夏合宿 奥穂高岳南稜(途中まで)


三谷

月日: 8月13日(水)~16日(土)
参加者:吉村(光)、保見、松林

<行動記録>
今回の合宿は、奥穂高岳南稜から北穂高岳滝谷を登攀して、南岳経由で槍沢に下りる予定だった。計画だけは充実した内容だったが、残念な雨の合宿となってしまった。

13日
出発前の土日で台風11号が通過し、台風一過を期待したいところだったが、すでに次の気圧の谷か近づいているという情報が。ほぼ確実に雨を降らしてくれる予報だった。
広島からの3名は、昼過ぎに出発する。途中、渋滞にあい、予定より30分遅れて松林くんの待つ東海北陸道川島Pに到着する。そこから1時間ほど車を走らせ、松の木峠Pで仮眠をとる。

14日
朝起きて出発の準備をしていると、外は体にまとわりつくような空気である。湿度が100%近くで、飽和寸前の状態である。
飛騨清見ICからバイパスを使って高山に入る。出発から1時間ほどで平湯に入る。あかんだな駐車場は、ほぼ満車の状態である。狭い駐車スペースに辛うじて止めることができた。低い黒雲が空を覆っている。パッキングしていると、早くも冷たいものが落ちてくる。
バスターミナルで7:20発のバスに乗り込み、上高地に向かう。これから山に入ろうとする者は、おそらく満足な登山はできなかっただろう。
上高地に着く頃には本降りになってきた。
我々は計画通り、「取り敢えず」岳沢へ向かう。雨は降ったり止んだりの状態。
岳沢山荘に着くなり土砂降りとなり、今日は岳沢で沈殿することにした。この時点で、滝谷の登攀は流れることになった。
数名の登山者が軒下で雨宿りをしている。我々もテントを張るために、雨が小降りになるのを待つことにした。
前穂高岳から登山者が続々と下山してくるが、登る登山者はいない。
小屋の掲示板には、ヤマテンのこの山域での気象情報が貼ってあり、「明日15日は、晴れのち霧、午後ときどき雨」となっていた。15日後半から荒れる予報だ。
雨が小降りになったところで、テントを設営する。テントサイトはどこも狭く快適とはいえなかった。水はけを考慮して、寝心地は悪そうだが砂利の敷かれたスペースを利用した。
雨が上がったので、また「取り敢えず」南稜の取り付きまで上がってみることにする。上部はガスに覆われているが、正面の沢、岩壁はテント場から見てもよくわかる。アイゼン、行動食のみを持って出かける。テン場のところから沢に降りて雪渓に入る。傾斜は強くないが、下りのことを考慮してアイゼンを履く。約30分で雪渓を歩くと、岩場の基部までたどり着いた。
心配していたベルク・シュルントもさほど大きくなく、軽くまたいで渡れそうだ。しかし、シュルント内は底なしに見え、誤って落ちると助かるまい。
取り付き地点の地形は明確である。ネットで見た写真のとおりの南稜ルンゼと呼ばれる顕著なルンゼを確認してから降りた。
翌朝雨が降っていなかったら、南稜に登ることを確認して就寝とする。

15日
3時起床。雨は降っていない。朝食を終えたところで、メンバーに「南稜に行く」ことを伝える。全装備を担いで南稜に取り付くことにした。午前中は天気が保つということだったので、「行けるところまで行く、順調に行けば稜線に抜けるかもしれない」と考えた。
まだ薄暗い4:30に出発。朝の冷え込みはなく、湿度も高い。登山道から雪渓に入り、昨日確認した取り付きを目指す。雪渓が途切れて、岩場の基部に突き当たる。ここでの標高は2350mくらいである。稜線までは標高差700m以上を一気に登ることになる。トリコニーより上部は、すでにガスで覆われている。
テラスでアイゼンを外し、ルートの状況を確認する。昨晩雨が降って岩は濡れている。今回は草付きの踏み跡をたどるようにした。吉村さんが大滝側にはっきりとした踏み跡を見つけた。
今回は、保見さんと松林くん二人でルートを確認しながらパーティーを導いてくれた。
ダケカンバ混じりの藪のリッジ状に出た。しばらく藪をたどり、滝を巻いたところで、すっきりとしたルンゼに出ることができた。滑りやすいルンゼを慎重に登り、トリコニー下部の岩壁帯に入る。
やがて、周辺がハイマツの藪に覆われた5mの岩場に突き当たる。踏み跡は途切れ、この岩場を越えるしかなさそうだ。ほんのワンポイントだが、スリップは致命的なので、ロープを出すことにする。このころより霧雨が降り出した。
ナイフリッジを2Pほど伸ばし、ハイマツ帯の踏み跡をたどると、トリコニーの岩峰の基部にたどり着いた。トリコニーはⅠ峰から忠実にリッジをたどるのが、すっきりして快適だと思うが、今回は状態が悪い。ロープを出すような状況になると、時間がかかってくる。見下ろすと、ガスの切れ間から下のテラスに踏み跡が見える。今回は安全策をとり、そのテラスまで下りることにした。テラスをトラバースして、Ⅰ峰・Ⅱ峰間のルンゼを登るつもりだった。草付きの踏み跡を順調にたどっていたが、その踏み跡が不明瞭になり、気が付くと滑りやすい岩場の斜面を登っていた。上部に行くほど傾斜がきつそうだ。この斜面を登り切れば、南稜の主稜に出られそうだ。
ルートを見いだそうと、保見さんが偵察に出るものの、数メートル登ったところで行き詰まってしまった。ロープを出して、目の前の凹角を登るしかなさそうだ。今度は松林くんトップで凹角を登っていき、ハイマツ混じりのリッジに移ってじわじわと登っていく。見た目よりかなり悪そうで、時間がかかっている。やがて雨は激しさを増し、凹角には水が流れ始める。サードの吉村さんが視界から消えてかなり時間がたったが、コールはまだだ。冷たい雨の中、どんどん体温を奪われていく。この1Pを登る1時間で状況が急変した。エスケープを含めて、この先のことを考えなければならなくなった。
これから先、トリコニーの核心部に入ると思われる。稜線まで標高差にしてまだ200mくらいはある。これ以上風雨にさらされるのは危険だと感じた。すでに遅い判断だったが、下降を決断する。
困難な下降になることが予測された。途中渡った涸沢はすでに滝のように水が流れている。今考えても、この時点で下降を判断したのが妥当だったかは、微妙なラインだと思う。
早速ロープを出して、先ほどのテラスまで下降する。ここからが問題だった。下り気味のトラバースであるが、草付きの岩場で大変滑りやすい。すべてロープを使って下降することにした。下り始めると風の影響が少なくなり、寒さは解消した。
ロープ回収時、捨て縄にかけたロープが動かず大変苦労した。雨で濡れて滑りが悪くなったためだ。また、藪の中の懸垂下降は、ロープ操作を一層難しくした。
長いトラバースが終わり、ルンゼへの下降路を確認すべく、保見さんトップで草付きを下っていく。突然、保見さんがスリップ。幸い滝の手前が緩傾斜になっていて、止まることができた。怪我もなさそうだ。濡れた草付きは、濡れた岩以上に滑りやすい。以降、みんなバイルを打ち込みながら慎重に下ることにした。
ルンゼはかなりの量の水が流れており、ナイフリッジを下降するかルンゼを下降するか難しい判断を迫られた。傾斜が緩いと懸垂下降は不安定になる。かといって、ルンゼ内に確実な下降支点が取れるとは限らない。松林くん先頭に、わずかに残る踏み跡をたどる。
踏み跡はルンゼに向かっているため、それをたどることにした。途中からルンゼを下降するが、滝も出てきて水をかぶりながら難しい懸垂下降となる。時折ガスが晴れて、下の雪渓が見えているが、なかなか近づくことができない。雨は時折強く、降ったりやんだりの状態だ。
吉村さんと係は、メンバーの安全管理と下降ルートのチェック、日没までの時間など総合的な判断を行った。途中、メンバー全員が集中力を切らすことなく、長い懸垂下降(合計8P)をこなすことができたことが、無事下山できた最大のポイントだった。
日没のリミットも迫ってきている。松林くんは、「雪彦よりも悪いです」と言っていたが、雪彦山でのトレーニングが今回の行動に活かされていた。
日没直前に取り付きのテラスに降り立った。みんな安堵の笑顔が。南稜を何度も振り返りながら雪渓を下り、14時間ぶりにテント場に戻ることができた。
全身ずぶ濡れとなったため、暖を取りながら、ささやかな打ち上げを行った。軽量化のため着替えなど持ってきていない。今日一日に凝縮された夏合宿となったが、メンバーの思いは複雑だったと思う。長い緊張状態が続いて疲れているはずだが、気持ちが高ぶっていて、眠れない夜だった。

16日
ゆっくり目に起床して、下山を始める。槍沢の慰霊隊に合流する予定だったが、天気も悪く、時間的にも厳しいと判断して、我々は明神で線香を上げることにした。遊歩道を歩いて、穂高見命が祀られる明神の奥宮へ。一瞬太陽が顔をのぞかしたので、明神橋のたもとの河原にケルンを築いて線香を上げた。
上高地に着くと、バケツをひっくり返したような土砂降りになる。日を越えてからも、断続的に雨が降っていた。
貪欲に登り続けることも良いが、相手は自然、もう少しおおらかな気持ちで山に接したらよいと思った。

<コースタイム>
8/14 7:58 上高地 10:15 岳沢ヒュッテ~テント場 11:45 南稜偵察へ 12:15 南稜取付き 12:34 12:52 岳沢テント場
8/15 4:36 岳沢テント場 5:16 南稜取付き 6:50ごろ 下部岸壁右下 12:00ごろ Ⅱ峰下部(?)撤退 17:30 南稜取付き 18:05 岳沢テント場
8/16 6:57 岳沢ヒュッテ 8:44 岳沢登山口 9:30 明神橋、焼香 9:55 明神館 10:06 10:52 上高地

コメントを残す