大山(阿弥陀川~東谷~野田ヶ山~振子山~駒鳥~鳥越峠~キリン峠~槍ヶ峰~ユートピア~宝珠山)


三谷

日時:11月22日(土)~24日(月)
参加者:神庭、兼森、松林

〈行動記録〉
今回の大山は、阿弥陀川から東谷を詰め、稜線を越えて駒鳥に降り立ち、鳥越峠から槍ヶ峰、宝珠尾根を周遊する計画である。
晩秋にもかかわらず、穏やかで過ごしやすい天気である。予報を見ても今週末の天気は心配なさそうだ。
11/21(土)
広島で山口からの兼森さん、三次で黒瀬からの松林くんと合流し大山に向かう。
溝口マルゴーで神庭尚子さんとお子さんたちに会い、長らく借りていたカメラをお返しする。神庭くんは今日は仕事のため明日駒鳥で合流の予定。我々はそのまま食料の買い出しに。軽量化を考えることなく、肉と生野菜をたくさん購入する。
豪円山の駐車場に車を止めて川床に向けて歩く。春の陽気だが、北壁に目をやると、白く雪化粧している。早くも冬山の様相だ。念のために準備したピッケル、アイゼンを使うことにならなければ良いが。
本日は川床から阿弥陀川を遡行し、東谷の出合まで歩く予定。兼森さんトップで、続く松林くんがフォローする。赤ペンキに導かれながら河原の踏み跡に沿って歩く。川幅が徐々に狭まると、渡渉箇所が増えてくる。兼森さん、ちょっとまたぐには広すぎて、石飛に苦労している。幸い水量が少ないため、渡渉点を探すのはそれほど難しくない。
難所のゴルジュ帯を越えると、川幅が広くなり中洲の台地が現れる。キャンプに良さそうだスペースである。ここを出合と間違えて、東谷があるはずの方角を確認するが、滝(壁)になっている。まだ沢の分岐には達していないことがわかった。さらにS字状にカーブする谷を歩く。カーブが終わると谷が二股に分岐し、予定していた東谷の出合に到着することができた。今年3月に登った三鈷峰北稜の取り付きに見覚えがある。
残雪期に訪れた際とは打って変わりブッシュに周辺は覆われている。あまり快適ではないが、石をどかして枝を払いテントを張った。
テントを張り終えて、中に潜り込んだところでちょうど日没となる。
今晩は、生野菜をふんだんに取り入れたもつ・つみれ鍋である。その前に、なめたけとベーコンのソテーをつまみにビールで乾杯、明日からの健闘を祈る。
川のせせらぎが耳に心地よく、酒の酔いも手伝ってそれぞれのエピソードを語り合いながら、夜が更けていく。明日の行動に支障を来すため、ほどほどにして22時を過ぎたところで就寝とした。満天の星空がきれいであった。

11/22(日)
天気は悪くないはずだが、どんより怪しげな曇り空である。気のせいか冷たいものまで落ちてくる。明るくなり始めた頃、東谷へ向けて出発する。東谷は、阿弥陀川本流に比べて水流は細い。滑りやすい岩の河原を歩いて行く。
三鈷峰が朝日に染まってきれいだったが、沸き立つガスに覆われてしまった。石全体が苔に覆われているところを見ると、この谷は湿った空気が稜線にぶつかるため雨が多いようだ。とうとう小雨が降り出し、ガスで上部の様子を確認することができなくなった。稜線に近づくにつれ徐々に地形が険しくなってくる。三鈷峰の北稜に向かう支沢との分岐を過ぎた当たりで右岸が壁状となる。係は、本流を少し詰めて上部を確認する。やがて石のたまったゴルジュ(樋)状となる。天気が悪く、落石が発生すると逃げ場がなく気持ち悪いので、遡行はあきらめて野田ヶ山に迂回することにした。登ろうとしていたユートピア側(三鈷峰側)は崩壊が激しく、引き返して正解だった。
さて、稜線に出るのも一仕事になりそうだ。地形図上でもわかるように、すべての尾根の途中に岩のバンドが走っている。これを迂回して登らなければならない。
野田ヶ山から振子山の稜線に出ることは間違えないが、問題は、尾根が途切れて岩壁に阻まれることである。地形図からは今登っている尾根の特定は難しい。
谷を下りながら登れそうな尾根を確認して、松林くんトップで取り付く。沢筋は一見登りやすそうだが、やがて壁に吸収されてしまうだろう。
最初から苦しい木登りになる。幸いホールドとなる灌木があるためロープは出さなかったが、急峻でほとんど登攀の領域である。
悪いなぁと思いながら、根っこの出っ張り、草(苔)付き、泥壁、岩の乗越などをこなしていく。特に、行き詰まってから隣の尾根へ移る際のトラバースが悪い。
急峻な尾根上から見下ろすと、遙か下に東谷が見え恐ろしい。一部お助けスリングやロープを出しながら慎重に難所を越えていく。
振子山の稜線が見えてきてルートを間違っていないことは確認できたが、尾根の中間ですでにお昼になってしまう。松林くんはルートを見極めながら登っているが、ちょっとマイペースなので先の確認をお願いする。兼森さんも重荷で体がなかなか上がらず苦しそうである。重力との格闘である。
やっとのことで悪場を越えて傾斜が若干緩くなる。しかし、今度は灌木の猛烈なブッシュに悩まされる。耐えに耐えて、ついに野田ヶ山の南峰にたどり着くことができた。
以前、神庭くん、宮重(直)さんと登った尾根とは別の尾根であり、かなり地味であるが新ルートを辿ったことになる。さらに前回と異なるのは、全装備を担いでいることである。冬合宿のトレーニングにしては過酷だった。
先は長いが、あとは登山道を辿るだけである。こんなに道がありがたいと思ったことはない。親指ピークそして振子山への登り返し、ふくらはぎに乳酸がたまって心地よい。
ガスはすっかり晴れて、三鈷峰やユートピアがはっきりと見える。もちろん東谷も。東谷からいったいどうやって稜線に上がるのだろうか。
三鈷峰の東壁側は崩落の跡が随所に見られ、荒々しく危険な様相である。唯一上がれそうなのが、親指ピーク手前の沢である。ほとんどが崩落が著しい泥壁であるが、傾斜は幾分緩く、可能性はある。
ユートピアの標柱にたどり着き、振子沢を下っていく。歩きにくいガレ場が膝に応える。振子沢は意外と長い。しかし、何とか暗くなる前にたどり着いた。
振子沢と地獄谷との合流地点で、ちょうど神庭くんが歩いて来るのが見えた。ほぼ同時の到着。三人が居ないところを見て、本気で晩ご飯のことを心配したらしい。無事再会、お互いいろんな意味でホッとした。
河原の砂地をきれいにならしてテントを張る。テントに落ち着くと、早速、神庭くん差し入れのソーセージと餃子を食べながら、同じく差し入れのエビスビールで乾杯する。うまいっ!
昨日にも増して会話が弾む。いつものようにほとんど神庭くんがしゃべっていたが。
メインはスープスパ。今日は体力を消耗して腹を空かせていたので完食した。疲れが応えて目が閉じそうだったので22時に就寝する。

11/23(月)
朝焼けで地獄谷の下流が赤く染まりきれいである。本日は鳥越峠からキリン峠を越えて槍ヶ峰に向かう。
駒鳥から陰気な谷を経て鳥越峠に向かう。この登山道はブナの大木が減り雰囲気が変わってしまった。鳥越峠からいよいよ今回のメイン槍ヶ峰に向けて登る。
神庭くんが鉈を持って先頭を歩くが、適度に刈り払われていて歩きやすい。
キリン峠からは、東壁の大パノラマが広がる。東壁の崩壊面が大迫力である。真っ青な空、灰色の東壁が映える。もう少し早い紅葉の時期には、ナナカマドの赤との素晴らしいコントラストが見られるスポットだ。
東壁を走る三本の尾根は登攀対象になっているようだが、指でポッキリと折れそうなナイフリッジが突き上げる。この時季はとても登れそうな気がしない。
峠を越えると森林限界となる。ザレた草付きを登っていくと、核心部である崩壊した地点にたどり着く。足幅ほどのナイフリッジをそろりと渡り、崩落面を足下が崩れないようにトラバースして、もろいルンゼを登る。兼森さんトップで、つかめばボロボロと落ちていく砂岩の壁を慎重に越えていく。ここも、かつては一般登山道だった。
何とか槍尾根の標柱にたどり着いた。南壁の大パノラマが広がる。二人は残雪期に歩いた三ノ沢に見覚えがあるようだ。崩壊した東壁に恐怖を覚えながら槍尾根を辿って槍ヶ峰へ。風は冷たいが、太陽の温かさが心地よい。
槍ヶ峰は大山で最も展望の良い山であると確信する。南壁、烏ヶ山、船上山から矢筈ヶ山、野田ヶ山から振子山の稜線、遠くには氷ノ山や扇ノ山。槍ヶ峰には三ノ沢から初めて登って以来、自然と足を運ぶ回数が増えている。
天狗ヶ峰からユートピアまでは崩壊した登山道を下らなくてはならない。前回よりもさらに悪くなった印象だ(現在、縦走路はユートピアから弥山三角点まで全面立ち入り禁止になっている)。まだ冬の方が凍っているため安定している。
今回は冬に向けて大山の地形概念を把握してもらうことも目的の一つだった。神庭くんが宝珠尾根の下降点についてレクチャーしてくれる。積雪期はトラバース道は使えないため、この尾根を使うしかない。唯一歩いて下りられる尾根である。しかし、視界が悪いと支尾根に迷いやすい。墓場尾根の崩壊壁の境となっている尾根が宝珠尾根である。天狗ヶ峰からユートピアに下ってきたとき、小ピークが目印となる。宝珠尾根は雪山入門コースだが、侮れない一面があり、自らトレースすることを考えると真剣に考えざるを得ない。
ユートピアからは宝珠尾根を下る。そのうち登るであろう、別山、八合尾根、七合尾根などを説明する。
上宝珠越から中宝珠越までも北壁側が絶えず崩壊している。固定ロープの位置も毎年変わっている。そのうち大山も麓から眺めるだけの山になってしまうのではないか。
相変わらず雰囲気の良い下宝珠越のブナ林を眺めながら宝珠山へとたどり着く。あとは中ノ原スキー場を思い思いに下っていき無事駐車場にたどり着いた。
以前から気になっていた神の湯で汗を流す。山岳信仰をイメージした演出に不自然な感じを受けるが、下山してすぐに入れる温泉はありがたい。
神庭くんを送るために、健康の森経由で広島に向かう。
阿弥陀からユートピアを交わして地獄へと下り、鳥(鳳凰)にちなんだ駒鳥、鳥越を経て、烏を眺めながら幻の獣の麒麟へ、まるで大山曼荼羅を巡る旅のようであった。
さまざまな要素を含んだありのままの大山を体感し、充実した山行になった。新泥臭メンバーで、久しぶりに泥臭い山行を味わって楽しかった。
(記:三谷)

〈コースタイム〉
11/22(土)9:00広島発~13:45豪円山駐車場着~14:15豪円山駐車場発~16:30東谷出合着幕営~22:00就寝
11/23(日)5:15起床~7:05東谷出合発~9:00下見~9:30稜線目指す~13:30野田ヶ山南峰~16:30駒鳥小屋着幕営~22:00就寝
11/24(月)5:00起床~7:50鳥越峠~8:20キリン峠~9:55槍ヶ峰~11:30ユートピア小屋~12:45中宝珠越~13:00下宝珠越~13:20宝珠山~13:30中の原スキー場リフト終点~13:50豪円山駐車場着
(記:兼森)

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