剱岳・立山


三谷

月日:9月19日(土)~9月23日(水・祝)
参加者:吉村(光)、宮重(直)、徳永、吉村(太)

【剱岳(黒部ダムから源次郎尾根)】
三谷、吉村(光)、吉村(太)
<行動記録>
今年のシルバーウィークはなんと5連休である。この休みを利用しないわけにはいかない。お盆休みは穂高だったので、今回は剱ということになる。企画段階では、剱尾根を考えていたが、アプローチが長いので日程的に厳しいことと、剱尾根の登高距離が長く我々の登攀スピードでは1ビバークを余儀なくされると予測されたので、昨年のリベンジとして源次郎尾根の主稜を登ることにした。今までは、どうしても八ツ峰や北方稜線の方に目が行きがちで、この尾根に取り付く機会がなかった。しかし、取り付きからの標高差が900mもある。体力的に夏合宿以上の厳しい山行になりそうだ。もう一つは、宮重さん、徳永さんのパーティーの立山から黒部ダムへと周遊する計画、この2本立てで行うことになった。
19日
昼過ぎ、宮重さんのデリカ号で広島を出発する。連休初日の渋滞もさほどではなく、予定より少し遅れて扇沢到着する。ところが、無料駐車場は連休初日に関わらず、すでに満車状態である。仕方なく1日1000円の有料駐車場に止めて、車の隙間にテントを張って仮眠をとる。
20日
5時起床。素早く共同装備を分担、パッキングをしてバスターミナルに向かう。
切符売り場には、早朝にもかかわらず長蛇の列ができている。行楽シーズンの混み具合がこれほどとは思わなかった。扇沢を起点にして立山へ訪れる観光客も多いのだろう。当然始発には乗れず、次の便に乗ることになった。
黒部ダム駅で、立山を黒部湖側から登る宮重さんのパーティーと分かれて、我々は内蔵助谷に向かう。改札手前の通路を通り施設の外に出て、いったん黒部川に下りる。途中にテントサイトがあり、釣り師がテントとタープを張って、ベースキャンプを構えている。のんびりとモーニングティーをすすっていた。
黒部川に下りると、黒四ダムの観光放水を眺めながら橋を使って対岸に渡る。仙人ダムまで続く日電歩道は、地形条件が厳しいだけに破損が激しく、毎年補修工事が行われている。やっとこの時期になって通行可能となる。細かいアップダウンを繰り返しながら1時間ほどで内蔵助谷の出合に行き着く。ここからは、しばらく急な登りが続く。残雪期に訪れたことがあるが、地形の雰囲気がだいぶ違う。谷沿いの道を歩いていると、少し開けた河原があり、左手にそびえ立つ丸山東壁を望むことができる。巨岩を見上げていると、間違ってルンゼの押し出しに入ってしまった。おそらくこれが岩壁へのアプローチになるのだろう。
ハシゴ谷乗越と真砂岳へのコースの分岐点に当たる内蔵助平は、冷たい水が流れるオアシスのような場所である。束の間、せせらぎを聴きながら、涼むことができた。
本流と別れてしばらくは、枯れ沢となったゴーロを歩く。谷間は風が通らず、日光が容赦なく降り注ぐ。乗越に近づくとだんだんと急登になり、拭いても、拭いてもしたたる汗をぬぐいながら登る。係は早くも膝の状態が悪くてしんどい。水の消費も激しく、すでに尽きかけている。先行パーティーと前後しながらゆっくりと登る。周辺にはブルーベリーの実がたくさんなっている。それを摘んで気力を維持する。
ハシゴ谷乗越では、視界が開け八峰の末端のピークが大きく迫る。真砂に向けてしばらく急坂が続き、朽ちて崩れそうなハシゴを下る。1時間くらいの下りで二股への分岐点に出る。雪渓に下りて上流に向けてしばらく歩くと、小さな小屋の屋根が見えてきた。こぢんまりした真砂沢ロッジのテント場は、石ころが少なく、よく整備されている。数張りのテントが張ってあったが、我々が着く頃はまだ十分なスペースがあった。水場、トイレも近く快適である。テントを張り終えたところで考える。予定していた取り付きの下見をどうしよう。何度も通って概念はあるため、間違えることはないだろうということで、ロッジのデッキでビールへと流れた。
ここは八ツ峰方面へのガイド登山の基地にもなっているようで、ガイドやお客が登攀を終えて帰ってくる。そのことから、北方稜線の東面(八ツ峰、仙人山方面)に関する情報源にもなっている。さらに特徴的だったのは、単独行者が数人集まってきて、賑やかにやっていた。
21日
まだ薄暗い5時に出発する。早いパーティーはすでに出発しており、剱沢の上流にはヘッドランプの明かりが見えている。
登山道から雪渓に降りるところでアイゼンを装着する。早朝の雪渓は氷のように堅く滑りやすい。1時間くらい歩くと長治郎谷の出合と源次郎尾根末端が見えてくる。源次郎尾根の先行パーティーが樹林帯の中に消えようとしていた。長治郎谷の出合を過ぎて、尾根の末端に到達する。吉村さんが平蔵谷側に踏み跡を見つけたということで、アイゼンを外して登攀の準備をする。吉村くんトップで、3人パーティーの後に続く。
尾根に取り付いて草むらを100mくらい進むと、最初の岩場に突き当たる。足をかけられるようにスリングが残置されている。それを使って岩を乗り越す訳だが、先行者はなかなかうまく行かない様子。ロープに引っ張られながら何とか越えていった。輪が2つあるので、アブミの要領でそれに足を入れれば簡単に越えられる。ただし、FIXロープは劣化しているのでチェックは必要。
さらに、濡れて滑りやすいルンゼを慎重に登ると樹林帯となる。今度は木登りのような急斜面をあえぎながら登る。下部の樹林帯では、その先も数mのフェースが数箇所現れる。そのたびに、順番待ちとなる。すべてほんの1ポイントだが、スリップは許されない。傾斜の最もきつい尾根の下部が、源次郎尾根の核心だと感じた。あとは体力勝負である。我々はそんなに元気なわけでもないが、鹿児島のパーティーに先を譲ると言われ、先に行かせてもらう。
我々が取り付いた時間は遅い方だったが、Ⅰ峰の手前で先頭集団に追いついてしまった。
それにしても素晴らしい景色である。秋晴れで真っ青な空、剱の岩肌と色づき始めた木々の葉っぱ、そして、白い雪渓が立山・剱岳の景観を見事に演出していた。一方、本峰山頂から別山尾根にかけては、蟻の行列のような登山者が見える。この大渋滞は高速道路のそれより厄介である。
森林限界を超えると、ハイマツ混じりの岩稜帯になる。所々脆くなって浮き石の多い地帯を落石に気を付けながら進む。前を進む7人くらいのパーティーには初心者がおられるようで、ちょっとした岩場の通過に時間がかかっている。時々石も落ちてくる。ずっと後を付いて登っていたが、Ⅰ峰手前で先を譲ってくれた。
ナイフリッジを越えると、Ⅰ峰の頂上である。Ⅱ峰と本峰が大きく迫ってくる。Ⅱ峰とのコルにクライムダウンすると、すぐにⅡ峰への登り返しとなる。一見、切り立った壁のようだが、ホールド・スタンスは豊富にある。ハイマツの際に沿ってスラブを登って行ってⅡ峰の頂上に立つ。4人パーティーが懸垂下降の準備を進めていた。しばらく待機しながら、長治郎谷や八ツ峰をゆっくり眺める。熊の岩にはテントが十数張り張ってあり、Ⅵ峰のフェースには登攀中のパーティーもいくつか見える。その間にも後続のパーティーが次々と上がってこられる。
下降支点は、岩に埋め込まれた鉄の杭に鎖がぶら下がっているので、それを使う。ロープ1本では1ピッチで下りるのは難しいので、懸垂下降のためだけにロープ2本を歩荷した。支点が若干低い位置にあるので出だしが難しいが、後は特に問題なくコルまで下りる。
コルからは本峰へのつらい登り返しである。途中、長治郎谷への下降路(ルンゼ)を探してみるが、状態が良くなく、滝も出てきそうなので、別山尾根の一般ルートから下降することにした。
へとへとになりながら登り詰めると、やっと山頂の祠が見えてきた。狭い頂上にはお昼前でたくさんの登山者で賑わっていた。私は景色を眺めながらマッタリとしたかったが、吉村さんは早く下山したいようだ。祠の前で写真を撮ってもらい、早々に下山を始める。最初の難所カニの横ばいで、なぜか吉村くんが怖がっている。後続のおばさんからも、「どこに足を置いたら良いですか」と尋ねられる。たしかに最初の足を乗せるところがよく見えないので、気持ちは分かる。
登りルートと下りルートが合流する平蔵谷の原頭部で谷の状況を確認すると、踏み跡もあり下りられそうということで平蔵谷を下ることにした。ベースへの経路は、こちらの方がずいぶん短い。最初は不安定なガレ場を下っていく。雪渓を歩く方が早いが、ゴルジュ帯にクレバスが覗いているように見えたので、左岸の草付き帯を大きく迂回することにした。源次郎尾根の岩壁帯が迫力ある。途中から吉村さんの先導で下っていく。やがて沢状を下るようになる。剱沢が近づいてくるが標高差が縮まらないので、まずいなと思いながら下るが、やっと雪渓が見えてきた。最後は10mくらいの滝を懸垂下降で下りると、シュルントもなく安全に雪渓へ合流した。ルートが不確実な分、平蔵谷の方が核心だったように思える。
22日
本日の行程は、池ノ平まで行く予定にしていたが、ちょっと時間的に(気力的にも)無理そうだ。二股まで空荷で出かけることにした。雪渓が登山道をふさいで、かつ、その先は危険なブリッジになっている。仕方なくはしご谷へのルートを登り返して高巻きをすることにする。
河原に出たところで対岸に渡るわけだが、架けられている橋を見て唖然とする。単に丸太を束ねた橋に、たるんだロープが渡してある。足下は激流である。滑らないように慎重にわたる。
あとは川沿いにつけられた歩道を歩くと近藤岩のある二股に到着した。途中平均年齢70歳くらいのパーティーに出会うが、あの橋をどうするのだろうと考えてしまう。二股の手前には良いテントのスペースがあり、単独の女性が出発の準備をしていた。登山のスタイルも年齢層も様々だ。
遥か先に見える北方稜線と三ノ窓を確認する。内蔵助谷より一日で三ノ窓に登れないことはなさそうだ。
黒部ダムへのつらい道のりを黙々と歩く。黒部川への出合いまで2回しか休まなかった。どおりでしんどかった。今度は丸山東壁をじっくりと眺める。すると、数パーティーが登攀中(懸垂下降中)だった。そのパーティーのものと思われるテントが下の河原に張ってあった。
最後はダムへの地獄のような登り返し。ダム駅へ到着するがホッとする間もなく、やはり大行列ができている。足が棒のようになりながら、バスの時間待ち。待ち合わせ時間を1時間遅れて扇沢に到着、宮重さん、徳永さんと再会する。大町温泉でゆっくり汗を流して、スーパーで肉、野菜、そしてビールを買いこみ、本日の宿に向かう。そして乾杯、前夜飲めなかったビールを浴びるほど飲む。
翌早朝、天気に恵まれた今回の山行に一様に満足して広島に向かう。
記:三谷
<コースタイム>
9/20 7:30 黒部ダム~8:28内蔵谷出合~10:25内蔵助平~12:03ハシゴ谷乗越手前(休憩) ~12:20ハシゴ谷乗越~13:38真砂沢
9/21 3:50 起床~5:05 テント出発~6:03 長次郎取付~6:10 長次郎尾根登攀開始~8:50 2609ピーク~9:25 懸垂下降点~10:00 懸垂完了~10:54 本峰~11:15 本峰出発~11:45 平蔵コル~14:20 劔沢~15:05 真砂沢
9/22 3:55 起床~5:30 出発~6:45 二股着~7:00 二股発~8:15 真砂沢着~8:54 真砂沢発~10:29 ハシゴ谷乗越~11:45 真砂岳分岐~13:58 内蔵助出合~15:17 黒部ダム

【秋の黒部(黒部の巨人が待ってたから)】
徳永、宮重(直)
黒部湖で満員のトロリーバスを降り、源次郎隊とサヨウナラ。徳ちゃんと2人でケーブルカーに乗り込み黒部平へ。ここから東一ノ越、一ノ越山荘へ。翌日は立山、真砂岳、別山と縦走して剱沢を下り、真砂沢ロッジキャンプ場で源次郎隊と合流した。雲上のハイキングと別れを告げた最終日はハシゴ谷乗越を越えて内蔵助平へ。足元の悪い道をしばらく行くと、黒部の巨人はそこに居た。
シルバーウィークの剱山行に乗っかり、丸山東壁を拝んでみたいと思い立って徳ちゃんに付き添ってもらった次第です。ツアーなどで大賑わいの雄山頂上では雲海に浮かぶアルプスの峰々が一望できて登山者が多いのもうなずけるのですが、なんせ田舎者にはこの人だかりには少々違和感を感じてしまうのでした。全行程で晴れて楽しいばかり、行程も緩やかだったのでのんびりゆっくり歩かせてもらいました。
ただ、真砂沢ロッジからの道は少々悪路で濡れた石ころが安定していない急登で、その先も崩れかけた斜面やはしごなどが万遍なく出現。安定した歩きで前を行く徳ちゃんを追いかけながらやっとこさで現われた黒部の巨人。ブッシュに見えかくれしながら眺めた大ハングは圧倒的でした。これからは、日本の岩場を見て歩く山行もいいかな、トポを持って妄想クライミングして帰る的な。
記:宮重(直)
<コースタイム>
10/20黒部平8:20~東一ノ越11:12~一ノ越山荘13:19
10/21一ノ越山荘6:00~雄山6:00~大汝山 6:38~富士の折立6:50~真砂岳7:50~内蔵助山荘8:00~別山9:30~11:10剱沢小屋~長次郎出合13:00~真砂沢ロッジ13:40
10/22 真砂沢ロッジ6:20~ハシゴ谷乗越8:00 ~内蔵助平9:30~内蔵助谷出合12:10~黒部ダム13:50