼンでは歩きにくい上に、ロープが岩角に引っかかって進行を阻む。ロープが浮き石に触れて大きな落石も起きていた。日本の山でも、こういうケースはたくさんある。ロープを交わすのも技術である。ショートロープで歩く登山パーティーを見かけたが、これは、ガイドが絶対滑落しないことが前提のシステムである。
岩稜上で夜明けを迎えた。複雑なクレバス帯を抜けて、ルートの見通しがきくようになりホッとする。赤紫色に染まる氷河や山並みが大変美しい。雲海の上に三角錐の端整なアダムス山が聳える。Ingraham Glacierの懸垂氷河、Disappointment Cleaverを隔てて、レーニア山最大の氷河、Emmons Glacier エモンズ氷河の大きなクレバスも不気味に口を広げていた。改めて自然の造形に感心する。
辛いガレ場の登りを終えて、上部の氷河帯に入る。標高は、まだ富士山の高さを少し超えた3,800mくらいで、頂上までは遠い。すっかり陽が昇って、気温がどんどん上昇してくる。標高が上がるに従い、歩みも遅くなっている。急に高度を上げたので、順応できていなかったと考えられる。メンバーの血中酸素濃度の数値も70前後と、危険値を推移していた。クレバスを迂回するように大きくトラバースしており、なかなか高度を稼げない。計画よりも遅れ気味のことが気になり始める。一番問題なのは、気温の上昇で氷河が不安定になることである。ルート中には、クレバスだけでなく、ルートの上部にはセラックや懸垂氷河がいくつもあり、それらが崩壊すると大変危険である。日本の山でも下山時にベルクシュルントの形状が変わっていることはよくあることだ。
下降中のパーティーから「氷河は非常に不安定で、スノーブリッジもあるので気を付けて」とアドバイスしてくれた。途中、クレバスにかけられたハシゴの橋を2箇所ほど渡る。ハシゴには、板が渡されているが、係は足下がよく見えないのでバランスが悪く緊張する。
East Craterの最後の登りの前に、不安定なブリッジがある。雪が薄く透けて見えている。昨日までのルートは、クレバスが完全に開いてしまって使えない。そろりと足を乗せるのだが、最後の私がブリッジを踏み抜いてしまった。時間がかかりすぎているため登頂をあきらめかけたが、みんな気力を振り絞って足を前に進める。低酸素に脱水症状が加わり、メンバーの足に痙攣が起こる。しかし、何とか11時前に、East Craterに到着。そして、広大な火口を横切る。火口といっても富士山のように深くない。
ついに、最高点のColumbia Crest(4,392m)到着。山頂を示すポールが一本立てられている。何も遮る物がなく、360°の展望である。空気が澄んでいて、遙か遠くまで見渡せる。周辺で最も高い場所である。広大な大陸のちょっとした突起の上に立っているような感じである。感動の握手を交わし、写真を撮って早々に下山を始める。まだ行程の半分である。長く危険な下りが待っている。
スノーブリッジの状態は、登りよりもさらに状態が悪くなっていた。確保用のアンカー(スノーピケット)が設置されているので、確保しながら通過する。吉村さんに続いて、係も踏み抜いてしまった。腰くらいの高さで留まったが、クレバスの深さはそんなものではないはずだ。氷河の深さは30mにも及ぶそうだ。考えただけでゾッとする。その後に続くハシゴも傾いていて、アンカーもぬけかけていた。ここも確保しながら通過した。安全対策で、想定よりも時間がかかっている。そこへ、レンジャーの方が、ハシゴを担いで登ってこられた。彼らにルートの状況を伝える。レンジャーの日々のルート整備のおかげで、この氷河登山が成立していることを実感した。
Disappointment Cleaverのガレ場の下りは、特に足にくるのでアイゼンを外して下降する。足下がよく見えず、係をはじめとしてロープで繋がっているメンバーのストレスがたまる。トレースが不明瞭で、ルートをさがしながら下って行く。
やっと、イングラハム氷河に下りることができたが、まだまだ気が抜けない。今にも崩壊しそうなアイス・フォールがトレース上に迫っている。足早に通過したいところだが、足が動かない。朝通過したルートは使わず、比較的新しいトレースを辿るようにしてもらう。そのトレースは、クレバスをうまく迂回していた。氷河でキャンプしている登山者がこちらに向かって何か叫んでいるようだが、こちらは疲れているので無視して歩き続ける。最後のカウリッツ氷河を落石に注意しながら歩く。足を引きずりながら、日没寸前にキャンプ地に到着した。早朝からの16時間行動に、みんな疲労困憊であった。何より、無事下山できたことに安堵する。水分を十分にとり、温かいものを食べて、やっと落ち着くことができた。全てが体に染み渡る。

8月18日
今日は下山するだけ。ゆっくり起きて、ゆっくり出発する。雪原の表面は凍っているので、アイゼンを付けて下りる。背後のレーニア山を振り返りつつ、昨日の行程の余韻を噛み締めながら歩く。パラダイスにかけてのスロープも美しい。近くでキャンプしていた二人組も素早く尻セードで下っていった。
吉村さんをはじめ、普段写真を取らない松林くん、川本くんも携帯のカメラでシャッターを切っている。常に見えるレーニア山の存在とそれを取り巻く様々な環境が、いつの間にかメンバーを魅了していた。パラダイスでレンジャーに下山届を提出して登山活動は完了である。年間数千人と言われる登頂者にカウントされた。最後に二日間のたまった物を放出する。
登山前に見損ねたナラダ滝を、遊歩道越しに鑑賞し、アシュフォードに向かう。アシュフォードのレーニア山ベースキャンプにたどり着き、やっと昼食にありつける。もちろん食事は、ホットドックとハンバーガー。日本のハンバーガーよりはおいしいのだが。パンは日本の方がおいしい。しかし、このような食生活では肥満と肥満による疾患リスクが増えることは間違いない。敷地内には、登山用品店のほか(クライミングボードもある)、レストラン、モーテル、登山用品レンタル、ガイド会社がある。登山用品店では、登山用具や土産物、地図や貴重な山岳書籍も置いてあった。昼食後、なかなか勝手の分からないGSで給油をし、スーパーで食料、飲料水を買い込む。
公園ゲートの目の前にあるGateway Inn at Mount Rainierというモーテルが今日の宿泊場所。手配した川本くんがチェックインを対応する。Wi-Fiも利用可能である。快適なモーテルのシャワーで汗を流し、荷物を整理する。みんなが落ち着いたところで、登頂と無事下山を祝して、ささやかな打ち上げをする。脱水気味の身体には良くないが、ビールを浴びるように飲んだ。

8月19日
今日は、シアトルに戻る以外は、一日フリーである。Paradise経由で、第2の登山基地であるサンライズ Sunriseからレーニア山最大のEmmons氷河を見に行くことにする。
まず、お薦めスポットReflection Lake リフレクション・レイクを見に行く。風のない晴れの日、レーニア山が湖面に映るそうだ。今日は風が吹いて波が立っているため、逆さ富士?を見ることはできなかった。要所に設置されている展望台に止まって景色を眺めながら、サンライズ方面に車を走らせる。サンライズ手前のSunrise Point展望所には、観光道路開発の歴史が説明されていた。時代背景として不景気対策の公共事業の一環と推測した。展望所からは針葉樹の森が広がり、きれいなSunrise Lakeが見下ろせる。
サンライズのビジターセンターで展示物を見学し、一番短いソアドー・リッジ・トレイル Sourdough Ridge Trailを歩く。エモンズ氷河を一望することができた。レストハウスで昼食を食べて、土産物を購入する。特別変わった土産物はないが、レジのお姉さんが”Reuse me”と書かれたエコバッグをくれた。White River Entranceのレンジャー・ステーションでガスカートリッジを処分して、名残惜しいが、最高の旅を与えてくれたレーニア山を離れ、シアトルに向かう。運転を若手二人に任せて、無事今日のホテルに到着した。週末の夕方ということもあって大渋滞となっていた。長いドライブでご苦労であった。
レンタカーを返却して、歩くのに疲れたので、近くの雰囲気の良いスペイン料理のレストランにした。翌日は朝のフライトのため、早めに就寝した。

8月20日-21日
朝5:00、ホテルから前日予約しておいたタクシーで空港に向かう。
早朝の空いた道路を猛スピードで飛ばしたため、あっという間に到着した。荷物を積んでもなお余裕のある大型シボレーのSUVで、大変乗り心地が良かった。時間に余裕があるので、のんびりくつろいでいると、早朝にもかかわらず、セキュリティチェックのゲートには長蛇の列ができていた。しかし、窓口は多数あって、かつ、金属センサーと全身スキャンの流れ作業によって、あっという間にチェックは終わった。空港での待ち時間も飛行機の中も読書をしながら静かに時間を過ごす。疲れて、食う寝る以外は放心状態だった。この程度の旅で疲れてはいけないが、短いがなかなか内容の濃い旅だった。夜広島に到着。お疲れ様でした。
(記:三谷)

<コースタイム>
8/13廿日市 → 東野 → 深川7:00 → 広島東IC → 小谷SA → 12:10 関西国際空港 16:45→ [航空機AC1952] → 10:02 バンクーバー国際空港 14:25 → [航空機AC8097] → 15:00 シアトル・タコマ国際空港 15:50 → [電車] → 16:45 SHERATON SEATTLE HOTEL (シェラトン・シアトル・ホテル) → パイク・プレイス・マーケット〈夕食、買い出し〉→ シェラトンホテル
8/14シェラトンホテル 8:40 → 9:20 パイオニア・スクエア〈アンダー・グラウンド・ツアー〉10:50 → 11:30 チャイナタウン・宇和島屋〈買い出し〉13:20 → 13:45 シェラトンホテル 14:30 → 15:00 歴史産業博物館(MOHAI) 16:10 → 16:30 REI〈買い出し〉17:05 → パイク・プレイス・マーケット〈夕食、買い出し〉→ シェラトンホテル
8/15シェラトンホテル 7:00 → 7:05 ハーツ・レンタカー営業所 7:50 → [車] → 10:50 Longmire (ロングマイヤー) 11:20 → [車] → 12:10 Paradise (パラダイス)〈登山申請、散策〉16:00 → [車] → 16:50 Ashford (アシュフォード)〈買い出し〉→ [車] →17:30 Cougar Rock Campground (クーガー・ロック・キャンプ場)
8/16クーガー・ロック・キャンプ場5:10 → [車] → 5:35 パラダイス (1,647m) 6:20 → 8:20 Pebble Creek → 12:40 Camp Muir (キャンプ・ミューア)(3,105m)
8/17キャンプ・ミューア(3,105m) 2:00 →3:05 Cathedral Rock Gap (カテドラル・ロック・ギャップ)(3,240m)→ 4:00 Ingraham Flat → 5:25 Disappointment Cleaver 取り付き → 7:00 同上部 → イングラハム氷河・エモンズ氷河クレバス帯 → 10:35 East Crater 10:55 → 11:30 Columbia Crest 4,392m (summit) 11:45 → 12:15 East Crater → 14:35 Disappointment Cleaver 上部 → 16:00 同取り付き → 17:30 カテドラル・ロック・ギャップ → 18:30 キャンプ・ミューア
8/18キャンプ・ミューア 7:30 → 9:20 Pebble Creek → Panorama Point → 10:55 パラダイス 11:40 → [車] → 13:20 アシュフォード〈昼食、買い出し〉→ [車] → 15:40 Gateway Inn at Mt Rainier (ゲートウェイ・イン・アット・マウント・レーニア)
8/19ゲートウェイ・イン 8:05 → [車] → 10:55 Sunrise (サンライズ)〈散策、昼食〉13:30 → [車] → 17:00 QUALITY INN & SUITES SEATTLE CENTER (クオリティ・イン&スイーツ・シアトル・センター) → [車] → 18:00 ハーツ・レンタカー営業所 → ベル・タウン〈夕食〉→ クオリティ・イン
8/20クオリティ・イン 4:55 → [タクシー] → 5:20 シアトル・タコマ国際空港 9:40 → [航空機AC8090] → 10:05 バンクーバー国際空港 12:22 → [航空機AC1951] →
8/21→ 15:10 関西国際空港 16:00 → 20:30 広島
(記:松林)

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