春合宿Ⅰ 鹿島槍ヶ岳東尾根~赤岩尾根 (係) 三谷


三谷

月日:5月2日(木)~5月5日(日)
参加者:吉村、保見

<行動記録>
5月3日 天気:晴れ、気温:5℃(キャンプ地)
 鹿島槍ヶ岳東尾根は、標高差1,750mの長大な尾根であり、第一岩峰、第二岩峰二つの岩場をもつ積雪期限定のルートである。鹿島槍ヶ岳の北峰へダイレクトに突き上げる東尾根は、後立山連峰の中で一度は登っておきたい尾根の一つである。
 大谷原、お互いの無事、健闘を祈り、縦走隊を見送る。我々は、パッキングなど身支度を整える。軽量化したつもりだが、結構な重さとなった。
 後立山には何度も訪れているが、ここ大谷原から入山するのは初めてである。期待と不安、遠く白い峰が輝いていた。
 赤岩尾根に取り付くための林道をしばらく歩くと、東尾根の登山口を示す目印がある。登山道といっても踏みあと程度であり、尾根まで一気に200m、笹の藪をこぎながら急登に喘ぐ。多少迷いつつも、赤布が随所に付けられており、進路を補正しながらのぼる。
 尾根上に出るとやっと残雪が現れる。雪は不安定で、途中、斜面で踏み抜いてひっくり返ってしまい、脱出に難儀をした。しかし、さすが人気ルートである。樹林の中を新しいトレースが続いており、遠くに先行パーティーが見られた。係は調子が上がらずスローペース。わずかに傾斜が落ちて一息。
樹林がまばらになり、少しやせた尾根が現れたところで、一人の登山者が座り込んでいる。上部より、もう一人の登山者がザイルを張り、荷を引きずりながら降りてきた。怪我でもしたのだろうか。
 少し風も出てきたので、カッパを着込む。今日は寒気の影響か、うだるような暑さはない。尾根が徐々に細くなり、雪が崩落したクレバスが現れる。5m位の雪壁が出てきたので、アイゼンを装着する。向かいには、長大な天狗尾根が伸びている。天狗尾根にも数パーティーが取り付いている。
一ノ沢ノ頭では、数張りのテントが張ってある。我々はもう少し進んで、二ノ沢ノ頭との間にある小ピークにテントを張ることにした。そこは静かで、絶好のポジションであった。稜線に続く東尾根の雪稜だけでなく、鹿島槍や五竜の稜線が見渡せ、風景を独占する。テン場を整えてテントに入ろうとしたとき、これらの山並みが芸術的な赤紫色に染まっていった。

5月4日 天気:晴れのち吹雪、気温:-5℃(キャンプ地)
 テントがあまりにも快適すぎて、30分の寝坊をしてしまい、完全に明るくなっての出発となった。
二ノ沢ノ頭を越えると、美しい弓状の雪稜が続き、切り立った第一岩峰が迫ってくる。数パーティーが出発の準備や休憩をしていた。我々はチャンスとばかり、休まずに先を急ぐ。
 第一岩峰の取り付きには、すでに10人くらいが列を作っていたが、ここはまだ困難な箇所はないようでスムーズに流れている。我々もロープを付けて待機する。まず、保見さんがロープを伸ばす。
 先行パーティーにしたがって、ダケカンバで一旦ピッチを切る。次のピッチが実質の1ピッチ目。アイゼンのよく決まる雪壁を快適に登る。次のビレーポイント手前が不安定な草つきで悪かったが、他は問題なかった。吉村さんによると、昨年よりも雪が多いらしい。雪が少ないと、岩の露出した不安定な草付きで悪いということだ。
 3ピッチで、いったんロープをたたみ、トレースをたどる。ナイフリッジをトラバース気味に進むと、いよいよ核心となる第二岩峰が見えてきた。といっても、ポイントとなるのはチムニーにあるチョックストーンの乗越だけである。
しかし、1時間くらい経過しただろうか。到着した際に取り付いていたパーティーがまだチムニーを越えられていない。我々の前には10人くらいいるので、ゆっくり見ていると、フェースの細かいスタンスにアイゼンを引っかけて、ステミングのように直上するのが適切なムーブと思われた。
やっと我々の番、保見さんリードで取り付く。打ち合わせ通り、チムニーの中間でいったんピッチを切る。
 雪の乗っているいやらしい草付きをトラバースし、氷の詰まったチムニーに入る。どころが、保見さんの確保している場所は大変狭く、3人集まると身動き取れなかった。しかも、錆びたハーケン1箇所に3人がセルフビレーを取っている。カムでバックアップを取ってもらう。
 左の壁に1センチくらいの出っ張りがスタンスである。しかも少し外形している。なるほど、荷物があると厳しそうだ。それでも、烏帽子岩山の銀座尾根よりは易しいと思う。確保体勢を整えて、やっと登攀再開。保見さん、チョックストーンの乗越で、支点にギアが引っかかったようで、ずり落ちてきた。すぐ下に後続が待機しており、手段を選ばず越えるように促す。左の罠にはまり、バタバタしてしまったが、何とか抜けていった。
 第二岩峰を越えると、ナイフリッジが続いており、安定した場所でロープをたたむ。程なくして、天狗尾根との合流点である荒沢ノ頭に達する。保見さんにしてはめずらしく、ゆっくりのペースだった。登攀終了後も安心できない。これから、今回の核心ともいえるキレットを越えなければならず、不安がよぎる。この頃より雪がちらつき始める。すでに鹿島槍の頂上はガスに覆われている。東尾根よりも、むしろ、キレットの方が気がかりだった。八峰キレットは、積雪期を含めて3回訪れているが、あまり良いイメージを持っていない。問題なのは、地形の複雑さである。
 何とか北峰に登頂した。強風で留まっていられないので、すぐにキレットへの分岐点を探しつつ下山する。こんなに寒い春合宿は久しぶりだ。程なくしてキレットへの分岐が現れた。この状況ではトレースを望むべくもなく、奈落へと続くような急峻な斜面がかすかに見えるだけである。有効視界はわずか20mで、どこが縦走路なのかわからない。吉村さんと相談した結果、途中で行き詰まって暗くなると、為す術がないのでエスケープを決めた。よほど好条件でないと、突っ込む気がしない。
 エスケープを決めるも、冷池への道のりも厳しそうだ。事態は急転している。飛騨側からの風雪が容赦なくたたきつけ、体を急激に冷やす。視界が悪い中、稜線と斜面の境が不明瞭で、慎重に進む。雪庇の踏み抜きが一番恐ろしい。吊尾根の鞍部を過ぎたところで、南峰への登りになる。その南峰の基部の岩陰で、一人の登山者が立ち尽くしている。東尾根で先行していたパーティーのようだ。そのリーダーと思われる方が、「南峰まで進んだが、あまりにも強風のため引き返して来た」ということだ。しばらくすると、数名が急な斜面をバックステップで下りてきた。「我々は年寄りだから低体温症が心配。ここでビバークする」そうだ。明日天気が回復する保証はないため、少しでも先に進みたかったが、さらに風が強くなり状況は悪化するばかり。われわれもここでビバークすることにした。
 ブロックを積んでいたところへ、同様に東尾根を登ってきた二人パーティーがやってきた。「南峰はこちらで合っていますか。キレットを下っていると思いました。」それほどのホワイトアウトである。
 隣のパーティーはすぐにテントを張り始めたが、我々は風対策にブロックを積み上げる。ますます風が強まり、雪が叩きつける。予定のキャンプ地ではないので、落ち着かないが、早々にテントに潜り込む。
 同じ稜線上にいるはずの縦走隊のことが気がかりだ。無線で交信を試みるが、応答はない。メールによる交信を試みると、返信があった。さらに電話連絡により、予定通り五竜山荘に到着したそうだ。無事で何よりであった。
 一晩中強い風が吹き、テントを揺らした。寒気が停滞するとした予報が見事に的中した。長く続くことはないが、ゲリラ的にやってくる春の嵐は恐ろしい。

5月5日 天気:晴れ、気温:-10℃(ビバーク地)
 朝3:00起床。風はやんでいたが、とんでもなく寒い。とにかく早く危険地帯を抜けたかった。起床から1時間半でビバーク地点を出発した。
 出発しようとしたとき、やっと空が白んできた。朝一の慣れない体で、雪の不安定な急斜面を登らなければならない。昨夜の寒気で、一面エビのしっぽで覆われており、すべてが凍てつく世界である。ピッケルを持つ手が冷たい。これが春の山だろうか?冬山の様相である。
 振り返ると、北峰に続く稜線が赤く染まり、やがてご来光が上がる。何と神々しいことか。東尾根を越えてきた者の特権、早起きは三文の得である。後続のパーティーのテントが、北峰のピークとコルに張られている。みんな無事のようだ。黒部湖を挟んで、朝日に染まる幻想的な剱岳も浮かび上がっている。この景色は、今この場所この瞬間だけの出会いである。
 ミックスのルンゼを避けて、トラバース気味に越えると、南峰の頂上に達した。頂上にはテントが一張り、標柱をアンカーにしてロープを固定されてあった。昨夜、いかにすさまじい風だったかを物語っている。
 南峰を越えると、険しい雰囲気は一転する。多くの軽装の登山者が鹿島槍を目指して登ってくる。冷池山荘ではまるでオアシスのように見えた。楽しそうな笑い声が聞こえる。東尾根で先行していた学生の2人パーティーがのんびりパッキングをしていた。不安なビバークの一夜は何だったのだろうか。昨日のたった1時間の差で、天国と地獄の差が生じた。
 山荘を後にして、稜線から慎重にトラバースして赤岩尾根にとりつく。尾根の傾斜が緩やかになったところで、西沢へのトレースを確認する。古いデブリがあるが、昨夜の積雪は思ったよりなく、早朝のため雪は安定している。西沢を下ることにした。
 トレースを外すと、膝上まで埋まってしまい、下る速度が一向に上がらない。膝が痛いので、アイゼンを外す。大汗をかきながら西俣出合に到着した。ここまで下りれば、ほぼ安全地帯である。そういえば、昨年もここ後立山で寒波に襲われ、あわてて下山したことを思い出した。
 大谷原に到着。登攀隊の合宿は終了した。保見さんの行動は、常に安定しており、期待通りの働きだった。あとは、判断力の引き出しを増やすために経験を積むだけだ。パーティーのパフォーマンスを発揮できたのは、経験豊富な吉村さんのサポートのおかげである。ありがとうございました。
大谷原はトイレ、駐車場が整備されており、公園のようになっている。天気が良いので、濡れた装備を乾かす。縦走隊のことが気がかりだ。昨日、行動予定を聞かなかったことを後悔する。携帯電話が通じないので、無線を開放しておく。完璧に乾燥して、パッキングを終えてもまだ連絡はない。
縦走隊リーダーの安藤さんから、無線が入る。里に下りて初めて通じた。あまりにも声が鮮明なので、稜線上で通じなかったことが、不思議でならなかった。全員無事で、中遠見山あたりを下山中とのこと。これで一安心。
 そして、縦走隊との再会。わずか2日間だが、懐かしく感じた。みんなの日焼けした元気な姿を見たとき、離れていてもパーティーは一つ、ということを感じた。それは、みんなと過ごした春合宿までの道のりのことがあるからだろう。

<コースタイム>
5/3 大谷原発12:12→12:33東尾根取付→13:03東尾根稜線→15:40一ノ沢ノ頭→16:00二ノ沢ノ頭手前ピーク
5/4 起床3:43→幕営地発5:22→5:46二ノ沢ノ頭→6:50第一岩峰→9:08 第二岩峰→12:30 荒沢の頭→13:00鹿島槍ヶ岳北峰→13:20 キレット分岐→14:00 鹿島槍ヶ岳南峰基部

5/5 起床3:00→幕営地発4:35→5:05 鹿島槍ヶ岳南峰→5:40布引岳→6:23冷地山荘→6:48 赤岩分岐(赤岩尾根の途中から西沢へ下降)→8:25 西俣出合→9:20大谷原

Print this pageEmail this to someoneShare on FacebookShare on Google+

コメントを残す