冬合宿(南アルプス赤石岳-富士見平まで) (係)三谷


初日の出

月日:2017年12月30日~2018年1月1日
参加者:吉村、松林

今回の正月山行は南アルプス赤石岳で実施した。10月の下見山行、歩荷・アイゼントレーニング、直前の大山山行を経て合宿に望んだ。
赤石岳周辺の山々は深く、アプローチが困難であることから、その山の持つ魅力に反して冬訪れる登山者は少ない。
昨年の正月の好天と近年の暖冬とは対称的に、今シーズンは厳しい寒さが続いている。ヤマテンより「大荒れ情報」が出されており、年末年始の強い寒波で、日本海側の山岳の登山は絶望的のように思えた。
一方、南アルプスでは大雪に見舞われることは少ないが、稜線では強い寒気と風で行動不能になる。結果、合宿期間中の荒天を警戒して、最高到達地点は富士見平までとなった。
29日朝、広島を出発。山陽道三木SAで松林くんと合流し、静岡方面へ向かう。新東名の島田金谷ICを下りて、曲がりくねった細い道路を延々と走り、日が暮れた頃、やっとゲートに到着した。
ゲート前の一軒家では登山補導所が開設されている。その前の登山届けのポストに計画書を落とす。年末年始には、山岳パトロールが常駐されていて、すでに良い臭いをさせていた。
このゲートが長い林道アプローチの出発点である。食事をしながら明日からの予定を打ち合わせて、車中泊をする。
30日、明日以降の悪天候に備えて、今日は出来るだけ距離を伸ばすことにする。ゲートから椹島に向けて、16km近くのロードを開始する。ヘッドランプを付けて所々凍結した道を左右によけながら進む。林道脇の岩壁は、いつ落石が発生してもおかしくない。
赤石ダムのダム湖は、一面厚い氷に覆われている。歩行中はさほど寒さを感じないが、日中も氷点下ということを示している。奥に見える白い山並みが青空に映えて美しい。風が強いらしく、稜線には白い雪煙が上がっている。単調なロードもさほど苦にはならず、4時間強で椹島に到着した。これも熊野古道ウォークの効果か?

赤石ダムと白い山並み
赤石ダムと白い山並み

途中、下山中の単独行者とすれ違う。先行者がいないために、標高2000mくらいから膝下くらいのラッセルが続き、赤石小屋までトレースを付けて引き返したとのこと。
椹島の登山口ではもう一人の単独行者が休んでいた。赤石小屋まで3/5のところで引き返したらしい。
我々はさほど気にすることもなく登山を継続する。どんなに悪天候でも富士見平までは行けると踏んでいた。林道から急な階段を上がり、つづら折れの急登から始まる。カンバ段で傾斜が緩やかになり一息つくことができた。
トレースが付いているものの、不安定な雪が乗っていると、足の置き場に神経を使い消耗する。林道歩きに高低差1000m以上の登りである。歩荷返しの取り付きに着いたとき、15時半を回っていた。日没までに小屋に到着できるか、微妙な時間になった。メンバーと相談して、何とか頑張って小屋に入ることにする。
しかし、先行者がルートをロストしており、夏道を探すのに時間をロスしてしまった。岩場では氷化した雪が付いており、すべりやすい。本日最後の登りにあえぐ。歩荷返しの終了点(標識に小屋まで30分とある)で時間切れになったので、ここで行動を打ち切りにする。
水をつくって食事を終えた頃、男女二人のパーティーがテントの前を通りがかる。こんな時間に小屋に入るそうだ。出発が遅くてこの時間になったとのこと。小屋まではトレースがある旨を伝える。
31日早朝、ヘッドランプの明かりを頼りにトレースを辿る。天気はまだ安定している。30分ほどで小屋に到着。テントなど不要な荷物を小屋の前にデポして再び出発する。やはり先行者はいないようだ。つぼ足で膝下くらいのラッセルを進める。今回はワカンを持参しなかった。これほどの降雪は想定していなかったが、結局森林限界以上ではワカンで歩行することはできないので省いた。
主に南斜面をトラバースするようにつけられた登山道は、吹き溜まりになって雪が深い。一方、尾根は、雪は少ないが傾斜が急で藪漕ぎとなる。標高を上げるにつれて積雪量が増え、登山道が不明瞭になる。そのため、途中からハイマツの尾根を辿ることになる。積雪の下は空洞となっていて、ときに腰まで埋まり、遅々として進まない。そのうち、昨夜声をかけてこられた二人のパーティーが追い付いてきた。剱岳からここへ転身して来たそうだ。しばしの間ラッセルを代わってもらう。普段から深雪に負けない精神力を備える必要がある。ここ数年の合宿はトレースのあるすっきりとしたルートが多かったようだ。
明け方には富士山が見えていたが、9時過ぎから天候が急変。富士見平では吹雪となり、あっという間に白いベールがかかってしまう。厳しいラッセルに時間がかかりすぎ、天候も悪化した。これ以上進むと引き返しが困難になりそうなので、行動を打ち切って赤石小屋まで引き返すことにする。
一方、二人パーティーは縦走から頂上往復に方針を転換し、上部でビバークすると言って、吹雪の中を突っ込んで行った。タフというか、我々にはその気概がなかった。翌日登頂できたパーティーは、このパーティーのトレースのおかげと言える。

赤石小屋に戻り、冬期入口から中に潜り込む。開放されているのは2階のロフトのみ。我々は1階のはしごの踊り場に寝場所を構えた。小屋の中は寒く、適度に暖を取りながら時間が過ぎるのを待つ。外を覗いてみるが、相変わらず吹雪の白い世界。悪天候にもかかわらず、続々と登山者が入ってくる。
総勢10名ほどになった。最後、暗くなって若い男女の2人パーティーが入ってきて入り口付近にテントを張っていた。その2人は夜遅くまで翌日の行動方針について揉めていた。
年が変わって元旦の朝、空を見ると星が出ている。低気圧は通過したようだ。ヘッドランプを付けて一番に小屋を出発する。昨日の雪と風により、トレースは消えかかっている。
今日も厳しいラッセルになる。我々は真面目すぎるのか、公共工事に奉仕している。後から東京の山岳会の若いパーティーが追いついてきた。ラッセルを代わってもらう。空が徐々に赤みを増していき、富士山のシルエットがくっきりと浮かび上がってくる。そして、初日の出を拝むことができた。今年もよい年でありますように。
低気圧が過ぎると、強い冬型になるはずだったが、実際には、さほど崩れなかった。一時的な晴天だったかもしれない。稜線には強風を表す雪煙が舞っている。

富士見平にて
富士見平にて

昨日のパーティーが東尾根にトレースを残していた。岩場の基部まで達しているようだ。名残惜しかったが、二回目の富士見平より引き返すことにする。下山中、3から4パーティーが稜線に向かっていた。赤石岳の迫力にしばし見とれる。

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赤石小屋でデポした装備を回収して下山を始める。
このあと、過酷な2000mの下りと4時間の林道歩きが待っていた。 長い下りで疲れすぎないようにコンスタントに休憩を入れる。足を痛めないように、早々にアイゼンも外した。昨日の雪で標高を下げても、登山道には雪が残っていた。
椹島まで降りると、すでに冬山にいる感覚はなくなっている。里に急ぎたいというよりは、山に引き留められている感じ。
2018年の元日の終わりを味わいながら、とぼとぼと歩いて行く。空が夕日に照らされ、赤紫色に染まる綿雲がキレイだ。日が暮れると、今度は空の色が群青色に変わっていく。川で沸いた霧が流れており、幻想的な風景を楽しんだ。
畑薙ダム近くのきれいな温泉でさっぱりして、町に向かう。夜になって活動を始めた、野ウサギ、毛並みのキレイなテン、立派な角の生えた鹿に出会う。犬と猫にも出会った。突然車のライトに照らされて、慌てふためいている様子。散歩中にお邪魔したようである。しかも、明るい満月の夜。珍しい動物たちに出会って、不思議な夜だった。
暗闇の田舎道は分かりにくい。カーナビに翻弄されながら何とか麓の町にたどり着く。コンビニで食料を求めるが、品薄状態である。元旦だから仕方がない。その後、道の駅に移動する。道の駅には公衆浴場が併設されており、駐車場は車中泊者で一杯だった。再び車中で一夜を明かす。もう天気の心配をする必要はない。安心して眠りにつくことができた。
翌早朝、広島へ向けて出発した。順調に流れて、夕方、広島に到着した。

(記:三谷)

<コースタイム>
12/30 5:30 沼平ゲート → 6:50 畑薙大橋 → 7:20 笊ヶ岳登山口 → 8:35 赤石沢出合 → 9:20 聖岳登山口 → 10:05 椹島 10:20 → 12:50 樺段 → 15:15 歩荷返し下 → 16:25 2480mピーク
12/31 5:50 2480mピーク → 6:25 赤石小屋 6:40 → 9:20 富士見平 9:30 → 9:35 コル付近 9:50 → 9:55 富士見平 → 11:00 赤石小屋
1/1 5:45 赤石小屋 → 7:20 富士見平 7:30 → 8:40 赤石小屋 9:10 → 10:05 歩荷返し下 → 11:25 樺段 → 12:50 椹島 13:05 → 13:45 聖岳登山口 → 14:25 赤石沢出合 → 15:30 笊ヶ岳登山口 → 16:10 畑薙大橋 → 17:40 沼平ゲート
(記:松林)