個人山行 イグルーに泊まる(旧羅漢)


島本

日付 2018年2月24日(土)~25日(日)

<行動記録>
週末に二日間も時間ができた。良い機会なので独りで雪山へ行くことにした。テント泊のために買ったテントをまだ使ったことが無い。今回良いチャンスだが、ふとイグルーのことを思い出した。
イグルーを知ったのは山登りを始めてから。ネットでイグルーに泊まって縦走をしている人の書き込みを見たとき、面白そうだと思った。イグルーは雪洞と違い積雪が50cmくらいあれば作れる。もちろん積雪量は多いに越したことはない。暴風でテントのように飛ばされる心配もなく、内部の温度は0度と暖かく、静かで雪洞のような圧迫感もないらしい。それらを知って以来、ずっとイグルーを作ってみたいと思っていた。
よし!イグルーにしよっ!
と決めてから計画、準備と順調に進んだ。場所はたっぷりの雪が残っている恐羅漢の先の旧羅漢にする。

2/24 久しぶりの恐羅漢である。大規模林道経由で向かう。道路に雪はない。ヒュッテに来るのは2年ぶりだ。準備を整え百本杉に向けて登山道を歩く。独りで雪山に入るのは山岳会に入る前の比婆山以来、6年ぶり。あの時のドキドキを思い出す。しかし、前回は何にも分かっちゃいない状態だったが、山岳会で鍛えて頂いたおかげで、「どうにかなる、どうにかする」という落ち着いた精神状態だった。
山スキーでシール登行をしたことを思い出しながら歩く。途中まではスキー場の軽快な音楽が聞こえていたが、尾根を越えると静かになった。恐羅漢を過ぎ旧羅漢までの鞍部で旧羅漢から戻ってくる平本さんに出会った。人と会うのは初めてである。嬉しかった。旧羅漢に到着し、休憩を取ってイグルーの適地を探すこととする。
樹林帯はよくないらしいので、疎林で少し雪がこんもりした場所に決めた。ゾンデで積雪深を計ると約2mだった。何年もイグルーの設営を考えていたので、複数人で作る場合の脳内シミュレーションはできているが、一人で作ることがうまくいくのかは未知である。

まず、1m×80cmの楕円を描き、スノーソーとスコップで楕円の中を掘り下げながら、30cm×30cm×30cmの雪の土台になるブロックを切り出し、楕円にそって積んでいく。自分が外に出れる幅を残し2段積む。なんかイグルーっぽくなってきた。次は入口を掘り下げて入口の高さを決めゾンデを差し込んでおく。また楕円の中に入り開けておいた空間をブロックでつぶす。もう外には出られない。どんどん足元を掘り下げていく。ゾンデの先が見えてきた。そこからまだ50cm掘り下げなければならないが、イグルーの中は掘り出した雪が邪魔なので、開いた天井から雪の塊を投げ出す。遠いゴールに向かって投げるバスケットのシュートを何本も行う感覚である。マジで疲れた。でも入口を作らないと出ることが出来ないのよ。やるしかない。無心に堀っては投げを繰り返し、入口が貫通した時は安心した。外に出られる~。ホフク前進で外に出ると、今度は別の場所から屋根用の30cm×50cm×10cmの薄いブロックを幾つも切り出し、土台のブロックの上に中心に向かってずらしながら重ねていく。何個も切り出していると雪の扱いが分かってくる。ノコで切込みをいれても時間が経つとすぐくっついてしまう。ノコを2~3回入れてすぐ持ち上げる。そうすると雪同士の癒着を防げる。

17時、あとは天井を塞ぐだけである。しかし、ここで崩れ落ちてしまったら3時間も頑張ってきた苦労が水の泡である。念には念を入れ、近くの木から枝を切ってきて上に渡してからブロックを置いた。後は隙間を埋めたり、中の角ばったところから水滴が落ちないよう削ったり、横になって寝られるように足元を広げたりして、18時に完成した。初めてにしては上出来である。
中に入ってから、予め準備していた板状のブロックで入口を塞ぎ、隙間は周りの雪壁を削って詰めていく。そうすると、冷気と外の音が遮断され静かな空間になった。テントの薄い布とは違い、分厚い雪のブロックで守られた城砦のようである。今まで単独で泊まることが出来なかったのは“怖い”からである。夜中に足音や気配がしたら・・・。そんな事を考えると、なかなか実行できなかったが、今回イグルーのおかげもあってか、怖いと思う事は一度もなかった。疲れ過ぎてそれどころじゃなかったのもあるかもしれないが・・・
周りの雪を削って水を作り、夕食を作って食べる。水がこぼれようが、歯磨きのうがいの水をそこらへんに吐き出そうが、全然気にしなくても良い。隙間もけっこうあるので、換気を心配することもない。白い雪壁が光を反射し、イグルー内は明るい。う~ん、快適である。
ひとり山の中でもの思いに耽るつもりだったが、5時間近い労働の疲れからか、すぐに眠りに落ちた。

2/25 天気は曇り。昼から雨の予報だったがまだ持ちそうだ。ゆっくり起床しのんびり朝ご飯を食べる。身支度を整え、昨日塞いだ入口をぶち破って外に出る。1日お世話になったイグルーに感謝と別れを告げ9時過ぎに出発する。
恐羅漢山頂へ到着すると、姿勢良く遠くの山並みを眺めておられる単独の男性がおられた。どう見ても“山ヤ”と思われるその人から「あんたぁ、どちらから来られたん?」と声をかけられた。なんと小泓さんである。名越さんの捜索の時、帰りの車でご一緒させて頂いて以来である。こんな所でお会いできるなんてとても嬉しかった。その後、宮重夫妻も上がってこられ、楽しいひと時を過ごすことができた。旧羅漢まで行かれる宮重夫妻と別れて、小泓さんと下山する。やはり小泓さんは歩くのが早い。30分でヒュッテに着いてしまった。ヒュッテには沢山の方がおられ大盛況だった。

イグルー作成に4時間半かかった。重い雪との格闘はかなり身体に堪えた。しかし、寝泊りするには快適だった。もっと短時間で作れるようになれば、冬の泊まりの一つの選択肢になりそうである。

<コースタイム>
2/24 牛小屋高原駐車場10:39-百本杉10:56-恐羅漢12:20-13:00旧羅漢
イグルー作成(13:30~18:00)イグルー泊(21:00就寝)
2/25 (6:20起床)旧羅漢9:12-10:03恐羅漢山頂10:30-11:00牛小屋ヒュッテ着