9月14日(金・夜)~9月17日(月・祝)
参加者:安藤、横山、川﨑、徳永、平本、保見、兼森
<行動記録>
「八ヶ岳」は、長野県と山梨県にまたがる火山群の総称である。フォッサマグナ(中央地溝帯)の中央部に位置し、南北につらなる20 以上の火山活動によって形成された山群である。しかし、火山活動をしていたのは大昔のこと。地形・地質などの違いから夏沢峠を境にして北八ヶ岳、南八ヶ岳とよばれる。今回、その南八ヶ岳に冬合宿の下見として山行を計画した。
八ヶ岳は、冬場もアプローチが短く、変化に富んだ尾根や谷の氷瀑へ手軽に取り付けるという利点がある。アクセス面では、関東・東海から近く、人気のある山だ。雪は少ないが、寒気は大変厳しいらしい。そのため、アイスクライミングのメッカとして、沢筋に氷が発達するのも納得できる。
今回、週末遠征にもかかわらず、8 名参加の大所帯となった。21:30 に、JR 大町駅のバスターミナル前に車2台が合流する。
大型台風の接近が気になるところだ。一番気にされているのは、横山さん。台風の進路もだが、その進む速度も重要である。台風が広島へ最接近するまでに、戻らなければならない。気象庁の電算機は優秀で、最近の予報はよく当たる。
山陽道では雨がぱらつき、中央道では時折激しい雷雨が降り、視界を遮る。しかし、長野に入ると台風の接近が嘘のような天気である。
9 月15 日
諏訪南IC を降りて、八ヶ岳の別荘地を抜けると、舗装されていない林道に入る。延々と続くようだが、既に地図上では舟山十字路の地点がわからず、車を止めて確認していると、もっと先とのこと。
以前八ヶ岳を訪れている横山さんが、ご存じであった。舟山十字路には既に20 台近くの車が止めてあったが、わずかなスペースに止めることができた。ここを起点に、阿弥陀岳や西岳へ登ることができる。
食料、装備を分担し出発、しばらく谷に向かって林道を下る。旭小屋への経路は、沢沿いに上がっていくものと思っていたが、素直に林道を詰めればよかった。立場川キャンプ場への林道を途中で左に折れなければならない。
林道を30 分くらい歩くと、旭小屋のある広場に到着した。ここが南稜の取り付きになる。
しかし、さらに、広場から谷に沿って遊歩道がつけられていたため、間違えて広河原方面に入ってしまった。正しくは、小屋の前を横切り、すぐに尾根に取り付く。合計1 時間くらいのアルバイトになった。
取り付いていきなり、胸を突くような急登の連続だ。踏み跡はしっかりしているが、一般コースではないため、歩きやすい登山道はつくられていない。
横山さんの携帯には、しきりに緊急連絡?が入る。台風の状況によっては、下山を早めなければならない。
時折心地よい風が吹くが、日射が強くオーバーヒート気味である。寝不足の体には応える。
立場山までは忍耐力の必要な登りが続く。立場山を越えると、しばらくなだらかな稜線が続く。P1から先は岩稜となるため、手前で登攀具を装着する。やせ尾根となり、阿弥陀岳の岩峰群が目前に迫る。上部にガスがかかってきたが、雨を降らせるような天気ではなさそうだ。
P3 は、岩稜をダイレクトに登るルートがあるが、一般的には岩溝コースと呼ばれるルートを辿る。
目印となるステンレス製のプレートが設置してある。
バンドのトラバースが行き詰まると、岩溝コースの明確な取り付きがある。アンカーにワイヤーがかかっているため、これにカラビナをかけて登るのだと思い込んだ。しかし、2m ほど登ってルンゼ側に回り込むと、ワイヤーはそこで途切れていた。ここで落ちるとやばいので、気持ちはわかる。
上部を見ると、傾斜はそれほどでもないが、スタンスに苔がつき、滝状にも見える。上の様子もわからないため、念のためロープを出すことにした。平本さんに、取り付きのバンドで確保してもらう。ラストを横山さんにお願いした。ルンゼは樋状になっており、落石には気を使うところだ。また、冬は氷雪とのミックスになるため、確実なアイゼンワークが必要だ。荷が重いと悪く感じるだろう。ガイドブックなどの情報によると、「100m のルンゼ」とあるので、2P 伸ばすことを想定した。中間支点は少ないが、ボルトとハーケンが数ヶ所設置してある。今回、ロープは不要だったが、支点の確認には有効だった。1P 目終了後、セカンドで保見さんに上がってもらい、継続して2P 目を伸ばした。2P を登り始めたところで、後続を迎える。2P目の終了点は、左岸にあるダケカンバの立木で取る。稜線は間近で傾斜も緩いため、到着順に上部へ抜けてもらう。最後、ロープを回収して本隊を追う。
再び尾根上に出ると、程なくしてP3とP4のコルに出る。P4は、バンドをトラバースして、浮石の多い凹角を右上する。ここもアイゼンで登ろうとすれば、慣れていないと難しく感じるだろう。P4を超えれば、阿弥陀岳山頂へはわずか、最後の登りに息が切れる。
阿弥陀岳には立派な祠があり、数名の登山者が360°の展望を満喫していた。第一の目的である、南稜の踏査を終えて一安心。山頂から南稜方面を見下ろすと、急峻な尾根と谷が続き、吸い込まれそうだ。正面には、格好の良い赤岳が臨むことができる。
阿弥陀岳からへの急な下りは、梯子などが設置してあるが、それほど気を使う必要はなかった。
中岳とのコルより、行者小屋に向けて下る。上から小屋は見えているのだが、意外と長い下りだった。
行者小屋は、テントと小屋の宿泊者でごった返している。キャンプ指定地はすでに埋まっており、周辺を捜すが、2張分のスペースは確保できそうにない。途方に暮れていると、親切な登山者が、小屋前の広場も例外的に使用できそうという情報を教えてくれた。早速、受付係の川崎さん、徳永さんにその旨を伝える。
南稜の静けさの反面、人の多さにはうんざりした。キャンプ地の許容量をすでに超えている。しかし、赤岳、横岳の岩壁を一望できるため、ロケーションとしては申し分ない。
テントを張り、荷物の整理を終えたところで、天気も良く、それほど寒くないので、ベンチをテーブル代わりにして食事の準備を始める。各地の銘酒がそろっているが、みんな寝不足で疲れているせいか、酒が進まない。私もビールの最初の一杯で満足した。
今夜は、星空が大変きれいであった。
9月16日
本日は、赤岳鉱泉より硫黄岳に登り、横岳、硫黄岳、昨日登頂した阿弥陀岳を経て、御小屋尾根を下る予定だ。
天気は快晴、雲一つない。赤岳鉱泉までは、シラビソの森の中の散歩道を行く。
赤岳鉱泉は、行者小屋よりもさらに大きな規模の小屋が建ち並ぶ。赤岳鉱泉から硫黄岳方面は、最初緩やかで稜線近くになってつづら折れの急な登りとなる。森林限界が近づくにつれ、徐々に展望が開けてくる。本当に空は真っ青で、太陽がまぶしく紫外線が強い。久しぶりに気持ちの良い天気だった。みんな日焼け止めを塗りたくっている。快適な登山を求めるなら、夏よりもこの時季が良い。
赤岩ノ頭から硫黄岳かけてはしばらく砂礫の稜線が続く。稜線上は、常時風が強いせいか、植生はほとんど存在しない。
ドーム状の硫黄岳へ登り詰めると、富士山が目に飛び込んでくる。メンバーの歓声が上がり、撮影大会となる。雄大な富士山は、ひときわ存在感がある。さらに、硫黄岳北面には、火山活動のなごりの巨大な火口壁(爆裂火口)が残されている。硫黄岳自体はそれ程特徴がないように思うが、周辺の景観がすばらしい。
横岳から赤岳は岩稜帯となり、鎖や梯子場が連続する。しかし、北アルプスの大キレットや後立山の各キレットのような悪場という印象はなかった。積雪期においてもさほど違いはないだろう。
それよりも、登り・下りの行き交いで、渋滞を引き起こしている。鎖の設置してある登山道はあるものの、ルートは如何様にも取れるため、落石に注意しながら渋滞を回避していく。冬は尾根を忠実に辿ることになりそうだが、バンドあるいはルンゼを辿るかは雪の状況によって判断する。
横岳は、はっきりとしたピークがなく岩の稜線の延長にある山だが、どちらかというと、西に面した大同心、小同心を代表とする岩峰や急峻な尾根が有名である。西面を覗き込むと荒々しい岩壁と鋸状の尾根が目に飛び込む。ちょうど、大山の主稜線から見る墓場尾根の景色に似ている。違いがあるとすれば、岩と泥の差である。火山系らしく浸食されて、丸みを帯びた岩質である。他のアルプスと異なり、独特である。
横岳頂上ではクライマーを見かけたので、無雪期でも登られてそうだ。
徐々に近づく赤岳は、赤い山肌の色や三角錐をした山容からすぐにそれとわかる。
山頂の名のつく場所には、休息する登山客で混雑している。ゆっくり休める場所もないため、スルーすることにした。八ヶ岳も槍・穂と同じくとして、秘境の山としての魅力が半減している。
赤岳の山頂もどこかの駅前のような賑わいで、大した感動もなく下山路に向かう。急な下りは鎖場の連続となるが、登山道は明瞭で、キレットへの分岐を間違えなければ、中岳への鞍部へ導かれていく。
中岳からは、阿弥陀岳へのきつい登り返しだ。最後の登りに何とか耐えながら、再び阿弥陀岳山頂へ。南八ヶ岳周遊を無地終え、もう一安心。
しかし、私にとってここからの長い下りが地獄だった。FIXロープが張り巡らされていたが、積雪期にはここを下るとなると、気持ちが悪い下りになるだろう。
初日にはサポーターをしていなかったために膝が痛み始める。メンバーのサポートを受けながら、何とか歩き通した。
予定の行程を終え、再び舟山十字路に下山した。芋の子を洗うような状態になった「もみの湯」で2日間の汗を流した。横山さんに信州そばをごちそうになって、帰路につく。疲れで眠気がこないよう、小刻みに交代しながら、明け方に広島へ到着した。
南八ヶ岳の地形の概念を把握するにはちょうど良い山行だった。この冬に向けて、手足が凍りそうな烈風の稜線がイメージできた。