石鎚山 鞍瀬渓谷 松ヶ谷 (係 名越)


神庭 進

月 日 2005年10月7日夜~9日
参加者 名越、吉岡、武田、神庭





 飲んで沢登りの話になるたび「初めて四国の谷に入った時はショックじゃったぁ。こんな谷があるなんて。」と言う大前さんの言葉を、何回聞いたことだろう。そのショッキングな谷というのがここ、鞍瀬渓谷松ヶ谷である。亀井さんの案内で山岳会が初めて遡行したのは1977年、私が生まれた年である。これはもう、参加するしかなかった。

 広島インター横の駐車場に19時頃集合して山陽道を尾道インターへ。いったん降りて「しまなみ海道」へ向かうが案内標識が乏しく迷ってしまい、尾道駅まで出てしまう。しかたなくそのまま古いほうの橋を渡ってしまなみ海道へ入ったが、2号バイパスに入って接続するのがどうやら正解のようだ。しまなみ海道を渡ってからのルートは、小松北インターから国道11号線を西へ向かい、高速をくぐったら最初の信号交差点「落合橋交差点」を左折するとそれが鞍瀬渓谷の県道である。この道の終点が保井野集落経由で堂ヶ森登山口となる。登山口にはバイオトイレと水道が新設されている。古い廃小屋もあり、砂利敷きではあるが雨露をしのぐのには利用できる。今回は満天の星空の下、車の横でゴロ寝したら朝方になって豪雨となった。

 5時前から雨に起こされて出発準備にかかる。保井野のバス終点に車を回し、雨が止むのをうかがいながら待機、雨は降っているが7時半頃に出発する。夫婦滝の道標から杉林の山道に入り、十数分で鞍瀬の流れへ降り立つ。山道は右岸へ左岸へと渡っていて、河原にはペンキでマーキングしてある。本来なら林業と沢の関係者しか来ないところだが、夫婦滝のおかげで道も標識もしっかりしている。山道が右岸を徐々に登りだして、出合から一時間くらいのところに松ヶ谷と夫婦滝の分岐を示す道標がある(「松ヶ谷」とは書いてないが、概念図が書いてある)。分岐道を降りていくとすぐに松ヶ谷出合、両岸迫った狭い入り口となっている。資料では「10分ほどで4連続の滝、このうち3つ目は右岸、4つ目は左岸を」となっている。最初の2つはどれだったのか分らないが、3つ目の滝は「ああ、高巻きだな」とすぐ判断され、右岸を巻く。高く巻き過ぎずに樹林の途中からトラバースすると滝の落ち口へ出る。そこは滝と岩壁に囲まれた空間で、4つ目の2段滝が悪そうに目に映る。しかし滝のすぐ左岸にはホールド豊富な壁があり、これを空身で20m確保して上がる。2段滝の上まで行きたかったがトラバースが悪いので、立木を利用して滝の中間に空中懸垂で降りる。上段の滝はチョックストン風の岩をバック&フットで抜けた。この4番目の滝だけで2時間を要してしまい、12時半となるが面白かった。
 その先は直径2mから8mの岩石が折り重なる急勾配な谷に小滝が続き、約40分で巨岩をはさんで二条大小に落ちる7mくらいの滝が現れる。これは右岸のスベっとした岩をフリーで登って越える。そしてすぐに約20mの滝。落ち口は一条だが、落ちながら岩にあたって広がっていく滝で、右岸は急なルンゼ、左岸は草付きと灌木で上部が樹林となっている。滝の飛沫のすぐそばにある急なルンゼには目もくれず、左岸の灌木帯を少し上がってトラバースする。そのまま落ち口を狙うが、ロープが流れないのと、セカンドが滝でルアー状態になる可能性があるのでやめてピッチを切り、上部の樹林帯へ抜けてから懸垂で落ち口へ戻った。落ち口からは中間ビレイ点にいる名越さんと吉岡さんが見える。名越さんは何かを訴えようとして、右岸のルンゼを指差している。遠い記憶がフラッシュバックして、ルンゼを登ったことを思い出したらしいが時すでに遅し。この滝だけで3時間もかけてしまった。もう17時である。ただでさえ雨とガスの天候、かなり暗くなってきた。その滝から少し進むとまた2本連続で滝。もう、困っちゃう。さいわい近づいてみると、一つ目は右岸に岩棚が続き、2つ目は左岸から簡単に登ることができた。ここで谷は穏やかになり、すぐ先で左岸から入る小さな支流の横に、ビバーク最適地がみつかった。空き瓶、がいし、陶器など古いものがあったので、仕事小屋でもあったのだろう。そうそう、少し下には鉄軌道の残骸(レール)があった。ツェルトを2つ張り、私が下手な焚火をおこし、武田さんが「ヤカン料理」を手早く作っていつもの沢の夜となった。

 翌朝、真っ暗な中で焚火に薪をくべ、モーニングティーを飲んでから朝食をとる。7時出発。約15分歩くと、右岸上部が大ハングの岩壁になっている滝に出る。岩壁基部のテラス状から滝の上部に出ると、細いナメ滝が続いている。そのあとも小滝が続き、出発から約50分で二股となる。水流は明らかに左が大きそうで、正面の右俣は細い樋状になっていて水流も少ない。ただし、合流点では右又の床のほうが3m低く、谷の大きさもそこそこありそうだった。名越さんの遠い記憶を頼りに右俣へ進む。谷はまさにつるべ落としでどんどん上昇を続け、高度感のある沢登りを楽しむ。水量も少なくなったころ、一見すると階段状に見える滝が現れた。登れるだろうと取り付いてみるが、どうにも気持ち悪いのであきらめる。すぐ右に枝沢が入っているのでそれを15mほど登り、左へ渡って再びもとの谷へもどる。そして次は滝と呼ぶほどではない、小さな小滝に阻まれ、右岸の草付きを這い上がる。さあ、いよいよ沢も終了、あとは稜線へ抜けるだけである。ところで松ヶ谷右俣にあるはずの大滝や3連滝は何処に?
 沢が終わるとそのまま尾根に出て、いい調子で高度を稼ぐ。大木の古い伐採跡や測量杭が現れて、まもなく稜線かと思った頃、行く手を岩峰に阻まれる。左側は60mくらいの垂壁に見える。右側に回りこむと、笹やぶのルンゼが上まで続いていたのでそれを上がると、ところどころにテープで道しるべがしてある。これを詰めると堂ヶ森から約300m西の稜線に飛び出した。ずっとガスの中だったが、久しぶりの太陽がまぶしい。記念撮影をしてから、保井野めざして駆け下りる。先発が約50分で下りて車を取りに行き、回送したころ本隊も下りてきた。国道11号線沿いの「リンリンパークー温泉」に入り、しまなみ海道を使って帰広した。

 松ヶ谷右俣に行くつもりが、今回は間違えてひとつ手前を右に入ってしまったようだが、初日だけでもお腹一杯に滝を味わい、二日目の間違えた右俣も充分に楽しかった。それにしても松ヶ谷は何と素晴らしい谷だろう。一気に突き上げて滝の連続。そして大高巻きがなく、水から離れることが少ない。股上まで濡れることがないので、紅葉時季でも登れるだろう。ただしビバーク地は少なく、今回の場所までは行かないと心配であるため、大人数の場合は溯行スピードに注意が必要だ。登攀具は50mを2本とキャメロット、ハーケン、スリング多数を使った。アブミはワンポイントのみ使った。
 山行中の事故もなく、本当に良い谷に行かせてもらいました。みなさんお世話になりました。



コメントを残す