屋久島 宮之浦川溯行 (係)名越


神庭

月日:2010年7月17日~20日
参加者:名越、中島、神庭

<行動記録>
 はじめにお断り。今回は雨が多く、溯行記録を筆記せずにデジタルカメラに頼ったため、どれがどの滝だったか、多少間違いがあるかもしれない。やはり、できる限りその場で筆記するのが間違いなかったと反省。

7月17日
 フェリー乗り場からタクシーで宮之浦林道へ入り、通行止めのところから歩いて潜水橋へ13:20着。ここから水線沿いに行きたいところだが、時間を稼ぐため右岸樹林へスニーカーで分け入り、右岸が立ってきたところで沢支度に切り替えて溯行する。事前に資料で見たマンベー淵の絶望的なスラブが現れて、いよいよかと緊張が高まる。しかし、入ってみれば明るい雰囲気で穏やかな溯行である。ここには第1~第3巨岩というものがあるらしいのだが、第2に関しては小岩しか見当たらなかった。谷幅いっぱいの第3巨岩は右岸にハーケンが連打されているが、使えるものは1本くらいしかなく、ボロシュリンゲやカムを使って適当に乗り越した。アブミも用意していたので掛けてみたが、どちらかというと必要なかった。これを越えるとすぐ右岸から白糸の滝が見事に掛かり、その先でF10に阻まれる。もう17時を回っているので、竜王の滝までにビバーク地があるか不安だったが、とにかくF10を左岸から巻きに入る。木登りで始まり、壁に当たるまで登って小バンドをトラバースするところだけ10mほどロープを出す(ハーケンあり)。ここからもうひとつの滝もついでに巻くらしいが、我々は本流にすぐ下りてペンギンみたいな形の巨岩の横を通り、その左岸側のツルツルの岩を登った。ラバーソール沢靴の名越さんはさっさと登ってしまったが、フェルトの我々は離陸できない(靴でなくて技術の問題?)。下からロープを投げて固定してもらった。登ってると名越さんが「8人用が張れる!」と言うので振り返ると、ペンギン岩の横に挟まってる三角の岩が、うまいこと上に平面を向け、広くてまことに良いテン場を作っていた。ざる蕎麦と杏仁豆腐を食べて就寝。後で思えばこの日だけが終日晴れだった。
(写真:F11?ペンギン岩の右の小さい岩がテン場)

7月18日
 7時出発。50mほどで竜王の滝に着く。ここからはそれぞれ50mと言われる中段と下段しか見えないが、打たせの岩もあり、なるほど立派な滝だ。7:25右岸高巻き取付。釜下のすぐ右岸側にチムニーがあるが入らず、その右壁に取り付いてバンドをトラバース。またチムニーが出てくるが、それも右に出て、潅木に乗り回り込む。足元は空中で下に釜が見え楽しい。これが10年前の、あの伝説の潅木ね。その先のテラスでピッチを切り、続くチムニーは左の壁を登ってテラスに出た。まだ行けるが手持ちスリングが1本しかなかったのでここで切る。
 ここで今回のシステムを紹介すると、神庭トップでビレイ点に着くとルベルソでビレイ。セカンドで名越さんがユマール的器具で登りながらサードの中島もスタート。名越さんが支点回収してビレイ点に到着するや神庭スタート、名越さん一人でトップをビレイしながらサードもビレイして時間短縮を図った。ただしトップはセカンド・サードのビレイ中は常にロープを引いていないと、いつまでもサードが登れないので注意が必要だ。合図は全てホイッスルで行った。
 さて高巻きに戻って、3ピッチ目は目の前の岩を少し登ると灌木帯に入り、下部スラブの端に沿って登っていき、ルンゼ状を右へ少し登ったところでヒノキのあるテラスにてビレイ。10年前、大前さんはこの辺りで煙草を吸ったのだろうか。ここから上部岩壁と下部スラブの境、草付きの斜上バンドをたどり、樹林帯に入って少し登ると大きなルンゼに行き当たった。ルンゼへ懸垂してロープをたたみ、あとはルンゼを歩いて詰めてコルに達し、小尾根反対側のルンゼ(正確には、もう一つ先のルンゼとの間の樹林帯)を歩いて下り、11時過ぎに竜頭に出た。約3時間40分の大高巻きだったが楽しかった。ちなみに滅多に記録に出ないこの右岸ルート、この5月に「まつど岳人倶楽部」が記録を書かれている。その中に、「地形図とコンパスを失った」という記述があり、今回それを拾った。帰ってから連絡を取ると、どうぞお使い下さいという丁寧な返事があり、我々の記録にも興味津々なので、ホームページへの掲載を楽しみにしていると言われていた。溯行中に見た唯一の人工物が、そのコンパスであったのが嬉しかった。
 目の前の滝は右岸から巻き、正午には本流屈曲点であるF17に到着。本流のように見える正面の支流に入り、すぐの二俣を右、数十メートル登って、大きな滝より少し手前の左岸ルンゼを詰めて行くと、すぐにコルに出る。これを下って本流に戻る。ここからF21前後の滝が次々出てくるが、まとめて右岸から巻く。しかし我々は高巻きに入り、ひとつ滝を越えたところで岩角に掛けられた残置シュリンゲを見たので、その先で懸垂して本流に下りてみたが、その先も滝で結局登り返して小ルンゼをさらに登り、樹林帯から高巻いて懸垂で本流に降りた。3つの巨岩が重なってできた滝ではロープを出し、左岸側壁を5mほど登り、岩場をトラバースして小さく越えた。その先でまた3つの巨岩でできた滝(F28?)では右岸の凹角に入ると、ペツルのハンガーがあった。このあたりはマンベー淵のそれより、巨岩群の見応えがある。
17時を過ぎ、テン場を探して歩くが適地はない。雨でパンツまで濡れているのに、今晩は木の根の窪みで3人バラバラビバーク?と腹をくくりかけたところで、今日も平らな岩が見つかった。F32で始まる標高1350m付近からの大高巻きが始まる前に見つけたいと思っていたので助かった。テントに入る頃にはパンツも乾いた。今晩はタイのグリーンカレー。

7月19日
 6時出発。少し行くと左岸から滝が掛かり、4mといわれるF31を越えたところから左岸の大高巻きが始まる。はじめ草付きの岩を登ると、ルンゼにハンガーが打ってあった。ここから左の藪の中を真っ直ぐ登り、取付から約70mでコルに出る。コルからいったん下ってルンゼを横切り、再び登り返した支尾根でビレイ。ここから急なルンゼ状を直上して、詰めたところでブッシュに突っ込む。ここまでは地形の弱点をすり抜けて行くような、高巻きの醍醐味があり楽しい。屋久笹帯を適当に上流側へトラバースしていくと、小さな岩壁の下を20mほど通り、そのすぐ先のルンゼを歩いて下降するとゴルジュ帯の終点に降り立った。もっと大変かと思っていたが、何だかあっさり終わってしまった。高巻き所要時間は約2時間。
 ゴルジュが消えて谷相は一変、次々に出てくる美しい滝はほとんど直登可能、楽しい沢遊びとなる。しかし不安や心配材料がなくなり寂しい気もする。源流域では屋久笹の草原の中に屋久杉が点在し、永田岳方面には奇岩が林立していて映画の中のような風景が広がっている。谷は小川になり、ところどころシャクナゲに阻まれながらも水は途絶えず、気が付けば宮之浦岳-永田岳の最低鞍部に着いた(11:30)。天候は相変らず降ったり晴れたりを繰り返しているが。永田岳の奇岩群がガスに包まれ幻想的だ。

 今回は気合いが入っていたせいか、驚くほど順調な山行だった。気象に関しては初日以外ほとんど雨。カッパを着ての行動だったが、陽が射すなかで降る雨など、屋久島らしいので苦にならなかった(濡れたパンツ以外は)。高巻き中は暑いのかと思っていたが、ずっと降る雨の中、寒くてかなわないこともあった。もっとも、昨年は高巻き中に脱水症状になったそうだけど。
 思えば10年前、入会3ヶ月の私は大前さんたちがどこかの沢登りに行っているという程度の認識でした。それから大前さん宮本さんと一緒に南紀の沢登りに通い、そのたびに宮之浦川の話を聞いて育ってきました。昨年は急な計画だったので家庭と家計の面から参加できませんでしたが、今年は計画的にゴールデンウィークを全日出勤して費用を貯め、参加することが可能になりました。昨年の敗退には申し訳ないですが、おかげで自分にとっての特別な沢を溯行する機会に恵まれ、そして無事に踏破することができて感無量です。名越さん、中島さんありがとうございました。
まつどの森さん、日置さん、我々の記録はこんなところです。コンパス大事に使いますね。

大前さん、また飲みながら沢の話しで盛り上がりましょう。

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