春合宿 五竜岳~鹿島槍~爺ヶ岳


神庭

5月2日夜~6日  参加者:吉村、中島、林

<行動記録>
 私が入会した西暦2000年度の冬合宿は、横山さんがリーダーで五竜岳から爺ヶ岳へ縦走する計画であった。しかし冬の嵐となり各地で大量遭難が相次ぎ、我々も五龍山荘の横で停滞せざるをえなかった。そのときの豪雪と、轟々と唸る烈風が、入会一年目の私には強烈だった。雪崩の危険と吹雪の中、岡本さんと横山さんが先頭に立っていた脱出劇をよく覚えている。今回の春合宿では、同ルートの偵察を兼ねて計画した。

5月2日
 18時半に横川出発、20時半に新見インターで神庭合流、23時頃に滋賀県の大津インターで林合流。日付変わって3時半には駒ケ岳SAで仮眠を取る。 

5月3日
 7時起床、8時出発。本日の行動は西遠見までなので、遅めの出発として睡眠を優先した。豊科インターで高速を降り、神城の五竜遠見スキー場へ向かう。スキー場の無料駐車場に車を停め、テレキャビンに乗車する。歩き始めたのは11時半になっていた。照り返しとスキーヤーの中を汗をかきながら登っていく。小遠見山まで登れば、うるさかった音楽も消えて静かになった。八方尾根、五竜岳、鹿島槍が一望できる。カクネ里は大量の雪で埋め尽くされていて、それが光を反射して銀色に輝いている。武田の紋章と同じ五竜の割菱もはっきりと見て取れる。明日はその左にある五竜岳GⅡ中央稜を登る予定だ。
 大遠見から西遠見までの間は幕営適地がいたる所にあり、我々も西遠見の手前でブロックを積み上げて幕営した。吉村さんが水作り、係がテントの防雨対策、中島・林で明日の下降路偵察をする。夜は初日恒例なま物メニューで、チラシ寿司、野菜炒め、そしてチマキだった。米国に6年住んでいた林さんが食糧担当だったので、どんな奇抜なメニューが出るかと期待していたが、初めてとは思えない、とても合宿向きの内容だった。

5月4日
 3時起床、5時出発。快晴で、4時半頃には歩ける明るさになっていた。西遠見から五竜岳東面の岩稜へは、西遠見山からシラタケ沢に落ちている尾根を下降する。今回は全装備を背負っているため、入門とされるGⅡ中央稜に取り付く。沢から正面の広いルンゼを登り、次第に狭くなってきたら左の急なルンゼを詰める。ルンゼを抜けてからしばらくはハイマツのブッシュが続くが、すぐに歩きやすい岩稜に変わる。厳密にこれが中央稜かどうか判らないが、ロープを出すようなところはなく、登攀というより縦走だった。部分的に急な雪壁があったが、ステップをしっかり切って登っていく。
 9時半には縦走路に抜けた。五竜岳山頂は登りきったところで縦走路から外れ、右(西)へ曲がった先にある。山頂からは360度の展望で、隣に見える剱岳の稜線を林さんに説明するが、いっぺんに話すので理解できなかったことだろう。ここで全員の記念写真を撮る。
 五竜岳からの下りは尾根状になっていないので判りにくいが、右手に岩稜を見ながら南東へ雪壁を下りていくと次第に尾根となる。前を向いたり後を向いたりしながら急な尾根をどんどん下ると、小ピークの手前に幕営できる狭い鞍部があり、一息つける。このあとG4・G5は岩峰群を縫うように、黒部側を巻いて通過する。五竜山頂から岩峰群を抜けるまで2時間45分、穏やかな歩きに変わる。心配だった林さんは、歩きで一度転倒したものの、急斜面ではアイゼンの効き加減がわかっているようで安定していた。
 2段のハシゴを登って北尾根の頭、そこから30分で口の沢のコルに降りる。口の沢のコルも幕営できそうだ。ただしこの稜線では、どこに幕営しても冬の強風は覚悟しなければいけないと思った。お隣の剱の向こうは日本海。この五月でも、一定して西から吹き付ける風には心身ともに消耗させられた。キレットへの最後のピーク越えでは、ルンゼをまっすぐ15m黒部側に下り、そこから左へトラバースする。ここが冬は判りにくいかもしれないが、これを稜線通しに行ってしまうとややこしくなるようだった。ここからキレット小屋への夏道は大きく黒部側を巻いている。今回はそれに沿って行き、最後の下りも鎖が見えたので掘り出し、夏道どおりに下った。冬はもっと小屋寄りの雪壁を下りるようになると思う。
 小屋に人影はなく、テン場は小屋の裏にある雪上にしようとしたが、足がはまった穴をのぞくと空中だった。ということは幕営できるのは小屋の狭い前庭しかない。2~3張りが限度だろう。テントを張り終えて時計を見ると17時だった。林さん、多少遅れ気味ではあったけど、止まることなく良く歩いてくれた。今日の夕食は雑炊にマーボー春雨とスープだった。

5月5日
 今日も天気は良いようだ。3時起床、5時出発。小屋からすぐキレットの懸垂となる。本で見た写真には地獄の底へ降りていく様に写っていたが、20m弱の小懸垂だった。キレットの底から黒部側を巻くように鎖が続いており、鎖が切れたところで直上した。これが今回唯一のロープ確保で、中島さんが脆いガレ岩をトップで登り、ビレイ点でハーケンを打っているのだろう、カンカンと音が聞こえる。フォローって安心、と思って登っていくと、ビレイ点を見て青ざめた。スノーピケット(スノーバー)一本で支点ビレイしている。「大丈夫だよぉ。」と中島さんが言うが、すぐさまピッケルを連結して足で踏みバックアップを取った。この男に油断禁物、カンベンしてよー。下を見ると、どうやら直上でなくトラバースしてから雪壁を上がるのが正解のようだった。ロープをたたみ、鹿島槍北峰への登りにかかる。なだらかに見えたが、ややこしい岩稜は避けるように巻いて雪壁を登る。部分的に急な部分もあったが、日本の雪に慣れていない林さんの雪壁登降技術は、どこまで信用していいのだろうか。岩登りで見せてくれたバランス感覚を信じて、ともかくゆっくり着実に動いてもらう。「日本の山には、わずか三日の行程の中にも数多くの要素がつまっている。今回初めて経験したことも多い。三日目には精神的にバテ気味だった。」と後に林さんが言っていた。でも自分をよくコントロールできる人だと思った。
 鹿島槍北峰への最後の登りは傾斜がきついルンゼから上がる。草付きが見えたのでピックが入るだろうと思って確保はしなかった。頂上まで登ると爺ヶ岳がよく見える。爺ヶ岳北峰の手前から赤岩尾根、見えないが中峰から東尾根、南峰から南尾根が派生している。鹿島槍南峰へ向かう途中の鞍部には広大な幕営地があり、休憩をとった。南峰を越えると、広くなだらかな縦走路となったので、アイゼンを外してスピードアップした。布引岳、営業中の冷池山荘を通過して爺ヶ岳の登りにかかる。ここまできたら、最重要課題は温泉の営業時間中に下山することだ。長い長い南尾根をじっと我慢で降りきり、すぐさまタクシーに乗り込んだ。扇沢から五竜遠見スキー場まで料金1万円。車に戻って装備を解き、大町温泉郷薬師の湯に浸かる。大町のスーパーで買出しを済ませ、再び高速の駒ケ岳SAで泊まることにした。
合宿の係を初めてさせてもらったが、天候とメンバーに恵まれて計画通りの山行ができた。不確定要素の林さんはよく動くし、何しろ吉村さんと中島さんがいるので、もとより心配などなかった。偵察の成果としては、巻き道はすべて黒部側、幕営適地は少ない、コルの平地はほとんど雪庇、始めから終わりまで風にさらされ、エスケープルートが無いというところだった。今年になるかどうか判らないが、冬は天候に対する判断力が不可欠な山域だ。 

<コースタイム>
5月3日
五竜遠見スキー場11:00→テレキャビン山頂駅11:30→小遠見山13:10→中遠見山13:45→大遠見山14:50

5月4日
大遠見山5:00→シラタケ沢5:30→五竜岳10:00→G4手前のコル11:00→北尾根の頭13:30→口の沢のコル14:00→キレット小屋16:20

5月5日
キレット小屋5:00→キレット下降点5:20→キレット終了7:10→鹿島槍北峰9:15→南峰10:00→冷池山荘11:50→爺ヶ岳中峰13:20→爺ヶ岳南峰13:50→南尾根ジャンクションピーク14:50→扇沢登山口17:30(タクシー)→18:00五竜遠見スキー場

コメントを残す