台高山脈 往古川・真砂谷遡行


宮本博夫

日程:2004年4月29日~30日
参加者:大前、菅野、柳原(会員外)
ここ数年のG.W.の恒例イベントとなった紀伊半島沢登りであるが、今回の行き先は台高山脈最南端山域の往古川、その名も真砂鬼丸谷という凄い名前のところ。ここは2年前遡行した銚子川岩井谷と尾根を挟んだ東側にあって、地形図を見る限り険谷で名高い岩井谷よりも更に等高線が詰まっている。いったいどんな谷なのか、期待と不安が入り混じりつつ、G.W.を迎えた。
4月28日前夜、菅野さんと湘南台駅で待ち合わせ、三重県尾鷲の隣町、海山町に向かう。関東組みは高速伊勢道を降りて暫く国道を走り、途中の道の駅で仮眠した。
29日、晴れ。海山町の紀勢本線相賀駅で広島組と待ち合わせ、7時を少し過ぎて、大前さん、柳原さんがやって来られた。国道から折れて往古川沿いの林道に入り、林道上部の下山地点へ車を回送に行く。
10:40出発。計画では2日間での遡行~下山は難しいと考え、2泊3日の食料を担いで遡行開始する。林道より往古川本流に降りたところに、真砂谷が出合っている。先に降りていた大前さんが今回は釣竿を持ってこられて、既に1~2匹釣っている。真砂谷に入るとゴーロ帯が続き、適当に巻きながら進む。
やがて堂々たる水量の20m滝が現れ、その前で昼休憩とする。ここでも大前さんはあっという間に2匹釣っていた。晩飯が楽しみである。この滝は右岸を巻く。高巻きは特に困難なところはないのだが、一面の落ち葉が非常に滑る。このあたり一帯は見事な照葉樹林帯であるが、そのつるつるした葉っぱが恐ろしいほど滑るのだった。下手をすれば滑落につながり、頭痛がしてくるほどに神経を使わされた。その後暫くは巻きに入ると、決まってこの落ち葉に悩まされた。
谷に降りると淵があって、際どいへつりで通過、少し進むとゴルジュ地形となってまた20m滝が現れる。ここも右岸を巻くが少し大きく巻き過ぎたようで、懸垂下降でルート修正をする羽目になった。その後小尾根を伝ってコルから谷に降り、またゴーロ帯が続く。連瀑帯のはずが次の滝が現れずおかしいな、と思い後で気付いたのだが、連瀑帯は一緒に巻いてしまったようだ。「見ごたえのある凄いゴルジュ」ということだったので、見損なってしまい残念であった。
暫く大岩の続くゴーロ帯を登る。途中伏流となり、また水流が復活したころ、大岩の上に生える大変立派な杉の巨木があり、その袂が広々とした台地となっている。時刻は16:30、明日のことを考えるともう少し進んでおきたいところではあるが、この大岩ゴーロ帯の中ではこれ以上の快適な寝床は望めるわけもなく、なんだか大杉が「今日はここに泊まっていきなさい。」と言っている気がしないでもないので、そこを今宵の泊り場とした。
お約束の焚き火をしながら、大前シェフ特製の深山の中とは信じられないほどの豪華メニューを堪能する。今日釣られたゴギ・アマゴたちもおいしくいただく。その夜は雨の心配もなく、落ち葉が敷き詰められたふかふか天然マットの広い寝床に、めいめいが散らばってごろ寝した。
30日、晴れ。7:40出発。この辺からかなりの高みから瀑水を落とす滝が見える。どうやらあれが真砂谷最大の八町滝らしい。この後特大の巨岩帯になる。ところどころ昨晩の泊り場同様、杉の巨木が大岩の上に生えているのが見られる。不思議なことに杉の古木は決まって岩の上に生えているのだった。
急傾斜の巨岩帯を登っていくと八町滝の下に着く(9:00)。高さは100mあり、上部は見えない。滝のかかる岸壁は高さだけでなく横にも大きく広がっており、かつ谷幅も広く開けていて、壮大なスケールである。記念撮影などしながら暫くこの大瀑布を見物した。
この辺から下流方面を見ると尾鷲湾の海と島々、湾に流れ込んでいく往古川がよく見え、絶景である。下流の町からも八町滝が確認できるはずだ。海からすぐそこの1300mほどの山地にこれほどの渓谷が発達しているのは、やはり本州最多雨地帯ならではと思われる。
9:40分再出発し、八町滝の高巻きに入る。右岸の大きく開けた支流を登り、途中から壁を割ってルンゼがあるので、それを詰めるとほぼ八町滝の上。踏み跡を降りれば八町滝の竜頭付近に出た。
ここで竜頭部分のミニゴルジュを観察していると、すぐ近くに猪がいることに気付いた。(大前さん、猪に会ったのは八町滝の上です。)その時の状況は大前さんの報告を参照ください。
この先は散発的に5~15m級の滝が現れ、谷が右に直角に曲がって25m程の滝が落ちる。両岸とも側壁が発達して、滝の右のルンゼを登って巻くしかルートはないのだが、結構急である。アンザイレンして登るが、登りながら本当に登れるのか、ルートはここでいいのか、と不安に思ってしまう。でもよく見るとそれなりに踏まれていて、以外にスタンスがしっかりしていた。途中で樹林に逃れて、壁の際をトラバースする。技術的にはここが今回の核心部だった。
巻き終えると、2段60mの素晴らしい大滝が現れる。アンチョコでは左岸(右側)を巻く、となっているが滝は左に曲がっていっており、左岸を巻くと相当遠回りになるので右岸樹林帯を登ることにした。上部で壁が出てきたが回り込んで弱点を縫って登り、難なく谷に戻ることが出来た。左岸側はまだ高い側壁が続いており、当分谷には戻れない。谷はここで二俣になっており、左岸側を巻いた場合は予定とは違う右俣にいってしまうところだった。(二俣;14:00着)
左俣は滑滝になっており、滑滝の上はなだらかな地形となり、傾斜の緩い小川のような流れとなる。滝場はもうなくなり、完全に源流の様相、思ったよりも早く稜線に出られそうだ。本日の出発時点では、今日は源流か稜線で泊まれれば上々、と思っていたが、今日中に下山できる可能性が出てきた。昨晩でビールを切らした大前さんは俄然ピッチを上げだした。いよいよ水が少なくなったところで、今日はこの辺で泊まっていくか、遅くなっても下山を目指すか皆で協議し、後者に決定した。
やがて稜線近くの仕事道の跡に出る。嘉茂助ノ頭1380mの直下である。2年前に見た一面の苔の絨毯地帯に立ち寄ったあと16:30下山開始、花抜峠を経て林道に18:50到着、無事登山を終え、握手で祝った。
今回の往古川真砂谷、尾根を挟んだ隣りにある銚子川岩井谷とついつい比較してしまうが、猛烈なゴルジュを有し、滝がひっきりなしに連続する岩井谷に対して、もちろん部分的には深いゴルジュはあるが、滝場よりもゴーロ帯が多く、全般には谷幅が広く特に八町滝ではバーンと開け、予想に反して明るい渓相の谷、といった印象であった。
皆さん、次にお会いするのは、リベンジ池郷かな?

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