屋久島宮之浦川感想 (係)名越


中島 聡

7月17日~20日
参加者 神庭 中島
<中島感想>
 昨年の宮之浦敗退は、本当に怖かった。竜王の滝高巻きビバークの時などは、心中で家族にも別れを告げる有様であった。それゆえ、今年年初の目標に「宮之浦川突破」を掲げはしたものの、7月が近づくにつれモチベーションよりは恐怖心の向上の方が著しい状況であった。何もしないと怖さに負けそうだったので、「子負いスクワット」「会社棚懸垂」という、意味不明特訓メニューを日々こなしつつ、本番を迎えた。
 明るい材料もあった。6月以降、鹿児島県においてはやまないかと思われた梅雨の長雨がやんだこと。そして、今年は神庭も来るという事。この二点にどれほど勇気づけられたことか。
 さて、本番。寝坊もせずに桜島に集合もでき、順調な予感がする。フェリーも順調、タクシーも順調と来て、朝には自宅にいたのに昼には屋久島で宮之浦川の入渓点。昨年の失敗を全て良い方に生かせてる気がする。と、まあ、沢に入ってしまえば後の行動記録は神庭君が書いてくれているはずなので、私が「あの滝は云々」と書く事も無かろうて。あくまでこれは感想文ですから。
 で、感想としては、装備・ルート・沢について書きましょう。
まずは、装備。昨年も名越さん主導の沢装備には感嘆したが、今年は名越・神庭という装備の鬼2匹が検討した装備であったので、一つの完成形を見た気がした。いくつか列記しておこう。テント。沢なのにテント?と思われる向きもあるかも知れないが、屋久島では風雨に遭う可能性が極めて高い。まして3泊以上が予定されるわけで、その有無により夜間の体力回復度は全く違う。当然ゴア単体でありタープやツェルトとさして重量は変わらない。ロープ。8.2ミリの60mを1本。60mは良い、シビアな登攀でないところならどこまででも延ばせる。登攀的要素の低い宮之浦向きである。30mずつで畳んで、たいがいは半分だけザックから出して使った。登攀具。タイブロックはやはりあると便利。今年は使用しなかったが、いざルート誤りの時に備えて、やはり捨て縄は持っていくべき。カラビナは各人のセルフビレイ用以外には、神庭君自慢の高級ヘリウム(超軽量ビナ)を10枚。支点をとれるところなど少なく、この枚数で確かに十分だった。マンベーの第三巨岩以外には、残置支点は局所単発でしかなく、カム・ナッツが有効なようだった。ナッツとブッシュを制するものが、沢を制するのだろう。ブッシュと言えば手袋。神庭と中島はこれまで沢で手袋などした事が無かったが、今年は名越さんのお勧めによりホームセンターで手袋を購入して臨んだ。中島のは、表面がフリクションの極めて高いウレタンで甲はメッシュになったものである。なるほど、世界の名越が勧めるだけあって素晴らしい。濡れた岩にもピタッと決まる。トゲブッシュも握れる。ヌメヌメの木も、グッチョングッチョンの泥も気にせずホールドにできる。まさに常時A0である。登攀は素手の常識はここに覆された。生活面で言えば、去年と同じく食器はプラ製共同。かさばらず軽量極まりない。当然食糧は、乾燥もの中心である。
 次に、ルート。この沢では、ルートファインディングが全てを決する感がある。そして、全てを鮮やかに決してみせたのが神庭であった。事前の下調べの徹底ぶりと、山で過ごす時間の長さがその能力を高めたのであろう。おかげで我々は無駄な行動をほとんどしなくて済んだ。あらゆる滝の壁のヤブの弱点が、彼の目には明らかなようだ。突っ込みも効くのでこれほどトップに向いた人間は、そうそういはしまい。さらに、神庭のトップ力が一段と発揮されたのは、下降だった。上りより下りは難しい。にもかかわらず、神庭という男は、あらゆる弱点を見つけてみせる。彼の後についていけば、懸垂の必要は無く、どんなところもクライムダウンできてしまうから不思議と言うほか無い。
 最後に沢。これは、あまり書く意味が無いのかも。どれだけ、自然が雄大だとかビルのような巨岩だとか、ものすごいスラブのゴルジュがなどと書いても、やっぱり行って見ないとねえ。人によっては、登れる滝が少なくて面白みに欠けるという評価もあるようだが、それはやはり不遜なような気がする。昨年、死ぬ思いをしたからかも知れないが、とにかく大きさを感じる。その大きさを楽しむ沢なんだと思う。
その大きな宮之浦川を無事遡行することができ、鹿児島在任中に宿題を片付ける事ができたのは、本当にありがたい事だと思う。名越さんと神庭君にはどこまでも感謝したい。そして同時に、自分のことは叱ってやりたい。なぜなら、今回の山行は「ついていった」からだ。昨年の恐怖心を完全に克服していないことや、下降の際に疲れて足取りが鈍くなったことなど反省点は多い。しかし、最大の問題は「ついていこう」とする姿勢があった事だと思う。メンバーが強かれ弱かれ、やはり山行は自分でも組み立てるものだろう。人に「ついていって」はいかん。こういう時にこそ事故が起こったりするものだ。この点については、山岳会員として猛省するものである。でなければ、北又の源頭は一生拝めないと思う。

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